めじろまるさん


 がちゃん、と、嫌な金属音をたてて刀が地に落ちる音がした。
 近侍でもあり初期刀である加州清光は嫌な気配を察知し、音の出処である審神者へと目を向ければ審神者の足元には仲間である刀剣男子の本体である刀が乱雑にあった。
 持ち主である刀剣男子の姿はない。短刀、脇差、打刀。それぞれが落ちている。

「あ、主……?」

 声をかけても返事がない。いつもは朗らかな笑顔で迎えてくれる主人はただ無表情に地に伏せた物言わぬ刀を見つめ、ようやくこちらを視界に入れた。
 明らかな異常性を持った目をしていた。まるで、狐にでも憑かれたかのような気配を纏っている。
 主、否、もうあれは主ではない。なにかに取り憑かれた審神者がこちらへ右手を翳し向かってくる。
 得体の知れないそれに、加州はその場から退却した。あのままでいれば仲間のように、何もすることができない刀に戻される上、切ることしかできない自分では審神者を傷つけてしまう可能性があるからだ。
 背後から金属物の落下する音が響く。
 一体どうして、どうすれば、どうにかしないと。そればかりが頭の中を巡り良い案が思い浮かばない。
 こういった事象に詳しそうな刀剣はまだ新任とも言えるこの本丸には一切おらず、頼れる刀である新選組の刀はほとんどおらず、唯一存在する大和守安定は来たばっかりで練度も低く頼りにはできない。

「加州!!」

 聴き慣れた声で名を呼ばれ、振り向けばよく見知った刀が重力に従い地面に落ちた。
 初期刀として、新選組の刀として、どうにかせねばならないと思いながらもどうすることもできず。

「たす、けて……」
「拝命する。まあ、せいぜい期待に添えるようにしようか」

 一振りの太刀が現れた。


 敵勢組織対抗策として特殊機動部隊なんてものが存在する。
 前線に立ち敵を打ち倒す者、勃発する呪術や怪奇に対応する者、敵地へ偵察に赴き情報を掴み取ってくる者など、仕事は多岐に渡るのだ。
 この本丸に立つ鶯丸、もといある人間の記憶を持つ鶯丸もその特殊機動部隊の所属刀剣であった。まあかつての自分の話、なんてどうでも良いだろう。
 今回の任務は敵勢組織に操られた審神者の救助だ。仕事自体はいままで行ってきた任務と比べれば難しくはなく、ここの審神者は見たところ敵勢組織が送り出してきた術者によって操られているように見受けられる。
 あー、早く帰って甘いもの食べたいとかのんきに考えつつ目の前で涙目になりつつも呆然としている麗しい刀剣、もとい加州清光に声をかける。

「無事か。あとは俺に任せてくれ」
「でも、主が」
「今は操られているだけだ。俺を信じると良い」

 後頭部にかすかながらも羽音がするから、恐らくは蟲を使って操っているのだろうよ。
 加州清光の前に立ち、己の半身である刀を下段に構える。
 敵方も、厄介なことになったと判断したのか隠れ潜んでいた短刀や脇差らが姿を現し始めていた。これほどの敵の侵入を許してしまうとはな。生きて捉え、拷問部隊にでも引き渡さないとな。

「殺すのは好きではないのでな。命が惜しいなら引け!」

 ただし、逃がすとは言っていないが。



 戦況は一変した。
 あの太刀が現れてから戦場となった本丸は彼の独壇場となり、彼の主であろう審神者も救助に加わったこともあり地に落ちたのは仲間の刀ではなく敵刀の破片ばかりとなった。

「加州、無事!?」
「……惚れた」
「は?」
「なに、あれ。格好良すぎる。やばいどうしようあんなに敵いたのにたった一振りでなぎ払っちゃったし主に斬りかかったかと思ったら斬ってなかったのに主が正気に戻ったしやばいなにあれどうしよう!!」
「お前がどうしたんだよ」

 今だに高鳴る心臓がうるさい。 危機的状況をたった一振りで打破し救ってくれた存在に落ちてしまうほど。


 敵は一部逃げてしまったものの、生け捕りも成功し任務の目的であった救助も無事に達成し終了した。
 審神者は操られていたことによる副作用によって仕事を続行不可能となり引退となったが、たいした怪我も破壊された刀もなかったのでまだ良いほうだろう。残った刀は刀解されるか他の審神者に任されることになることが決定され、加州清光にもその選択肢を選ばされたもだが。

「俺、鶯丸さんについて行きたい」
「うん?」
「主っ! これからよろし、否、よろしくお願いします!!」
「おう、いいぞー。な、メジロ丸」
「えっ」
 おいまてハゲ何勝手に決めてんだあと俺は鶯丸だ
 いいじゃねえかよこれくらいあとハゲじゃねえスキンヘッドだ
鶯丸のとなりで寛ぐ新しい主人となる審神者に頭を下げ懇願すれば気の抜けるような了承の声に安堵する。

「まったく、こんな簡単に決めて良いのか? 機動部隊は楽じゃあないんだぞ」
「何かあったらメジロ丸が守ってやれば良いじゃあないか」
「当たり前だろう、年下を守るのが年上の役目なんだからな」

 呆れたようにそのセリフを吐き捨てる鶯丸に、俺は、また惚れた。


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