イモ男士


「……江雪左文字と申します。戦いが、この世から消える日はあるのでしょうか……?」

戦場で駆ける敵兵、もとい歴史修正主義者にそう問いかける。
まあ、答えなんて返ってくるはずもなく代わりと言わんばかりに振り下ろされる刀身。
怖くてたまらない。でも、戦わなくてはいけない。戦いなんて嫌いだ。







刀剣男士に成り代わり in江雪左文字



こんな暑い中部活ダリーって思いながら自転車かっ飛ばして学校へ行く途中だったけど事故って気づいたら平和主義なお兄さんっぽい刀の神様になってましたどういうことだおい。
俺、このお兄さんに憑依しちゃったのかな? だって、頭の中に知らないはずの、お兄さんの記憶があるんだからさ。

 いきなり他者の記憶を押し込まれて痛む頭と誰かに蹴られて痛む腹に耐えつつ、周りを見渡せば、そこは薄汚い和室とボロボロの弟らしき人影。



 ああもう誰か嘘だと言ってくれ。


*   *   *   *   *


 俺さ、事故ったときに死んじゃったんかもしれない。ココ、夢にしてはリアルすぎるし。
 江雪サンの記憶が頭の中に入ってから、現状がわかってきた。

 ここの審神者はクズだ。未来や過去のためではなく金や見栄のためだけに俺たちを使い戦わせているんだから。しかもパワハラつき暴力つき。ブラック企業みたいッスね。
 で、そんなクズから弟を守るために嫌いな戦争して暴力を引き受けて精神的に疲れちゃったっぽい。多分、今も俺ん中で眠っている。
 眠っていても弟達が心配だから、死んだ俺がそこに入ってきて、って感じなのかな。よくわかんないけどさ。
 頭の中で他人の寝息が聞こえるのがやけにリアルで、それこそがこの現状を現実だと教えてくれた。


「に、兄さ……」
「小夜」


 見慣れないはずなのに見慣れた少年もとい弟の小夜が、いつまでたっても起き上がらない俺を心配して駆け寄ってくれた。
 頭も腹ももう大丈夫だから。痛みももうないよ。
 泣き出しそうな小夜の頭を撫でつつ、現状打破するために記憶をたどった。








 まずは審神者をどうにかせねば。
 これに関しては思っていたより簡単だった。
 証拠品集めて懐に隠し、政府本部に持っていく。難しいように思えるが、そうでもなかったのが幸い。
 証拠品に関しては埃被った書類やボロボロで赤疲労な弟たちがいれば十分。自分はレアなために綺麗にされて連れ歩かされたから証拠にはならないからね。
 弟の小夜と一番ボロボロだった薬研から本体を借りて書類と一緒に懐へ入れる。
審神者に連れられ政府本部へ行った時に大勢がいるなかで暴露。それだけで審神者はお縄にかかりました。やったね。

 やっとまともな本丸運営してもらえる!! って思って新しい審神者が来たのを俺は歓迎したんだけど他の太刀が信用できないだのなんだの言って追い返しちゃったんだよね俺の努力返せ。

 傷ついた兄弟や皆を治してくれると思ってたのに。


 ……あーあ、ポテチ食いたい。じゃがバターも。












 あれから数日。
「こんのすけ殿。審神者は、もう来られないのでしょうか」
「きっと来てくれますよ江雪様。今は人手不足故に来られないだけです」
「そう、ですか」


 最初の一人が追い返されてから人が来ることはなくなった。
 刀剣たちを説得しても、皆聞き入れてはくれなかった。和睦しようよ。


「今日も、ですか」
「ええ、そうです」

 今日も遠征。


「審神者が来てくれた時のために、仲間のためにも……資材がなくては、いけませんから」



 クズがやたらと鍛刀に使っていたせいで本丸の資材はスッカラカン。故に手入れができない。
 審神者が来てくれたらすぐにでも手入れをしてくれるように、毎日遠征と出陣を繰り返している。


 最初は、怖かったさ。現代で喧嘩なんかしないイイコだったから、余計に。
 でも俺には江雪サンの記憶があるからなんとか戦えた。それに、守るべき存在がいるから。前世兄弟なんかいなかった俺には、初めての守るべきものだったから。


