小噺集


01 一期一振成り代わり
彼の好みを知るためにはどうすれば良いのだろうか、と思い至ったのがつい数刻前。
 人の好みを知るには、その人の所持品から推理すれば良いと、どこかで聞いたのがつい先ほどのこと。
 僕は、彼のことが知りたい。
 いけないとは知りつつも気になってしまい、彼の兄弟でさえ入室を禁じられている粟田口長男の部屋を伺った。短刀たちは池田屋に駆り出されているし、一期君は審神者と出かけておりこの本丸にはいない。

 部屋に入る。以前訪れたときと同じ、がらんとした部屋だ。
 文机と、花もない花瓶だけが、この部屋に配置されている。寂しい部屋だ。夜中、暗い状態でしか見たことがなかったためにさして気にしていなかったが、こんなにも殺風景な部屋だっただろうか。
 襖を開けても、そこには布団とか服とか、そういうのばっかりだ。

 そっと、布団の中に手を突っ込んだ。
 あんなキレイな顔をして、実はこんなところに春本とかないかなあとか想っていたが故の行動だが、少し埃が舞っただけでなにもなかった。柔らかな感触の布団。あのときの布団だ。
 他を見て回っても、それらしきものがあるような気配も影もない。意外だ。いつも女性ばかり目で追っていたから、そういうものもあると思ったのに。
 そろそろ一期君が帰ってしまうような時間だな、と思い至る。
 何の成果もなかったのが悔しい。人の目がないことを良いことに、部屋にごろりと転がる。すると、文机の下に積まれた本が目に入った。
 園芸、兵法、図鑑など、様々な種類の本だ。それの一部のカバーがズレて、下からまったく別の表紙が覗いているのに気づいた。

 飛び上がって、その本のカバーを外す。肌色の多そうな本だ。
 ようやく見つけた。短編集らしく、表紙にはたくさんのタイトルが並んでいる。「おっぱいがいっぱい」だなんて頭の悪そうなタイトルがあったことから、一期くんは胸が好きなのかもしれない。
 ……自分の胸を見下ろす。刀剣男士らしい、鍛えられた胸筋がある。

……揉んだら柔らかくなるかなあ。



 一期一振の部屋にて、如何わしい書物を読みふけっている燭台切光忠を見ている刀剣が一振り。
 真っ白な着物を身にまとう刀剣は一人、しまったと呟いた。まさか、目的の人物に披露するまえに別の人物に見られてしまうとは、と。
 とんでもない誤解を招いてしまったと同時にこれからどうすべきかと、鶴丸国永は後ろから訪れる足音に気づかぬまま頭を抱えた。
「一体、何を、しているのですかな?」



02 にっかり青江成り代わり
 審神者の仕事を手伝うために、青江と三人である本丸へやってきた。
 特殊機動部隊として、この本丸にある怪奇現象の原因を突き止めろとのこと。
 そこの刀剣は、殺気立っていた。
 今すぐここから出て行け、と。雰囲気では殺気を出して脅しているものの、その目を見ればわかる。数日前の自分と同じだ。人間に危ない目にあわせたくないから、こうして危険から遠ざけようとする。
 審神者が交渉をするも、一歩も譲らない刀剣たち。
 さて、どうしたものかなあと隣にいた青江に、青江……。
 青江がいない。

 どこへ行ったと周囲へ視界を動かすと、彼は門の向こうへおり、そこから一歩も敷地内へ入っては来ていなかった。

「どうした、青江よ」
「いやあ、だって」

 ずっと君たちのこと見てるから、あんまり近づきたくないなあって。


 なにが。
 だれを。
 にっかり青江の真顔での返答に、そこにいた者は皆顔を青ざめた。
 先程までの威勢はどこへやら、やっぱり行かないでええええええと叫ぶ刀剣にいやあああああああと羽交い締めにされている審神者。おい審神者よ、仕事をしろ。



そのあと、暫く阿鼻叫喚が続き。お腹がすいたからはやく終わらせて欲しいと言い出した青江に審神者が半泣きながらも仕事を続行し、この事件は解決した。
しかし、帰り道に青江はぽつりと呟いた。
「ごめんね、あれは嘘だったんだ」

