月陰る
「三日月宗近。打ち除けが多い故、三日月と呼ばれる。よろしくたのむ」
桜が舞い、審神者らしき人間が視界に入る。
花びらが落ちて消える頃、まるでねじ込むように記憶が頭の中に侵入してきた。
なんて、おこがましい。
刀剣男士に成り代わり in三日月宗近
気がついたら刀の神様? に、なっていた。その神様の記憶もねじ込まれたけど、まだわからない。成り代わったの? 憑依したの? なんで?
両親の欠点ばかりを受け継いだ汚物と言っても良いくらいの醜い私が、天下五剣で最も美しいといわれる刀の神様に成り代わるだなんて、なんておこがましい。
本丸、審神者、刀剣男士、歴史修正主義者、わからないはずなのにわかっているだなんて、気持ちが悪い。
きゃいきゃいはしゃぐ若い審神者、らしき人を放っておいて、冷却材に映る今の私の姿を見て、無駄に整った綺麗な顔が視界に入る。夢でも見ているのだろうか。
なんておこがましくて、絶望的な夢なのだろうか。
* * * * *
三日月の日記
x月x日
以前の習慣に引きずられて、日記を書く事にした。文字にすることで頭の混乱がマシになるかもしれない。
これは夢じゃあない。歴史を修正することを目的とする敵組織と戦闘して怪我をして、これが現実だと改めて思い知った。正直言って、かつて不細工に生まれた罰なのかと思った。
物騒な技術なんて一切必要ない中で育った自分には辛い。三日月の記憶があるからなんとか敵は倒せたが、内心はすんごい悲鳴あげてた。
夕飯は、味気ない惣菜だった。まだ審神者を始めたばかりで料理できる刀剣もいないので、こうなってしまったんだそうだ。
……私のような刀剣ならまだしも、審神者のような育ち盛りにこの食事はどうよ。
x月x日
早くに起きたので、朝食を作ってみた。三日月の着物は面倒だから着流しだけ着て、台所に立った。案外現代的な器具と良さ気な材料があったから良い朝食ができた。
審神者はまだ若く育ち盛りなのだから、ちゃんとしたもの食べさせないと。
以前の私と違って、将来を期待できるし。
戦場へ行ってきた。まだ戦場独特の火薬の臭いと斬る感覚に慣れない。次郎太刀に心配されてしまった。
なにか戦場を忘れられるものはないかと思えば、洗濯物がたまっているそうだ。審神者は今まで洗濯なんかしたことがないらしく、業者に頼んでいるそうだ。お金がもったいないな。
本丸に備え付けてあった洗濯機の説明書を見ながら自分で洗濯してみた。これくらいならば一人暮らしのときやったことあるから、ある程度はできた。血の汚れは手入れで綺麗になくなることがわかってよかった。落ちにくいからね。
x月x日
鏡を見るたびに、違和感しか感じられない。
自分みたいな醜いものが、こんな美しい神様の器にいるだなんて、恐れ多い。
x月x日
なんで私はここにいるんだろう。
x月x日
新しい刀剣が来た。短刀だ。
今思えば、ここに三条の刀がいなくて良かった。中身が違うとバレたら何をされるかわからない。怖い。
x月x日
検非違使にも安定して勝てるようになった。審神者のために献立を考えるのも楽しくなってきた。本当の自分のことなんか考える時間がなくなってきて、気が楽になったような気がしたけど、審神者から噂の三日月らしくないねって言われてから、冷や汗が止まらなかった。
今、自分は三日月なんだから、三日月にならなくちゃ。バレたら何されるかわからない。
x月x日
新しい刀剣が来た。歌仙兼定というらしい。
料理が好きらしいので、教えてみた。以前の自分より経験ないのにすぐに上手くなって、流石神様でイケメンは違うなって思った。
自分は慣れるまでかなり時間がかかったのにな。顔面が良いと恵まれるってのは本当かもしれない。
x月x日
綺麗っていわれたけど、お世辞いってるようにしか聞こえない。何か裏があるんじゃあないかって考えてしまう。
でも今は三日月なんだ。三日月にならなくちゃ。