こんのすけに、門の操作をまかせて馬に乗る。騎乗なんてしたことないのに、これも慣れてきた。
振り返って、こんのすけに「行って参ります」と声をかけたとき、本丸からこちらを伺う短刀が見えた気がした。
でも、俺は気にせずに過去へ向かった。
敵を倒せば報酬がもらえて資材が増える。資材があれば皆を治せる。未だに震える手を無視して馬を走らせた。









「江雪の旦那」
「……薬研、ですか」

 今日も審神者は来なかった。代わりに薬研が来た。

「俺っちも連れて行ってくれ」
「できません」
「俺が、短刀だからか」

 あのクズの言葉をまだ引きずっているのか。
 そういえば、短刀の価値や長所を素人もせず罵倒していたのをよく覚えている。


「今この本丸で、一番怪我をしているのは貴方です。……怪我人を、戦わせることはできません」



 もどかしく、歯がゆいだろうな。
 でも、と袖を掴みすがりつく薬研の手を優しく払い、俺は門へと向かう。

 あー、最近、体がだるいや。遠征も失敗するようになったし。









 今日も薬研がいた。

「また、行くのか」
「ええ、そうですが」
「……怪我、してんだろ」


 そりゃあ戦場へ行っているんだもの。怪我してますよ。


「俺も……連れて行ってくれ」
「なりません」
「あんただってボロボロだろ、壊れちまうよ」
「……」


 現代で安全に過ごせていた、以前の俺じゃあ信じられないくらいズタボロなのはわかってるさ。
 でも、兄弟のことを思うとそうもしてらんないんだよな。最近じゃあ目に見えてレベル?練度? が、上がっていくのが面白くてゲームみたいなもんだと思えば戦場もそんなに苦じゃないしさ。江雪サンってすげースペック良いしさ。
 いつか審神者が来てくれるから、そのとき治してもらえればいーよ。


「行かないでくれよ」


 思考をぶっ飛ばしてたら、薬研が涙目になって袈裟を握ってきた。
 あああああ泣かないでよ俺年下苦手なの。どうしたらいいかわかんないんだから。江雪サンも子供にどう接すれば良いかわかんなかったみたいだから対処方法わかんないし。
 なんだっけ、オカンが撫でときゃ良いみたいなこと言ってた気がするからとりあえず撫でれば良いの? とりあえず撫でる。

「江雪の旦那?」

 ……現状は変わらず。
 もういいや、出陣やめ。どうせまた失敗しそうだし、資材の多い所って敵強いとこばっかだし。
 まあ、資材はそれなりにゲットできたからもういいでしょ。俺も疲れてきた。



「どこ行くんだ?」
「出陣は、やめました。本丸を周ります」

 資材がたまってもやることはあるしさ。
 畑や馬小屋の管理とか。
 畑は定期的に整備しないと一気に悪くなるみたいだし、生き物扱ってんだから毎日掃除とかしなきゃね。皆、クズのせいでやる気失ってるみたいだし。
 あー、じゃがいも育てたいな。フライドポテトとかポテトサラダ食べたい。


「俺も行く」
「ええ、どうぞ」


 あ、そういやさっき見た目に騙されて薬研を年下扱いしたけどこいつ江雪サンより年上じゃん。鎌倉生まれと室町生まれ。子供扱いしちゃったやばいやばい。
 でも怒ってないみたいだからいっか。





 この日を境に、薬研がよく引っ付くようになった。
 せっかくだからと部屋とか蔵の掃除して、馬と遊んでたりするときとか金魚のf、鴨の親子みたいについてくる。俺そんな好かれるようなことしたっけ?
 子供ってわかんない。
 しかもさ、こいつ疲れてる上に最近眠れてないってのに俺の掃除とかの手伝いしてくれるんだぜ? ワケワカンナイ。
 まあ寝不足って聞いたら子供の成長に悪いですからねー。適当に寝かせたよ。俺の膝が犠牲になったがな。