 嘘。
 だが、あれのおかげで問題のあった本丸が一つなくなり、そこの刀剣も審神者も救われた。謝るほどではないと答えようと口を開けたとき。

「ずっと見ているのは君だけだよ」

まって。

「まあ、近くの山の神様みたいだし、害は無いんじゃあないかな」
「ああ、なんだ」

 よかった。害はないのか。いやよくない。
 山の神が女性である、というのはどこかで聞いたことがある。故にあのように見目麗しい男ばかりの本丸にいたのも頷ける。そこで、審神者が、かろうじて聞こえる声で囁いた。



「ずっと見ている、ということは、今も?」





3.鯰尾成り代わり
「ぎねさんぎねさんつかれたーっ」
「うおっと」

 背中にかかる衝撃。
 後ろを向けば鯰尾藤四郎、もとい、鯰尾藤四郎モドキと言うべきだろうか。
 脅して仮の恋仲になり、それから本当に想い合う仲になってから幾日がたっただろうか。
 背中をよじ登って、首に腕を回される。少し苦しいが、鯰尾の顔が近くにあって顔が熱くなってしまう気がした。
 耳元で、静かな寝息が聞こえた。

「え、嘘。まさか寝ちまったのか?」

 珍しい。いや、そもそもこうやって甘えたり人の前で寝てしまうのすらなかなか無かった。脇差として器の年齢に引きずられることなく、人であったときとおなじ精神年齢であった彼はそういったことはしたことがなかったからだ。

「すみません、御手杵殿」
「いや、構わないけど」

 だらんと下ろされていた足を抱えて、おんぶする。
 一期が代わると言うが、腕が離れないと言い訳して断った。この温もりを奪われたくはない。
 遠征から本丸に戻る。いつもは人前で眠らない鯰尾に審神者が疑問に思い、調べたところ赤疲労。それは、疲れているはずだ。こうなってしまうのも頷ける。疲れを隠すのがうますぎて、倒れてしまったという噂を耳にしていたこともあり、遠征に行っていた部隊は休憩することとなった。
 自分は、鯰尾をおぶさったまま自分の部屋に戻る。静かな部屋。他の刀剣はほとんど遠征や出陣をしており、人の気配すらまばらである。2人だけの空間。

「すみません、抱えてもらって」
「なんだ、起きてたのか」

 ずるずると、首から腕を緩めてずり落ちた。が、腕は離していないので後ろから抱きしめられている状態。……なんだ、これ。今更ではあるが恥ずかしくなってきた。

「狸寝入りしてたのか」
「うん」

 最近2人っきりになれてなかったからさ、と小さく囁かれる。
 顔が、熱い。




4.山姥切成り代わり
 濁った瞳に、不可思議な首の痣。自分へと向けられないその目を、狂おしく想うようになったのは、いつからだろうか。
 ああ、たしか、あのときだ。
 主からもらったという、まだ幼い胎児のような作りかけの、ただ美しいだけの鉱石でできた小刀だ。彼がその小刀を目にしたときだけ、彼の瞳は美しく輝いた。
 その、刀にしてはあまりにも幼く力の無い飾り風情が、今はどうしようもなく妬ましい。

 私も、あの小刀のように見つめられてみたいものだ。
 この場所に顕現させられてから、私にはあの濁った目しか見たことがないというのに。胸が、張り裂けてしまいそうだ。


 彼の傍に佇む。
 彼の目は、甘い飴のように、まるでとろけそうなほどに輝き、光が満ち、煌めいている。だがそれを捉えているのはあの小刀。瑪瑙でできた、複雑な文様の未熟な剣。自らの鋼でできた刀身では到底真似できない色。


 後ろから、そっと首を撫ぜる。
 ぐるりと一周するように浮かぶ痣を指先でなぞろうと、彼は何の反応もしない。あったときから、彼はなにかと関心が薄いのは分かってはいたが、これはどうしたものか。締められるとは思わないのだろうか。

 相手すらしてくれないことにため息をつき、指を離す。まるで麻縄でくくったかのような痣を眺めつつ、彼はどうすれば自分を、甘い目で見つめてくれるのだろうかと思案する。
 どうか、私を見て、とでも言うかのように、彼を後ろから抱きしめる。身長差のせいか覆うようになったためか、私の水色の髪が流れ、彼の手元が隠れたことに、少しだけ満足するが。
 ようやく。私に向けられた目玉は鈍く濁っていた。

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