『土方さん早く歩いてくださいよー! 土方さんがさっさと帰りたいって言うから急いでるのに!』
「ふざけんなてめぇえ!! 誰のせいで歩きにくいと思ってやがる! 荷物は自分で持ちやがれ!!」
土方さんに歌舞伎町に連れてきてもらってから小1時間、着物や日用品を買い込んでさっさと済ませてあげようと思ったのに、物凄く怒られています。
土方さんって我が儘だなぁ。
総吾が爆破したくなる気持ち少しわかるよ……。
『最初は持ってくれるって言ってたじゃないですかぁ? 男なら言った事は守りましょうよ! そんなんじゃモテませんよ!』
そう、一番最初に着物を買った時に荷物を持ってくれると申し出てきたのは土方さんの方からだ。
絶対に好感度上げに来てる!
「モテるためにやってるんじゃねぇよ! それに、限度ってものがあんだろっ!」
『あいたっ! 暴力反対ですよ!!』
思い切り頭を叩かれた!
そんな事してるから物騒な警察とか言われるんだー!
「そういや、お前刀は?」
『え? そんなもの持ってないですけど? なに言ってるんですか土方さんは……あたっ!』
さも当たり前みたいな態度をとったらまた叩かれた。
頭の細胞が消滅してしまうので止めていただきたい!
まあまあ成績は良い方なんだから!
「……ちょっと着いてこい」
『え、どこ連れてく気ですか? まさか、こんな真っ昼間からお盛んですか……部下相手に最低ですね、土方さん』
裏路地に連れていかれそうになったから軽蔑の眼差しで見つめると、また怒りだした。
「ちげぇよ!! 鍛冶屋にお前の刀買いに行くんだ! お前みたいな餓鬼、こっちから願い下げだ!」
『そーいうのもセクハラになるんですよ?!』
思ってても口にしないのが大人ですよ!
皆のアイドル和葉ちゃんは誰の物にもなりません!
そんなこんなで、言いあいを続けていたら土方さんの言う鍛冶屋に着いた。
あー、妖刀の時の……。
まだトッシーは居ないのかな?
「おい、オヤジ! コイツに合いそうな刀一本見繕ってやってくれ」
『えっ、でも近藤さんから借りたお金はもう刀が買えるほど残ってませんけど……』
そう、着物を買ったりなんだりと、諭吉さんは後1人しか居ない。
「……俺の部下だ、ここは俺が立て替えておいてやる」
『やったー! 土方さんの奢りですね。叔父さん! ここで今一番高いやつお願いしまーす!!』
「ちょっとぉおお! 何聞いてたんだお前は! ふざけんじゃねぇ!!」
もー、毎回毎回どの話も土方さんたら怒ってばっかりですよ!
もう少し優しくなれないんですかね?
『じょーだんですよ! そんなすぐに真に受けないで下さい。借りた仮はちゃんと返しますよ。私の武士道です!』
「ぉ、おお……そうか」
鍛冶屋の叔父さんは空気になり果てていたが、きっちり私に合う少し短めの刀を見繕ってくれた。
鍛冶屋を出て屯所に帰る道。
手渡された刀を腰に差す所がないので取り敢えず手に持って歩く。
家には真剣も置いてあったが、飾りみたいなもので振ったことなんて1度も無かった。
日本なんて平和その物で、銃刀法違反なんて言葉があるくらい、刀なんて持った日には捕まってしまうし……。
『私、本当にこの世界でやっていけるんでしょうか……』
土方さんに届くか届かないかの声で掛けた疑問。
真剣なんて使う事はなかった時代、そんな時代から漫画とは言え、真剣が当たり前の世界へ来てしまった私。
「…………お前は俺達が守ってやる」
思いがけない答えが土方さんから返って来た。
てか、聞こえてたんだ……。
「お前は一応真選組の仲間だ。だから、俺達はお前を守る。……お前も、仲間を守るこったな」
『あはは、土方さんを初めて格好いいなんて思っちゃいました』
真剣な顔して格好いいこと言うもんだから、顔が熱い。
照れ隠しに笑って茶化してみたけど、誤魔化せてるかな?
「一応だからな、俺はまだお前を完全に信用した訳じゃねぇ! 何か変な事したら問答無用で多々っ切ってやる」
『信用してもらえるように、仕事頑張ります!』
いつの間にか着いていた屯所の入り口、真選組の門の前で心に誓うのであった。
デート? いや、パシリです。
(あ、荷物私の部屋まで届けてくださいね)
(おいぃぃ!! ふざけんじゃねぇっ、自分で持っていきやがれ!)