三日月じゃあないって知られたら、何されるかわからない。
政府の実験台にされるか、歴史修正を目論んでいる敵側のスパイと思われるかもしれない。
x月x日
次郎太刀は大太刀だからなのか、よく飲む。そしてよく食べる。
自分じゃあなくって料理を褒めてくれるから、次郎はとても好ましい。
逆に、歌仙は苦手だ。風流だとか雅だとか、不細工で醜い自分には不相応でしかなかったから何も知らない。三日月が博識で良かった。
x月x日
最近、家事をするために着流しが標準装備になっている気がする。
あの服戦闘用だから本丸じゃあ動きにくいんだよなあ。
仕事のないときとかだけでも極力あれを着るようにしなくちゃ。自分は三日月なんだから。
x月x日
次郎太刀を筆頭に審神者などから着流しのほうが良いと言われた。
あの服だとお堅い印象があるからとっつきにくいんだとか。
歌仙兼定は戦闘衣装のほうが良いと言っていたんだけどな。
x月x日
やっぱ着流し楽だわ。
x月x日
時代が武家の記憶に近づいてきた。比例して敵も強くなるが、次郎が殆ど狩っていくか隊長の陸奥守が投石してズバッと斬るので、自分はその残りを倒す。
前に比べて、戦にも慣れてきた。
敵を前にして今日の献立を考えられるくらいには。
x月x日
昨日きた刀剣が料理に興味があるらしい。なんでも伊達政宗の刀だったもんではいそうですか。とりあえず夕飯を一緒に作ってみた。
名前なんだっけ。燭台光國だっけ? 覚えてないや。
私よりも手際が良いし、もう私いなくても良いんじゃあないのかね。
x月x日
燭台切光忠だった。ごめん。
x月x日
家事当番なんてものができた。刀剣が増えてきたから戦場に集中できるように、とのこと。
x月x日
次郎や太刀の数人と酒を飲んだ。
燭台切に格好いいだとか綺麗だとか言われたけど、正直言って気持ち悪いとしか思えなかった。
何か裏があるんじゃないかとか、以前の自分と比べられている気がして、すごく気分が悪くなった。
自分なんかが言われて良い台詞じゃあない。
ごめんなさい。
x月x日
二日酔いハンパ無い。酒とか初めて飲んだからか。
x月x日
練度が上がって、本丸にも刀剣が増えて、私の仕事が減ってきた。
以前の癖で、人の視界に入らないような場所でポケーっとしていることが多くなったけど、いつも次郎が見つけてくる。
引っ張り出されて、本丸に戻って。
偽物の自分がいてはいけなのに。
x月x日
仕事が少なくなって、自由時間が増えて、物思いにふける時間が増えた。
その度に思考は悪い方向へ向かっていく。
本物の三日月ではなく偽物で本当は不細工な自分がいても迷惑でしかないだろう、とか。
x月x日
刀剣を壊されることを破壊、刀剣を資材に還元することを刀解という。じゃあ、自分で自分を壊すことはなんていうのかというと、自解と言うらしい。ブラック本丸だとかにそういうことをする刀剣が多いそうだ。
自解。人間でいう自殺と同じ意味だろうな。
ブラックでもないこの本丸でやれば、きっと色んな人に迷惑がかかる。
戦場で朽ち果てようとも、審神者がそうさせてはくれない。
他者の体を奪っている罪悪感で押しつぶされてしまいそうだ。
x月x日
戦場で幻聴が聞こえた気がした。
醜い器を捨てて美しい体を得た気分はどうだ? って。
x月x日
次郎が心配してくれた。おつまみの催促だと思ったら違ったらしい。綺麗な人の考えていることはわからない。
x月x日
武家の記憶を攻略できた。あとは短刀たちの出番だ。
明日から私は遠征部隊に入るらしい。
x月x日
お疲れ様の意味もこめて、審神者が褒美をくれるらしい。保留にしておいた。
次郎は良いお酒をもらっていたのは予想できたたけど、陸奥はカメラをねだっていた。
自分に向けられたけど、逃げさせてもらった。
自分が映る写真は嫌い。
卒業証書を黒く染めたのは嫌な思い出だ。
x月x日
