霧の忍

橋の上に、重たい沈黙が落ちた。

**はたけカカシ**の手に集まった雷が、鋭い音を立てて唸っている。

雷切。

その一撃は、確実に相手の命を奪う技だ。

だが――

その進路を遮るように、一人の少年が立っていた。

うちはオビト。

カカシの目が見開かれる。

「……オビト」

オビトは振り返らない。

目の前では、氷の鏡が崩れ落ち、術が解けた余波で霧が流れている。

術者の少年――
**白**は、自分がまだ立っていることに気付いたように胸に手を当てていた。

その奥では。

巨大な包丁を構えた男。

**桃地再不斬**が、じっとこちらを見ている。

「……小僧」

再不斬が低く言う。

「何のつもりだ」

オビトは静かに言った。

「そいつ」

「死ぬ必要あるのか?」

白の瞳が揺れる。

「僕は……」

白は小さく言った。

「再不斬さんの道具です」

その瞬間。

声が響いた。

「ふざけんな!!」

**うずまきナルト**だった。

拳を握り、怒りで震えている。

「そんなわけあるかってばよ!!」

白は驚いたようにナルトを見る。

オビトは少しだけ肩をすくめた。

そして静かに言った。

「道具でも」

「命はある」

白の呼吸が止まる。

再不斬の眉がわずかに動いた。

オビトは続けた。

「森で聞いた」

「ガトーの手下の話だ」

再不斬の目が細くなる。

「……何?」

「お前らは捨て駒だ」

橋の空気が凍りついた。

「橋が完成したら殺す」

「金も払わない」

「忍なんて使い捨て」

白の顔が青ざめる。

再不斬は黙っている。

その沈黙を破ったのは――

笑い声だった。

「はははは!!」

橋の向こうから歩いてくる男。

小柄で腹の出た男。

その後ろには数十人の武装した男たち。

**ガトー**だった。

ガトーが笑う。

「まだ生きてやがったか再不斬!」

再不斬は何も答えない。

ガトーは肩をすくめる。

「ま、どのみち終わりだ」

背後の大勢の手下を指差す。

「金を払う気は最初からねえ」

ニヤリと笑う。

「忍なんてなァ」

吐き捨てるように言った。

「使い捨ての駒だ」

橋の上が静まり返る。

白の手が震えていた。

「再不斬さん……」

再不斬はゆっくりと白の方へ歩いた。

白の前で足を止める。

白が顔を上げた。

「……再不斬さん」

再不斬はしばらく何も言わなかった。

やがて。

低く呟く。

「白」

その声に、白の肩がわずかに震える。

再不斬は顔を少し逸らしたまま言った。

「死ぬな」

白の目が大きく開かれる。

再不斬は立ち上がった。

白が慌てて包帯を差し出す。

再不斬はそれを受け取る。

顔に巻く。

巨大包丁を肩に担いだ。

そしてガトーたちへ歩き出す。

ガトーが鼻で笑う。

「一人で何ができる」

再不斬の声は低かった。

「黙れ」

次の瞬間。

再不斬が突っ込んだ。

包丁が振るわれる。

血が舞う。

「うおおお!!」

手下たちが襲いかかる。

だが。

再不斬は止まらない。

氷が地面を覆う。

白が術を放っていた。

敵の足が止まる。

再不斬が斬る。

橋の上は戦場になった。

やがて。

再不斬はガトーの前に立つ。

ガトーが震える。

「ま、待て……!」

再不斬が笑った。

「霧隠れの鬼人を」

包丁を振り上げる。

「ナメるな」

一閃。

ガトーが崩れ落ちた。

再不斬は数歩歩いた。

そして。

膝をつく。

白が駆け寄る。

「再不斬さん!」

再不斬は空を見上げた。

霧がゆっくりと流れている。

その光景を見ながら。

オビトは静かに目を細めた。

橋の空気。

人の悪意。

だがそれとは違う。

もっと濁った。

もっと古い何か。

(……なんだ)

呪いに似ている。

だが違う。

オビトの写輪眼がわずかに細くなる。

(この世界)

(呪霊がいない代わりに……)

胸の奥に、小さな違和感が残った。

霧の橋の上で。

戦いは終わった。


〆栞
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