試される少年

朝の木ノ葉の森。

薄い霧の中で、**波風ミナト**は一本の枝の上に立っていた。

静かな空気。

鳥の声。

だが彼の頭の中は、昨夜の出来事でいっぱいだった。

(未来を知る少年……)

うちはオビト。

忍者アカデミーの生徒。

それなのに、飛雷神の術式配置の弱点を言い当てた。

さらに――

「九尾が木ノ葉を襲う」

「その日に、あなたと奥さんは死ぬ」

あの言葉。

思い出すだけで胸が重くなる。

(普通なら信じない)

だが。

あの少年の目は嘘をつく目ではなかった。

そしてもう一つ。

(戦闘の気配)

ミナトは戦場を何度も経験している。

人がどれほどの戦いを潜り抜けたか。

それは目で分かる。

オビトの目は――

子供のものではなかった。

(確かめよう)

ミナトは静かに息を吐いた。

その時。

「呼びました?」

背後から声がした。

振り向くと、赤いゴーグルの少年が立っている。

うちはオビト。

ミナトは少し驚いた。

(気配を感じなかった)

アカデミー生にしては、足音が静かすぎる。

「来てくれてありがとう」

ミナトは枝から降りた。

オビトは周囲を見回す。

森の奥。

人の気配はない。

「……テストですか?」

ミナトは目を瞬かせた。

「どうして分かったの?」

オビトは肩をすくめた。

「忍者が森に呼び出す理由って、大体それです」

ミナトは小さく笑う。

(やっぱり落ち着きすぎている)

子供ならもっと緊張するはずだ。

だがオビトにはそれがない。

まるで任務に来た忍のようだった。

「簡単なものだよ」

ミナトはクナイを一本取り出した。

柄には飛雷神の術式が刻まれている。

「これを取れたら君の勝ち」

オビトは一瞬だけ目を細めた。

(飛雷神の印付きクナイ)

つまり――

取った瞬間に転移される可能性がある。

反応速度と判断力の試験。

(容赦ないなこの先生)

オビトは苦笑した。

「分かりました」

ミナトは軽く構える。

「始め!」

瞬間。

ミナトの姿が消えた。

風が揺れる。

次の瞬間には背後に立っていた。

手刀。

だが。

オビトの体が半歩ずれる。

空振り。

ミナトの瞳がわずかに細くなる。

(避けた?)

偶然ではない。

完全に動きを読んでいた。

ミナトはすぐに次の行動に移る。

シュン。

飛雷神。

木の幹。

枝。

地面。

刻んでおいた印を使い、連続転移する。

視界の外から攻撃。

普通の忍なら反応できない。

だが。

オビトは動いていた。

回避。

しゃがみ。

体を捻る。

すべて、わずかな動きで避けている。

ミナトは一度距離を取った。

(これは……)

想像以上だった。

少なくともアカデミー生の動きではない。

「やるね」

オビトは肩で息をしていた。

(やっぱ速いな……)

ミナトの移動は視界で追える。

だが、隙がほとんどない。

(そろそろ終わらせるか)

オビトは拳を握る。

体の中で二つの力が動く。

チャクラ。

そして。

呪力。

だがそれを表には出さない。

表面はチャクラだけ。

ミナトが動いた。

背後。

勝負の一撃。

だが。

オビトが振り向いた。

拳。

ドン!

空気が震えた。

衝撃で地面の枯葉が舞う。

ミナトは後ろに着地した。

数メートル離れた場所。

(今の拳……)

ただの体術ではない。

チャクラの練り方が妙だった。

衝撃の質が違う。

オビトは内心で焦っていた。

(やばい)

今、ほんの一瞬だけ呪力が混ざった。

完全に抑えきれていない。

ミナトは静かに言った。

「……オビト君」

オビトが固まる。

「何者?」

森が静まり返る。

オビトは苦笑した。

「未来を知ってるだけのガキですよ」

ミナトは少し考えた。

そして。

ふっと笑う。

「嘘だね」

オビトが目を丸くする。

「でも」

ミナトはクナイをしまった。

「敵じゃないのは分かった」

それで十分だった。

ミナトは言う。

「オビト君」

「はい?」

「忍者になったら」

優しい笑顔。

「僕の弟子にならない?」

オビトの時間が一瞬止まった。

未来では。

この言葉を聞くのは、もっと後だった。

カカシ。

リン。

そして自分。

ミナト班。

だが。

未来は少しずつ変わり始めている。

オビトは笑った。

「もちろんです」

その瞬間。

誰にも気付かれないまま。

未来の歯車が、また一つ動いた。


〆栞
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