最強の残滓

暗い水面。
静かな精神世界。

そこに巨大な存在がいた。

九つの尾。
燃えるような瞳。

九喇嘛。

尾獣は目を細めた。

「……妙だな」

「ナルトの精神に」

「人間が二人いる」

その瞬間。

空間が歪んだ。

水面の上に一人の男が立つ。

黒い詰襟。
黒い瞳。

うちはオビト。

九喇嘛が低く唸る。

「貴様……」

「うちはオビト」

「なぜここにいる」

オビトは肩をすくめた。

「俺にもよく分からん」

「気づいたらここだった」

九喇嘛は鼻で笑う。

「嘘をつけ」

「人間が尾獣の精神領域に侵入できるはずがない」

オビトは少し考えた。

「……多分」

「お前経由だ」

九喇嘛の瞳が細くなる。

「何?」

オビトは指を立てる。

「尾獣って」

「呪力に近いエネルギー体だろ」

「呪術の術式と」

「相性がいい」

九喇嘛は黙った。

オビトは続ける。

「だから多分」

「俺の術式とお前のチャクラが共鳴した」

「その結果」

「精神世界に入った」

九喇嘛が笑った。

「……面白い理屈だ」

「だが」

「気に入らんな」

巨大な尾が動く。
空気が震える。

「貴様は」

「かつて我を操った人間だ」

第四次忍界大戦。
十尾。
人柱力。

全てを思い出す。

だがオビトは静かだった。

「……ああ」

「そうだな」

「悪かった」

九喇嘛は一瞬黙った。
そして鼻を鳴らす。

「謝るとはな」

「つまらん」

「昔の貴様の方がよほど面白かった」

オビトは苦笑する。

「人は変わる」

「死ぬとな」

その時だった。

九喇嘛の瞳が動いた。

「……?」

空間の奥。
水面の向こう。

そこに“何か”があった。

歪んだ光。
残滓。
呪力の痕跡。

オビトも気づく。

「……あれ」

九喇嘛が唸る。

「ナルトのものではない」

オビトは目を細めた。

「違うな」

「これは」

見覚えがある。

呪力。
異様な密度。

そして――

眼。

青く澄んだ視界。

それは。

五条悟。

最強の呪術師。

オビトが小さく言う。

「……残ってたのか」

九喇嘛が聞く。

「知っているのか」

オビトは頷く。

「呪術師だ」

「しかも」

「最強」

九喇嘛は笑う。

「人間の最強など」

「たかが知れている」

オビトは肩をすくめた。

「いや」

「こいつは別格だ」

その時。

残滓が揺れた。

水面が波紋を広げる。

そして。

声がした。

『やあ』

軽い声。

どこか飄々としている。

『久しぶりだね』

オビトが目を細める。

「……」

九喇嘛が唸る。

「誰だ」

光の中から現れた。

白い髪。
青い眼。

笑っている男。

五条悟。

ただし――

体ではない。

記録。
残された意志。

五条はオビトを見る。

『やっぱり君か』

『うちはオビト』

オビトが眉を上げる。

「……俺?」

五条は笑う。

『君なら来ると思ってた』

『最強になれる器は』

『君しかいないからね』

九喇嘛が唸る。

「何を言っている」

五条は尾獣を見た。

『あ、キツネじゃん』

『でか』

九喇嘛の尾が逆立つ。

「貴様……」

オビトがため息をつく。

「話が長くなりそうだな」

五条が笑う。

『安心して』

『要点だけ言う』

そして言った。

『六眼』

『無下限術式』

『君にあげるよ』

空間が静まり返る。

その瞬間。

九喇嘛の瞳が見開かれた。

尾獣の本能が

“それ”を理解した。

九喇嘛が低く唸る。

「……待て」

巨大な尾がゆっくり揺れる。

「人間」

「貴様」

「それは――」

九喇嘛の瞳が

五条の眼を見据える。

そして

低く言った。

「……化け物か」

尾獣ですら理解できる。

その眼。

その術式。

人間が扱うには

あまりにも

規格外。

空間が震える。

オビトは沈黙した。

そして。

一言。

「……は?」


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