審神者が現世へ一時帰還するそうだ。
その護衛は誰が良いかと皆が話し合っている。
自分は関係ないだろうと思っていたら、なんと私を連れて行くらしい。
物好きな。
x月x日
三日後に出るそうだ。
以前の顔と違って、今の顔は良い面しているから大丈夫だと思うけど、やっぱり外は怖いな。
x月x日
懐かしい光景だ。以前の私の家と審神者の家は近いかもしれない。
ところどころ、私の知っているものが変わっていて寂しくなった。道路とか、お店とか。
もう不細工ではないのに、なんでこうも視線が集まるんだろうと思ったら、自分が三日月であることを忘れていた。危ない。
x月x日
久しぶりに使ったベッドは、快適だった。布団は布団で良い所があるけどさ。
これから帰るというので、土産を買いに寄った店でタバコをねだった。保留にしていたご褒美。意外そうな顔をされた。
帰る途中、道路脇に置かれた花束を見つけた。審神者が、交通事故でもあったのかな、って呟いた。
x月x日
あの花束が気になる。
本丸に戻って、挨拶もそこそこに部屋に戻った。
x月x日
思い出した。私の死に場所だ。
交通事故にあって、病院が受け入れてくれなくて、そのまま死んじゃったんだ。
x月x日
なんだか吹っ切れた。
x月x日
形あるものはいずれ壊れるっていうし、いずれ自分も壊れるだろう。
以前もとい前世の自分は壊れたから、こうして転生したのだと思う。仏教を軽く調べてみた結果こう考えた。
憑依じゃない。乗っ取ったわけじゃない。そもそも自分はたくさんある分霊の1つに転生しただけだ。
そう言い続けないと、生きていけない。
x月x日
次郎に酒に誘われた。あんまり好きじゃあないけど、飲むか。
x月x日
なんで同じ布団で寝てたの?
* * *
次郎の日記
x月x日
新入君の三日月が日記を書いていたので、真似してみた。
三日月が言うには、日記を書くことで自分の不満をぶつけたり感情を整理しやすくなるんだとか。よくわかんないけど。
三日月は料理ができるらしくって、作ってくれたおつまみがとんでもなく美味しかった。なんだったっけかな、ちくわのまよやき、だっけ。お酒とあって美味しかったけど、三日月が一緒に飲んでくれなかったのが残念。
x月x日
三日月の作るご飯がおいしい。
x月x日
戦に出た三日月の代わりに薬研がおつまみ作ってたけど、なんか違う。
x月x日
やっぱ三日月の作るほうが私はおいしい。卵焼きの好みが違うんだろうね。
短刀や打刀たちは甘いのが好きで、アタシや太刀連中はしょっぱいのが好み。
また作ってくれないなぁ。
x月x日
最近三日月が着流しを来ているのを見かける。艶っぽい。
x月x日
新しい新入君の乱が来た。かわいい。
三日月の安堵したような表情が気になる。
x月x日
今日の夕飯は何かな。最近は三日月の作る料理が楽しみ。
細く切った芋の揚げ物はまた食べたい。
x月x日
最近来た歌仙と台所で料理しているのを見かけた。
いつもはアタシに構ってくれるのに、寂しくなった。刀剣の数が増えたから仕方ないね。
x月x日
アタシも教わろうかな。
x月x日
三日月はもしかしたら、綺麗って言われるのが嫌いなのかもしれない。
歌仙に綺麗だって言われて、なんとも言えないような顔をしていたしさ。
x月x日
最近構ってくれない。お酒誘ったら皆で飲んでくれるけど。なんか、違う。
x月x日
はやく兄貴来ないかなー
x月x日
馬当番に集中できなかった。三日月、あんな顔するんだ。
x月x日
やっぱ三日月は着流しのほうが良い。
かっちりした着物よりも今の方が安心するというか、癒される。
x月x日
短刀たちが審神者とおそろいの着物買ってた。似合ってる。
アタシも着流し買おうかね。
x月x日
時代が武家の記憶に近づくにつれてアタシたちも強くなってきた。けど、一番その変化が大きいのは三日月かな。
