砂と青春

中央の塔、大広間。

先ほどまで激戦が繰り広げられていた戦闘場は、すでに片付けが始まっていた。

祓われた虚――絡繰波間。

その黒い霧のような残滓は、もう消えている。

だが。

戦闘場には一つだけ残ったものがあった。

死体。

絡繰波間という名で試験に参加していた忍の身体。

胸には、ぽっかりと孔が空いている。

虚に取り憑かれ、操られていた亡骸だった。

試験官の
**月光ハヤテ**がその遺体を見下ろす。

「……」

事情はすぐには公表されないだろう。

ただ一つ言えることは。

この試験の裏側には――
普通ではない何かが潜んでいる。

だが。

中忍試験は止まらない。

ハヤテは咳を一つしてから、声を張った。

「次の試合を始める」

視線が観戦席に向く。

「我愛羅」

砂の忍がゆっくり立ち上がる。

そしてもう一人。

「ロック・リー」

リーが元気よく飛び降りた。

「押忍!!」

戦闘場に着地する。

対峙する二人。

砂の静寂。

青春の熱気。

観戦席の上。

**うちはオビト**は壁にもたれながら、その光景を見ていた。

隣には
はたけカカシ。

カカシがちらりと視線を向ける。

「立ってて大丈夫か?」

オビトは肩をすくめる。

「もう平気だ」

実際、反転術式で体内はほぼ回復している。

ただ、失った血の量まではすぐには戻らない。

だから少しだけ身体が重い。

(まぁ、それでも)

視線を戦闘場に向ける。

リーが構えた。

拳を握る。

そして――

我愛羅に向かって走る。

観戦席からナルトの声が響く。

「行けリーーー!!」

**うずまきナルト**が拳を振り上げる。

隣の
**春野サクラ**も緊張した顔で見ていた。

戦闘場。

リーの拳が我愛羅に届く。

――はずだった。

ザッ。

砂が動く。

自動的に。

リーの拳を受け止めた。

観戦席がざわつく。

「今の……」

「避けてない?」

砂が動いている。

我愛羅は動いていない。

リーが後ろに跳ぶ。

眉をひそめる。

そして再び突っ込む。

高速の体術。

だが。

砂がすべて防ぐ。

オビトは腕を組んだ。

(母親の愛の砂)

自動防御。

我愛羅の意思とは関係なく、砂が守る。

それは知っている。

だが。

オビトが見ているのはそこではなかった。

リーの動き。

体術。

チャクラの流れ。

(やっぱり)

リーの体内には、忍術も幻術も使うための回路がほとんどない。

つまり――

体術一本。

純粋なフィジカル。

その姿を見て。

オビトの脳裏に、別の人物が浮かぶ。

禪院真希。

前世で出会った術師。

呪力をほとんど持たない代わりに、異常な身体能力を持つ存在。

――フィジカル・ギフテッド。

(似てるな)

リーの身体能力。

あの動き。

そして努力の積み重ね。

オビトは小さく息を吐く。

「……青春だな」

カカシが横で言う。

「なんだそれ」

オビトは笑う。

「努力型の天才ってやつ」

戦闘場。

リーが構えた。

その時だった。

観戦席から声が飛ぶ。

「リー!!」

マイト・ガイ。

拳を握っている。

「外していいぞ!!」

会場がざわつく。

リーはゆっくり頷いた。

そして。

脚の重りを外す。

ドンッ。

床が揺れるほどの重量。

観戦席が騒然となる。

ナルトが叫ぶ。

「えぇぇぇ!?」

重りを外したリー。

次の瞬間。

姿が消えた。

ドンッ!!

砂を――

初めて突き破った。

我愛羅の目が、わずかに見開かれる。

観戦席のオビトが小さく呟いた。

「……始まったな」

青春の全力が。

今、解き放たれた。


〆栞
PREV  |  NEXT
LIST
#novel#