 無防備に眠る姿は、かわいいと思わんでもないかな。






あ、こいつ刀だからこれ以上成長しないや。



*   *   *   *   *


 昼間に出陣キャンセルされたから夜中にこっそり行ってみるかなーって思ってたら薬研と小夜にキャンセルされました。解せぬ。
 いやほら夜中なら敵そんなにいないかなとか大丈夫だろうんいけるいけると思ってたら夜目のきく短刀が起きててさー。
俺もう練度カンストよ? ガチで強いで? 強さが練度に現れるから面白くって調子にのってたらカンストしたからイケるって思ってたのに。


 どうすっぺなーとか考えてたら薬研が背中に張り付いてきたんで諦める。
 このあとどうしようとか考えつつ小夜を抱き上げて本丸へ戻る。こいつら裸足のまんまで外出やがって。
 連れて行く途中で宗三に二度見されたのお前らのせいだぞ。








 この体になってから、寝る時間が早くなったけどそれでもまだ遅い方みたい。
 今日も頑張ったなさあ寝るかーって布団入った時に薬研が来てさ。起きてるかって言われたけど疲れたから無視しましたゴメンね。


「……江雪の旦那、入るぞ」


 オイ入室許可出してねーぞ。
 もういい俺狸寝入りするもんねしょうがないよね疲れてるんだもん。

 足音をなるべく消して入ってくるその様はなんだか夜這いみたいだなーと思いつつも、俺は寝たふり。
 薬研はそのまま部屋に入ってきて、俺の寝ている布団の近くに座った。


「……こう、せつ」


 はいなんですか。



「こうせつ、こうせつ」



 だからなんですか


「すきだ」







 えっ


「すきだ、好きだ……だから……折れないでくれ」

 ……

「こう、せつ……」



 寝ている俺の手を握られ、そこに口づけをされた。
 いつから? いつのまに? なんでや?



 パニックのまま寝たふりをしている俺を置いて退出した薬研。俺の心臓はバクバクですが。あの、どうすんですか。これ。
 隣で寝ていたハズの宗三と小夜が起きてるんですけど。

 俺見てないし聞いてないもん知らないもん。寝てたもん。

 だから恋話でめttっちゃ遠慮なくズカズカと聞いてくるクラスの山根さんみたいに聞いてこないでよまってまってお前そんなキャラじゃねえだろ。

 そもそも男同士やんって考えたけど駄目だ昔じゃゲイはよくあるモンだったらしいし。アカン。
 んじゃあ俺僧侶だからってこれもアカン僧侶って男同士ならおkって考えがあったっぽいからアカン。つかなんで俺。
 もういいや寝よう寝ちまおう寝て忘れようおやすみ。



 この体は今も眠っている江雪サンのものであって、俺のじゃないし。
 今の俺が答えて良いもんじゃあないし。
 今は鈍感なフリしてましょ。


*   *   *   *   *

「新しい審神者さんが来られましたよ!」

 こっそり出陣してー、たまに薬研か小夜に見つかって諦めてー、畑でじゃがいも育てたりしてーのしてたらこんのすけが朗報を持ってきてくれました。
 やっとか。やっと皆の傷を治してもらえるのか。こんのすけが言うには新人ではあるが優秀だそうで。


 門の前で待機してるそうで行ってみればまあ成人したばかりっぽいお姉さん。普通に良い人そうだな。
 マンガに出てくるような悪人っぽくないしケバいとか性格悪そうとかそんなんじゃあないし大丈夫そうじゃね? って考えたとこで視界が歪んでさ。
 あれ、何コレめまい?

 あー、だめだあしにちからがはいんな


*   *   *   *   *


 気がついたらオフトゥンの中でした。
 え、どこここ。てか腹になんか乗ってて起きれないヘルプ。

「良かったー、気がついたんですね」

 うお誰ッスか。

「新しくここに来た審神者です、どうも初めまして」
「審神者……」
「ああそのままで構いませんよ重いでしょうけど薬研くん今寝たばっかりなんで」
「薬研、ですか。どうりで重いと」
「小夜くんに聞いたんですけど、最近眠れてないそうで」
「すみません、このような……」
「ああ気にしないでくださいむしろ眼福です」
「ん?」


