水音のおくすり
01 水の音
それは、彼が縁側で体を休めているときのことだった。鶴丸と女性の好みの話をしており、一期が、女性らしくて柔らかく髪の長い人が好きだと聞いたのがきっかけである。
偶然耳にしてしまった燭台切は動揺してしまい床板を鳴らしてしまったが、2人は気づかずに会話を続けている。燭台切はずっと、一期一振に懸想をしていた。故にこうして心臓を締め付けられるような思いをしながらも声を押し殺し、残酷にしか聞こえない言葉に耳を傾けていた。
誰でもない、他の一期一振でもないこの本丸の彼を想うようになったのはいつからだろうか。彼の視線を辿れば妙に女性が多いような気がして、以前の主の影響かと考えれば他の一期一振はそうでもなくて、見比べ観察しているうちに、彼の良さを知り普通の一期一振との違いを知り、惹かれてしまった。
彼が女性を好きなのは知っていた。だからこそ、諦めきれなかったのだ。
「燭台切殿、なぜ」
「……ごめんね、でも、君が悪いんだよ」
勝手に惹かれ勝手に責任を他者に押し付けてしまう。
今の状況を説明するならば、燭台切は一期一振に夜這いをしていた。薄着で通和散を口に含みつつ丁字油片手に、一期に馬乗りになっていた。腕は一纏めに結ばれ目隠しまでされ、上に乗っている燭台切がどういう格好をしているかを知らない。戦で疲れ、熟睡している間の行為であった。
「ごめんね」
再度謝罪の言葉を告げる。服は両者共にはだけているために、一期が寒さに身をよじらせる。
「ああ、寒いよね。最近気温が下がってきてるし……大丈夫、すぐに暖かくなるよ」
ぐじゅり。一期の見えない視界の先で、湿った水音のような何かを聞いた。
* * * * *
02 おくすり
欲がないんだね、どうして何も欲しがらないの
そんな言葉を聞いたのは、自らの本体でもあり武器でもあるそれを手入れしているときだった。
問いかけたのは鳴狐。問われたのは蜻蛉切。
いつもそばにいるはずの狐はどこにもおらず、またたいして関わりのない関係であったためにこうして同じ部屋に2人きりということが、蜻蛉切を動揺させていた。
つい先ほど、任務成功祝いになにが欲しいのかと審神者に言われたばかりであった。他の仲間が酒だなんだと希望をあげるなか、自分だけは欲しいものが思いついずに何もあげずに保留にさせてもらったのだ。「以前の記憶」から、私は私の物を奪われてきた。大切なものを始めたした、たくさんのものを。そうして生きてきた結果、今の自分は欲がなくなってしまったのだ。
「そう、言われましても……元来自分はこうである、と、しか……」
言葉を口にして、体に違和感が起きる。妙に熱い。一体どういうことだと周囲を見ればぼんやりとした視界が広がり、うまく立てないでいた。……毒か、なにかか。
敵が侵入し煙でもまかれたかと、うまく動かない頭を動かして自らの槍を握ろうとした、が、その手は鳴狐に阻まれてしまった。
「なに、を」
「欲しいものが、あるんだ」
いつのまに、こんなに近くへ寄ったのだろうか。顔と顔が触れそうになるほどに近い。
修行不足を感じながらもその手を払うことさえできないでいる自分に、苦痛を感じる。
「ねえ、僕を求めて、欲しがって」
珍しく、多く喋る鳴狐。彼はいやらしく笑いながら私の肩を掴み、ゆっくりと押し倒す。
「く、っ……一体、何を」
「主に、祝いにお薬をもらった。僕が欲しくなる薬」
打ち粉に混ぜさせてもらった。
馬乗りになって鳴狐が私に話しかけているようだが、意識が朦朧としてよくわからない。
ああ、体が熱い。
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