[また怪獣が出たぞー!!]
[こちら、D市上空。D市では今、怪獣が暴れており市内は緊急避難警報が出ています!]
テレビの中から聞こえてくる悲鳴、何かが壊れる音、ヘリから中継するプロペラの雑音とキャスターの声。
電気屋のショーウィンドウに並んでいるテレビに映し出されているのは今、私の目の前で暴れ回っている怪獣だった。
『あっ……』
最早他人事の様にしか感じられない出来事。
口から漏れたのは、悲鳴でも恐怖の言葉でもなく、少し諦めの感情が混じった吐息のようなものだった。
「誰かヒーローを呼んで!!」
誰かがそう叫んだ。
だが、既にテレビで中継されているくらいだ、避難警報が出ている位だし、直ぐにでもヒーローが来るはずなのだ。
それでも、大きな怪獣を目の前にし、逃げるので必死な人々は中継のヘリコプターが飛んでいるのも気づかず、助けを叫ぶ。
テレビでやってるのになんでヒーローは来ないんだろう、そんな疑問は私の中では沸いてこなかった。
誰かが助けが来る事なんて頭になくて、ただただ、私の人生普通だったなとか、天国地獄があるなら私はどっちかなとか、死ぬ前提の事を考えてしまう。
『せめて、死ぬ前に美味しいもの、食べたかったなぁ』
怪獣が大きく踏み出した足の裏を見ながら思ったことを口に出していた。
そして、死の瞬間を感じて閉じれなくなっていた目に白いヒラヒラしたものが写り込んできた。
紙? いや、布みたいな……。
まだ、何かを考える頭は残ってるんだなと思いながらも、目の前の白い布らしきものを眼孔は捉えたまま。
それから数秒、さっきまで真上にあった怪獣の足の裏は肉塊となって降ってきた。
『……え。ギャッ』
まさかの出来事に、腰を抜かしてそのまま地面へと転がってしまった……、と思えば痛みが来ない。
柔らかくも固くもない何かにでも乗っかったのか、痛くはなかった。
「おい、大丈夫か? 何処か怪我でもしてんのか?」
耳元で声がした。
そこでやっと助かったのだと、ヒーローが私を助けてくれたのだと気がついた。
さっきの白い布はヒーローのマントだったんだと思ったら、腰が更に重く感じた。
『……あ、いえ、怪我は……ない、です』
顔を見上げれば……ハゲだ。
何て思ってしまった。
折角倒れかけた私を支えてくれて、あまつさえあの怪獣を倒してくれたと言うのに。
「じゃあ、何で倒れたんだ?」
歯切れの悪い私の答えが気にかかったのか、更に質問を重ねてきた。
助けてくれたのは凄く嬉しい、私は生きてるのだから。
でも、すぐ目の前にある、怪獣であったはずの肉塊の前で話さなくても……。
そんなことを思いながらも聞かれたことに私は答えた。
『死んだかと思って、でも、助かったんだと思ったら腰が……抜けちゃって……』
腰が重くてしょうがない、恐怖なんてどこかに忘れたものだと思っていたのは勘違いだったみたいだ。
私にも恐怖と言う感情は残ってたんだなぁ。
『こ、怖かった……ぅう』
その感情が突然溢れ出して、私はいい年の癖に、いい年のヒーローの前で恥ずかしげもなく泣いてしまった。
「ちょっ、おまっ、やっぱり何処か痛いんじゃないか?! なっ泣くなよ、俺が泣かしたみたいだろ!」
急に泣き出した私に、ハゲたヒーローは慌て出した。
なんてヒーローらしくないヒーローなんだろう。
強いのに勿体ない。
『怪我はホントに無いですっ、助けてくれて……ありがとう』
涙が溢れる目を強く擦って、私の前で慌てふためいてるヒーローにお礼を言った。
慌てていたヒーローは私が大丈夫なのが分かると、お礼を言われて恥ずかしかったのか頬を掻きながらそっぽを向いた。
「……怖ければ目をつむればいい、その間に俺が助けてやっから」
確かにハゲで無気力そうなヒーローだけど、彼は私が見た中で、一番ヒーローらしいと思った。
こわければ目をつむればいい
(彼はサイタマさんって言うらしい。ヒーローネームはハゲマント、私が付けたっていうのは内緒)