最初はまともに敵を狩れなかったのに、いつのまにこんなにも強くなったのかなぁ。
だけど、敵を前にしながら心ここにあらずっていうような様子が危ういのが不安。
いつか消えちまいそう。
縁起でもないね。
x月x日
料理の上手な刀剣が来たらしい。おいしいけど、なんか違う。
x月x日
光國って誰。
x月x日
燭台切のことだった。あー、びっくりした。
x月x日
刀剣が増えたことで本丸を円滑に運営するためにって、家事当番ができた。
台所小さくない? アタシがでかいだけか。
x月x日
太刀の皆とお酒を飲んだ。三日月のおつまみつきで。すっっっごく美味しかった。
皆の外見についての話になって、刀工や所有者の話になって盛り上がったけど、三日月だけは具合悪そうに途中で退室しちゃった。
やっぱり、三日月は何かあるのかもしれない。
それから暫く皆で飲んでたけど、三日月のことが心配でしょうがなかった。
x月x日
二日酔いだった。三日月が。昨日のは飲みすぎだったのかな。
x月x日
本丸に刀剣が増えてきた。
三日月が誰かと一緒にいるのを見ていると、なんだかもやもやする。
なんだろう。
x月x日
最近黄昏ることが多くなったらしい。
審神者は徘徊じじいとか言い出したけど殴っておいた。
確かにぽけっとしている時が増えたけどさぁ。
x月x日
いつのまにか三日月探しがアタシの仕事になっていた。
まあ良いけどさ。
x月x日
最近、三日月が笑ってくれない。
同じ三条の刀がいなくて寂しいのかもしれない。
なんでだろう。むねが****
なんでもない。
x月x日
兄貴がいたら相談できたのかもしれないのに
x月x日
脇差が三日月と散歩しているのを見かけた。
アタシも誘ってみようかな。
x月x日
散歩に誘ったと思ったらおつまみもらった。なんで?
x月x日
やっと武家の記憶が終わった!
あとの池田屋とかは短刀達に任せて、飲もうっと。
x月x日
審神者がご褒美にって良いお酒くれた。太っ腹!
x月x日
ほかの皆はカメラとか着物をもらったみたい。
でも三日月だけは保留。決まってないらしい。ちょっと気になる。
x月x日
面白そうだから、三日月のしゃしん? をとってもらうように言ってみたら、かわされてしまったんだとか。
x月x日
陸奥と三日月が追いかけっこをしているのをたまに見かけるようになった。
三日月はしゃしんをとられるのが嫌いみたい。
x月x日
ことごとく失敗。残念。
x月x日
本気で嫌がっているみたいだからやめさせた。
案外うちの初期刀君は負けず嫌いらしい。
寝ている隙に撮ったっていう写真をもらった。
x月x日
審神者が現世へ一時帰還するらしい。
なんでも親戚が病気だそうで。
アタシが指名されたけど、三日月を勧めた。
気分転換して、元気だしてほしい。
x月x日
三日月いないの忘れて、お酒多く持ってきちゃった。
はやく帰ってこないかな。
x月x日
寂しい。
x月x日
三日月がいないと寂しい。
と、いうか、アタシ三日月が**。好きかもしれない。
x月x日
いつから好きになったんだっけ。
あー、駄目だ。
一度意識したらもう、顔が暑い。
x月x日
ようやっと三日月が帰ってきてくれたけど、すぐに部屋に行っちゃった。
疲れたのかな。
x月x日
何か吹っ切れた顔してたのを見かけた。良かった。
x月x日
久しぶりにお酒に誘うために三日月の部屋に突入したら、いいものを見た。
自室だからなのか、はだけるのも気にせず胡座で紙巻たばこを吸う三日月は妖艶だった。
月明かりに照らされているせいもあって、ちょっとだけ見とれた。男前め。
悔しいから酒で潰して、布団で寝かせてやって。
そしたらアタシも眠くなったから隣を失礼させてもたったんだよね。あたたかかった。
いつか、伝えられたら良いなぁ。
****。
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