諸伏さん育成キット編 12


 必死に走って、息が切れても尚走り続けて。考えるのはあの優しい人が苦しむ目だけ。ただ一心に、あの人を救いたい思いで走り続けた。この小さい体では人間の一歩がとてつもない距離になるのが、ひどくもどかしかった。

 死の匂いを濃く感じさせる人間の男がいたから、その人生をもらおうとしたんだ。人間として友人に恵まれていて、才能もあって見目も良い。彼の人生を僕のものにできたらきっと僕は幸せだろうなって思って。だから、彼の姿を得た。
 僕が成体になるには、時間がかかる。人間にとってはほんの数か月から数年だろうけど幼体のままでは死にやすい僕たちにとってはとんでもない時間。だから、人間に育ててもらう。
 優しそうで、過去に子供や動物を育てたことがある人間を探していたら彼女を見つけた。はせがわみすずちゃん。よく僕を撫でてくれる、優しい人。まるで母親のように友達のように僕を愛してくれた。僕の大好きなひと。
 夢を通じてオリジナルと精神をリンクさせて、彼の記憶や人格をコピーする。彼が僕の夢を見るたびに僕は成体に近付いていく。成体になって、彼が僕になったら、みぃちゃんと恋人になりたいな。きっと彼女なら、僕と一緒にいてくれる。人間じゃない僕でも受け入れてくれる。
 でも、僕は成体になれないようだ。
 みぃちゃんが目の前で倒れそうになってうずくまって、すごく苦しそうにしている。口元をおさえて酷く息苦しそうに目をつむっている。
 『どうしたの』と声をかけるも幼体の僕では言葉として彼女に伝わらない。背中をさすろうにも小さな体では何もできない。助けを呼ぶにしても、この姿では何もできない。みぃちゃんを助けたい。でも、どうすれば。
 必死に考えて考えて、思いついたのは僕が成体になることを諦めることだった。オリジナルとのリンクはもう九割終えているが、今から成体になって人間に成り代わるには時間がかかる。でも今リンクしたまま僕が中断させれば、成体になることを諦めればオリジナルが何か気づいて彼女を助けてくれるかもしれない。助けてくれないかもしれない。そうするには、僕はいなくなるしかない。
 成体になれなくなるけど、この人が助かるならそれでいい。大好きなご主人様を助けられればそれでいい。僕はいなくなってもいい。だから、本当の子供のように僕を育ててくれたママをたすけて。
 今まで身をゆだねていた器を動かせて、オリジナルに会いに行った。
 僕は、できそこないのドッペルゲンガーだ。

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