赤井さん育成キット編 08
Side:akai
最初の印象は、いつのまにか死んでいそうな人だ、と。そう思った。
あまり覚えていることは少ないが、そう感じたことだけは鮮明に脳へ刻まれている。
身の丈以上の大きなダンボールの中で、ごわついたタオルを積み上げてなんとかよじ登って見えた光景が、彼女の姿だった。重そうな荷物を大事そうに抱えて、疲労を隠せないほどにくたびれた表情でこちらを見下ろしていた。
どうした、と俺が声をかけてもそれはちゃんとした言葉にならなかった気がする。
視線をそらされて再び歩き出した彼女に、このまま放っておいてはいけない気がしてダンボールから抜け出した。ひび割れて歩きづらいアスファルトのうえを駆けて何度か転んでも、立ち止まることはなく彼女のもとにたどり着いてからは足にしがみつく。離したくないと思ったのは、なぜだったのだろうか。
放っておいたら死にそうだったからか、それとも卵の刷り込みのように最初に見た彼女に惹かれていたからなのか。
それから目が覚めて、夢だったと気付いて、胸が苦しくなった。
離れたくない、そばにいたかったのに。夢で感じた感情に引きずられて気づかぬうちに涙が流れていたことが、今でも忘れられないでいる。
少年探偵団と美術館へ向かう道中。犬を連れて公園を散歩する人の言葉に反応してしまい、少年たちに気遣われたがなんでもないと返して歩みを進める。
日本で犬の名前として使われることの多いらしい、ポチという名前。夢の中で彼女に何度もそう呼ばれていたからか、こうして女性の声でポチと呼んでいる場面に遭遇するとどうしても反応してしまうようになっていた。……あの夢はもう、見ていないのだが。
一体何がきっかけだったのかはわからないが、赤井秀一が沖矢昴になってから何回も見ていた夢を見なくなった。生活スタイルが変わったからかと思ったが、あの夢を楽しみにしていた分、日常に物足りなさを感じることさえある。彼女の出てくる夢は、日がすぎるごとに風化していってしまっていた。
もう、声さえ思い出せない。
そう、思っていた矢先に、美術館で盗難事件が発生する。人数の少ない時間帯と場所での犯行。興味を示した探偵団の付きそいとして同行していたときに、既視感のある女性を見つけた。彼女に、夢の中で見つけた女性に似ている。
言動を見れば彼女に似ているどころか、同じだとしか思えなくなってくる。イラストレーターだという彼女は、夢でよくパソコン仕事をしていたから構って欲しくてちょっかいをかけていたのをわずかながらに覚えている。だが、まさか。あれは夢でしかないはずだ。
「また……会えますか」
事件が解決するなりすぐ帰ろうとする彼女を引き留める。このままでいたら、今度こそ会えない気がしたから。
思い出せないはずの声を思い出させてくれた彼女は、夢で出会った人と同じだろうか。交流を深めれば知ることができるかもしれない。違うという可能性もあるが。
ただ、一度だけで良い。その声で俺の名前を呼んでくれ。
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