不可視の視界


「僕はにっかり青江。うんうん、君も変な名前だと思うだろう?」

 初めてこんな挨拶の仕方をしたが、不自然ではないだろうか? とは思ったが、目の前にいる若い審神者の反応を見れば自然だったようだ。良かった良かった。





 刀剣男士に成り代わり Inにっかり青江



 夏休みの旅行先で事故にあってから、気づけば刀剣に成り代わっていたという自分好みのオカルトな体験に驚愕した。幼い頃からオカルトだとかホラー、人ならざるものが出る作品が好きで、こんな目にあってしまったが案外楽しんでいる。
誰かにバレるなんてことがなければ付喪神に成り代わるような体験なんて、そうできるものではない。
しかも、自分を顕現させたという審神者もなかなかに面白い。
彼は若いが呪術に耐性があるらしく、普通に審神者として就任させられずに、呪術関係の勉強をし浄化だとかそんな仕事をよく任されたりし、審神者としての仕事は非常時に代理的審神者としてたまに赴くだけだ。
勉強風景や呪いの道具やら呪物やらを見させてもらうことが多いから、以前の生活より充実していて楽しいし、この呪術関係に詳しい審神者の竹先輩から教わることは全て興味深いものだった。

さて、そんな私の主も一人前として一人で仕事を任せられるようになった。
仕事内容
着任した審神者は皆変死してしまうという本丸がある。そこへ赴き原因を一週間以内に探れ、とのこと。


*   *   *   *   *


2xxx/08/**/*
調査報告書

調査責任者:**** 審神者名:竹 近侍:無し
調査員名:**** 審神者名:**** 近侍:にっかり青江

・一日目
**:** 指定された本丸へ到着致しました。
外観はどこにでもある一般的な本丸と見受けられます。本丸に住む刀剣たちにも異常行動は一切見られず、事件内容さえ知らなければどこにでもある本丸のように思えました。近侍のにっかり青江も、特に変わった様子は無いと言葉をもらしていました。
 ぐるりと本丸の外周を見て回りましたが、異変はありませんでした。屋敷神の祠にも異常は見られず、最後の審神者が着任してから掃除されていないようでしたが、案外綺麗なままでした。

 **:** 本丸の中へ入りました。
 最初は「悪いことは言わない、この本丸のことは忘れて帰ったほうが良い」と言っていた刀剣たちですが私が調査のために来たといえば離れを案内してくれました。本丸を歩く場合は刀剣の誰かを連れ歩くようにと言われました。
 目に生気はあり、怪我は見受けられず。唯一岩融が軽傷でしたが、審神者不在のときに結界が緩み敵が一体のみ流れ込んできたために討伐した結果だそうです。手入れを申し入れると、快く受け入れてくれました。
 なぜこの本丸を忘れたほうが良いのか、なぜすぐに帰らせようとしたのか。案内してくれた刀剣の燭台切光忠に問うてみましたが「わからない。でも、ここは危険なんだ」とのこと。
 なぜ危険なのかと聞けば彼は、ここに着任した審神者だけが異様な死に方をして発見されると答えてくれました。
 詳細を聞こうとしましたが、初期刀たちのような古参のほうがよく知っているから後日聞いたほうが良いと言われ、その日は離れで休みました。
 ただ、離れに向かう道中ずっと、近侍のにっかり青江が庭を見つめていたのが気になりました。彼は「何でもないよ」と言っていましたが注意深く観察しようと思います。

2xxx/08/**/*
調査報告書

調査責任者:**** 審神者名:竹 近侍:無し
調査員名:**** 審神者名:**** 近侍:にっかり青江

・二日目
 一日目深夜は青江に止められたので本丸の調査は取りやめ、彼に調査を任せました。審神者部屋から手記を見つけてきてくれましたので、現物をこんのすけに持たせます。
 内容を一部省略し要所だと思われる部分を記します。
*夕刻に北側東側の縁側や廊下を歩くと、何者かの足音がする。振り返っても何もおらず、刀剣もその場にいなかったと言う。
*それは夕刻の日が当たらない場所でしか聞こえないようだ。実際、廊下は日の光がなかった。
*ぼやけた人型が見える。近づくと煙のように消えた。刀剣たちは見えないらしい。
*あのぼやけたものは塩が苦手らしい。以前近づいたときは念の為に塩を持っていたために消えたらしい。持たないまま近づくが、何も感触はなかった。
*それは、消えてもしばらくすればまた現れるのだそうだ。
*それは一日中ずっと同じ場所にいる。

 **:** 話を聞くべく、一室に案内されました。
 話を伺ったのは初期刀の歌仙兼定と古参の前田藤四郎と岩融。
 曰く。この変死続きは突然起きたのだそうだ。最初は初代審神者が、その次は引き継ぎ審神者が続いて三人も。気がついたら庭で死んでいるんだそうだ。
 最初の頃は敵の仕業かと思ったが、結界は問題なく張られている。
 ここで、ずっと庭を見つめている青江が気になり声をかけると「あのお方はどうしてここにおられるんだい?」と。もちろん庭には何もいない。
 部屋の外で盗み聞きしていた刀剣たちが泣き出して阿鼻叫喚でした。何がいたのかと聞いても彼は、僕もわからないと言うだけであまり語ってはくれませんでした。
 その日はお開きにしました。

