密約の夜

中忍試験本戦まで、残りわずか。

夜の木ノ葉。

静まり返った森の奥で、
一人の男が木の枝に身を潜めていた。

月光ハヤテ。

「ゴホッ……」

咳を押さえながら、息を潜める。

偶然だった。

巡回の最中、妙な気配を感じた。

そして見つけてしまったのだ。

木立の向こう。

二つの影。

一人は――

砂の里の忍。

もう一人は。

柔らかく笑う男。

薬師カブト。

ハヤテの目が細くなる。

(……薬師カブト)

中忍試験の受験者。

だが――

その空気は、明らかに受験者のものではない。

カブトは静かに言う。

「では」

「予定通りに」

砂の忍が頷く。

「**我愛羅**はすでに準備できている」

「本戦の日」

「すべてが始まる」

ハヤテの背筋に冷たいものが走った。

(……砂と……内通?)

(いや……)

(もっと大きい)

その瞬間。

カブトの目が動いた。

「……そこにいるのは誰ですか」

ハヤテの心臓が跳ねる。

(気づかれた)

音もなく着地する。

カブトが振り返る。

その目は笑っていなかった。

「試験官の……月光ハヤテさん」

ハヤテは刀を抜く。

「……ここまで聞かせてもらった」

「見逃すわけにはいかないな」

カブトが静かに笑う。

「困りましたね」

「あなたは優秀だ」

次の瞬間。

カブトが動いた。

ガキン!!

クナイと刀がぶつかる。

ハヤテが低く言う。

「くっ……!」

カブトの動きは速い。

だがハヤテも試験官。

簡単にはやられない。

数合打ち合う。

だが。

ヒュッ

一瞬の隙。

カブトのクナイが――

ザシュッ!!

ハヤテの腹を裂いた。

「ぐっ……!」

膝をつく。

血が地面に落ちる。

カブトが言う。

「残念です」

「あなたはここで退場だ」

クナイが振り上げられる。

その瞬間。

――空間が歪んだ。

ぐにゃりと。

ハヤテの身体が消える。

カブトの刃は空を切った。

「……?」

カブトの眉がわずかに動く。

そこにはもう何もなかった。

森は静寂に戻る。

カブトは少し周囲を見る。

「……」

だが何も感じない。

やがて肩をすくめた。

「逃げましたか」

「まあいい」

静かに言う。

「本番はこれからですから」

カブトは闇の中へ消えた。

――その頃。

別の場所。

木の枝の上。

空間が再び歪む。

ぐにゃりと。

そこから落ちてきたのは――

月光ハヤテだった。

地面に転がる。

「がっ……!」

血が溢れる。

その前に立っていたのは

**うちはオビト**だった。

「……間に合ったか」

ハヤテはぼんやりと目を開く。

「……うちは……オビト……?」

オビトは膝をついた。

腹の傷を見る。

深い。

放っておけば確実に死ぬ。

「……ちっ」

オビトは手をかざした。

傷口に触れる。

「反転術式」

静かな呟き。

傷口が淡く光る。

肉が再生する。

血が止まる。

完全な回復ではない。

だが。

死ぬことはない。

ハヤテの意識が揺れる。

「……なにを……」

オビトは答えない。

代わりにハヤテの首筋を軽く叩いた。

トン。

ハヤテはそのまま気を失った。

オビトは立ち上がる。

夜の森を見る。

(……砂)

(それにカブト)

さらに。

(後ろにいるのは)

言うまでもない。

大蛇丸。

オビトは小さく息を吐いた。

「……本戦まで」

「時間がないな」

ハヤテを担ぐ。

そして静かに言った。

「悪いな」

「完全に治すわけにはいかない」

もし回復しすぎれば。

誰が助けたか。

何が起きたか。

説明が面倒になる。

オビトは屋根を跳んだ。

夜の木ノ葉を駆ける。

向かう先は――

木ノ葉病院。

数分後。

人気のない裏口から中に入り。

ハヤテをベッドに寝かせる。

「……これで死なない」

オビトは窓から外へ出た。

夜風が吹く。

オビトは空を見る。

(砂の侵攻)

(木ノ葉崩し)

そして。

(……虚)

まだ見えない。

だが確実に動いている。

オビトは目を細めた。

「……面倒なことになりそうだ」

静かに屋根から消えた。


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