見えない戦い

夕暮れの木ノ葉。

戦争が終わって数日。
里はゆっくりと日常を取り戻し始めていた。

瓦屋根の上を風が渡る。
遠くで子供の笑い声が聞こえる。

だが――

その空気の中に、別のものが混ざっていた。

呪い。

オビトは歩きながら、それを見ていた。

誰にも見えないものを。

蠅のような小さな呪霊。
黒い染みのような影。
屋根の隙間にうごめく低級呪霊。

戦争の後。

人の恐怖、怒り、悲しみ。

それらが形になり、木ノ葉のあちこちに湧いている。

オビトは肩をすくめた。

「……多すぎんだろ」

誰にも聞こえない声で呟く。

横を歩くのは
うずまきナルト。

「ん?なんか言ったか?」

「いや」

オビトは首を振る。

ナルトの目には何も見えていない。

屋根の上に群がる呪霊も。
街灯にぶら下がる黒い影も。

何も。

それが普通だ。

呪霊が見える人間の方が、異常なのだから。

ナルトは伸びをする。

「いやー腹減ったってばよ」

「一楽行くか?」

オビトは少しだけ笑う。

「いいな」

「久しぶりにラーメン食いてェ」

二人は通りを曲がる。

その時だった。

ぐちゃり。

音がした。

ナルトは気づかない。

だがオビトの視線が止まる。

路地の奥。

そこにいた。

人の背丈ほどある黒い塊。

肉のように歪み、口のような穴を開けた呪霊。

二級。

戦争の残り滓から生まれたものだろう。

呪霊はゆっくりと蠢いた。

近くを歩く里の住人へと、手を伸ばす。

オビトは立ち止まる。

ナルトが振り返る。

「どうした?」

「……ちょっと待て」

オビトは軽く手を振った。

ナルトの後ろで。

指先が、ほんの少しだけ動く。

瞬間。

空気が裂けた。

見えない斬撃。

呪霊の胴体が、音もなく割れる。

――御厨子。

斬。

呪霊は理解する間もなく消滅した。

黒い粒子になって、風に溶ける。

ナルトは首を傾げた。

「?」

「今なんかしたか?」

オビトは歩き出す。

「してねェよ」

「気のせいだ」

ナルトは少し考えてから笑った。

「ま、いっか!」

二人はまた歩き出す。

だが――

オビトの視界には、まだいた。

屋根の上。
電柱の影。
道端の闇。

無数の呪霊。

オビトは小さく息を吐いた。

「……めんどくせェな」

指先がまた動く。

パチン。

黒い影が一つ消える。

ナルトはまったく気づかない。

その隣で。

世界が静かに掃除されていることを。

夕暮れの空。

カラスが鳴いた。

その影が一瞬、空を横切る。

遠くでそれを見ていたのは
うちはサスケ。

サスケは目を細めた。

左目。

輪廻眼。

その視界の端に――

何かが揺れた。

黒い影。

カラスのようなもの。

「……」

だがそれはすぐに消える。

サスケは小さく呟いた。

「気のせいか」

夕暮れの木ノ葉。

誰も知らない場所で。

呪いは生まれ。

そして、消えていく。

オビトだけが、それを見ていた。


〆栞
PREV  |  NEXT
LIST