 あっ、ヤベ。

 若い審神者のお姉さんの口からこんな言葉が。
 儚げな少年が目元を泣き腫らしながら、疲労と怪我により倒れた青年に寄り添い眠る光景を、眼福とは。
 「あっ、ヤベ」と言ってしまうこととは。
 いや全部がそうとは限らないけどさ。
 これはもしや。


「……」
「……」

「腐女子、ですか」
「ウワアアアアアアバレタアアアアアア!!!!!」


 小声で叫ぶって器用だな。
 こんなやつクラスにもいたなー。やけに早口でさ。クラスの男子ネタにしてたらしいよ。俺文化部で同じ部活だったから知ってた。


「丁度良いですね」
「へ」
「取引しませんか」


*   *   *   *   *


「新任の審神者から、真名を預かり……契約致しました。これで、前に審神者のようにはならないでしょう」
「よ、よよよろしくお願いします」


 疲労と怪我により倒れた江雪が完治し、新しい審神者だとか言う女性を連れてやって来た。


「それは本当かい?」
「ええ。証拠に、血印で契約書を書いて頂きました」


 そうか、それなら少しは信用しても良いな。
 そんな声がちらほらと聞こえて、緊張していた審神者も心なしか安堵したようだ。
 これならばちゃんとした本丸運営と敵組織の討伐ができそうだ。



「兄上」
「なんでしょうか、宗三」
「いったいどのように取引をしたのですか?」
「和睦、ですよ」







「貴方には餌(ネタ)を提供しましょう。この本丸は良質のものが多いですから。そのかわり、審神者として適切な本丸運営をしていただけると約束していただけますか」
「餌(ネタ)……」
「例えるならば……ここで眠っている少年とか」
「……」
「欲しくは、ないですか」
「欲しい……です……!!」
「では、契約しましょう。真名を頂きますが構いませんね。こちらはちゃんとした運営をして頂ければ結構なので、保険ですよ」
「モチロンです」






 契約書類を懐にしまい、この広間を去る江雪を見送る宗三。
 彼はこの契約の内容を知らない。





・審神者と結婚予定のある恋人にも、この本丸にいる刀剣も、政府の担当役人にも、腐女子であることを口外しないと約束して頂きます。その代わりに、ネタを要求します。
・常識的な本丸運営と邪な手を出さぬことを約束して頂きます。その代わりに、誉制度を作り一定以上誉をもらった刀剣に褒美を与えることを要求します。



*   *   *   *   *


 お手紙が届きました。宛先は俺です。
 近侍のお仕事をしつつ、腐った目で新選組を見る審神者を俺の嫌いな納豆を見る目で蔑みつつ審神者に喜ばれ、政府や他本丸の審神者から来た手紙を渡していたら紛れ込んでいたそうだ。

「私に、ですか」
「うん、ちゃんとここに宛名書いてあるし」


 達筆で、ちゃんと俺宛に書いてある。


「他の本丸の江雪さんかねー」
「他の……?」
「だって、ほら。筆跡がソックリだもん」
「……そのようですね」


 江雪左文字の筆跡で書かれている。
 恋文ですかどうなんですかと茶化してくる審神者を適当に躱して退室する。


 手紙の内容は短いが丁寧で、「弟含めた本丸の皆を頼む」というものだった。
 ……最近、頭の中で江雪サンの寝息が聞こえなかったのは、本霊に還ったからか。
 二枚目には、「追伸、お幸せに」とだけ。それだけ。
 俺なら任せられるだろうと判断して、この手紙をくれたんだろうか。そう考えるとなんだか誇らしい。




 さて、もう夜も更けてきたし寝るかと自室の障子を開ければそこには襦袢姿で座す薬研の姿が。


「……」
「……」


 閉めた。何も言わずに。

 横を見ればニヨニヨとこちらを見る賞味期限の切れた審神者の姿が。


「宗三さんは打刀の飲み会で潰れて戻れないし小夜くんは短刀部屋でお泊りなので大丈夫ッスよ!」

 サムズアップすんなオイ餌待ってますじゃねえよおい逃げんな。



 ……えっ。どうすんのコレ。

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