2xxx/08/**/*
調査報告書

調査責任者:**** 審神者名:竹 近侍:無し
調査員名:**** 審神者名:**** 近侍:にっかり青江

・三日目
 **:** 庭を中心に捜索。
 何か呪術の痕跡があるわけでもなく、何かが見えるということもなく。
 途中で青江が姿を消しましたが**:**には戻ってきました。茶を入れるために台所へ向かっていた道中に妙な空間があったとのことでした。
 北の台所へと向かえば、確かに妙な場所がありました。本来ならば食べ物を仕舞う台所蔵があるはずの場所が無いのです。どこの本丸一部を除いて間取りは同じはずなのに、この本丸にはそれがない。これは異様でした。壁を叩くと、の壁と違い軽い音がしました。
 壁を壊してみました。その先には空間が広がっており、本来社に収められているような御神体が安置されていました。おそらくこれが今回の事件の原因だと思われます。
 政府へ報告し、御神体はちゃんと清められ本来あるべき場所へとお帰り頂きました。
 年のため、あと三日程滞在いたします。

2xxx/08/**/*
調査報告書

調査責任者:**** 審神者名:竹 近侍:無し
調査員名:**** 審神者名:**** 近侍:にっかり青江

・四日目
 **:** 本丸審神者部屋にて
 特に異常は見受けられず、手記に記されていた「夕刻廊下の足音」は一切ありませんでした。
 かつて審神者と同行していたときにこの足音を聞いていたという刀もおりましたが、このことに安堵しておりました。
 青江を観察しておりましたが、庭にいたという何かもいなくなったとのことでした。



以降、五日目六日目も問題が起きることはありませんでした。
政府へ本丸を明け渡し、通常業務に戻ろうと思います。
私が来た時に、他の審神者のように被害を受けないようにと帰るよう諭してくれた優しい刀剣ばかりなので、次の審神者が来ても問題なく運営できるでしょう。

*   *   *   *   *


 夕刻の廊下を歩く刀剣が一口。
 今まで抱えていた問題が解決しこの本丸が安定してきたことに安堵した岩融だった。
 今までの変死事件は壁に埋められていた御神体のでいで、その御神体を取り除いてからは怪異はピタリと止んでいた。
 きっかけは初代審神者が庭で変死していたことが始まりだった。
 いつも道理の日常が訪れるはずだったある朝、庭で主の屍を見つけた。それからは何人かが引き継ぎとして審神者がやってきたが、皆同じように庭で屍となり見つかった。
 もう、人をこんな目に合わせたくない。その思いからいつしか審神者を受け付けないと決めたのだったが、つい最近現れた脇差を連れた人間がその絶望を変えた。


 今までの審神者は、二日と経たずに屍として見つかったのだが、彼らはもう六日とたつのにまだ生きているどころか、変死の原因まで探し出してくれた。
 壁の中の御神体。
 北東の鬼門に作られた蔵に配置することで邪なるものから守ってもらっていたそうだが、その力も果て堕ちてしまい、審神者の力を奪うことで力を取り戻していたのではないか、というのが先日来た政府職員の考察だ。


 ようやく刀剣として審神者に使ってもらえる、とこれからに期待し日の光が通らない廊下へ入ったそのとき、後ろでギシリと足音がした気がした。
 反射で、素早く振り返ったが何もいない。

「……誰だ」

 返答はない。
 あれは、審神者だけではなかったのか? と、考えるもその原因は先日取り払われたではないかと思い出す。
 この本丸とてもう古い。きっと、家鳴りだろう。そう決めつけ足早に廊下を出た。
 また、ギシリと音がしたような気がした。


*   *   *   *   *


日もすっかりと落ち、薄暗くなってきた頃。
 庭であの審神者の近侍であるにっかり青江を見かけた。
 思えばこのにっかり青江は当初から見えていたのだろうか。昼間は庭を見つめ夜になると本丸の台所近くで彷徨いているのを何度か見かけた。
 さすがは、霊を切り捨てた刀剣というべきか。
 一人で彼に対し感嘆していたが、一つ妙なことに気づいた。

 もう、御神体は取り除かれたはずだ。なのになぜにっかり青江は庭を見つめている?

 先ほどの足音といい、この青江といい、実は解決なんかしてはいないのではという嫌な考えが過ぎり、冷や汗が背中を伝う。
 薄暗い本丸の庭。じきに一寸先すら見えなくなるほどの闇が訪れるだろう。そんな中響く虫の声が余計に不気味さを増していた。


「どうしたんだい、顔色が悪いよ」

 庭から視線を移し、こちらへと二色の目が見つめる。
 本来ならば不気味だと思えるかもしれないその目に、なぜか安堵する。
 きっとそれは自分には見えない何かを見ることができるという頼もしさからだろうか。

「いや、庭を見ているようだったからな。まだ怪異の原因がいたのではないかと考えてしまっただけだ」
「ああ、そうだったんだ」

 また、彼の視線が庭を向く。その先をたどると池に突き当たった。
 ……ただ、彼は池の鯉を観察していただけなのか。そう思いつくと先程までの緊張感はとけてなくなった。

「あの審神者はどうした」
「今政府の所へ報告しに行ってるよ。きっと、次のお仕事の話もあるから明日には出て行くよ」
「うん? ここの主になるのではないのか」
「そうだとしたら最初から引き継ぎだと言って来ているよ。僕たちはあくまでこういった事件事象を解決するためにいるからね」

 この審神者と刀剣であれば、是非とも仲間になってもらいたかったのだがな、と考える。
 以前訪れた審神者と違い生き延びて、短刀たちに構ってやれるような良い審神者だったと思ったのだがそれは仕方あるまい。


 そろそろ就寝する時間だと席を外したとき、にっかり青江に言われた言葉が気になった。



「部屋の戸はちゃんと、閉めて寝るようにね」

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