再会とやらかし

 木ノ葉の朝は、こんなにも騒がしかっただろうか。

 「遅刻だー!!」

 全力疾走。

 (いや遅刻してねぇんだけどな!?)

 時間は余裕。むしろ早い。
 なのに走ってる。

 (身体が勝手に動くんだよなこれ)

 石につまずきかけて、ギリで踏みとどまる。

 (危ねぇ……ってかこれも懐かしいな)

 ドタバタしながら、アカデミーへ飛び込んだ。

 ガラッ。

 「すみませ――」

 言葉が止まる。

 視界に入ったのは。

 「……オビト」

 無愛想な声。

 銀髪。半目。仏頂面。

 (……いた)

 はたけカカシ。

 まだ何も失っていない姿。

 「遅い」

 「……あ、あぁ、悪い」

 普通に返す。

 (いや落ち着け俺)

 (同級生、同級生だからな今)

 でも。

 (……生きてる)

 胸の奥が、じんわり熱くなる。

 その時。

 「どうしたの? ぼーっとして」

 柔らかい声。

 振り向く。

 「ほら、席空いてるよ!」

 明るく笑う少女。

 茶色の髪。優しい瞳。

 (……リン)

 野原リン。

 守れなかった存在。

 「……おう」

 オビトは、少しだけ優しく笑った。

 「ありがとな、リン」

 「え? なに急に、どうしたの?」

 首を傾げるリン。

 (いや、なんでもねぇよ)

 言えるわけがない。

 “二回も死んで戻ってきました”なんて。

 席に座る。

 カカシの視線が、じっと刺さる。

 (あーこれ、絶対バレるやつ)

 (まぁいいか)

 どうせ隠しきれない。

 ――すぐに証明されることになる。

 「次、手裏剣な!」

 (来た)

 順番が回ってくる。

 (よし、ここは外す)

 しっかり“子どもっぽく”。

 それが大事。

 シュッ。

 カン、カン、カン。

 全部、ど真ん中。

 「……」

 「……」

 (……やっべ)

 やらかした。

 「すごい!全部当たってる!」

 リンが目を輝かせる。

 「え? あー、まぁな!」

 (いや違うだろ俺)

 (外す予定だったよな!?)

 内心で全力ツッコミ。

 「ふーん」

 カカシが見ている。

 (あーこいつ絶対気づいてる)

 ――次、組手。

 「始め!」

 (よし、ここはちょっと押されて――)

 踏み込まれた瞬間。

 (遅ぇ)

 思った。

 身体が勝手に動く。

 崩し、いなし、払う。

 ドサッ。

 相手が綺麗に転がる。

 「……」

 「……」

 (あ)

 (またやった)

 「今の何だよ!?」
 「見えなかったぞ!?」

 (だよなぁ!?)

 ――忍術。

 「変化の術!」

 (これは雑にいく)

 ボンッ。

 煙が晴れる。

 そこにいたのは――

 完璧な教師のコピー。

 「……」

 「……」

 (終わった)

 教師がゆっくり言う。

 「やりすぎだ」

 「すみません」

 即答。

 ――――

 席に戻る。

 視線、痛い。

 めちゃくちゃ痛い。

 (なんでだよ)

 (ちゃんと抑えてるだろ俺なりに!!)

 ちらっと横を見る。

 カカシ。

 完全に“観察モード”。

 (詰められるなこれ)

 「オビトくん、すごいね!」

 リンが嬉しそうに笑う。

 (いや違うんだリン)

 (これはな……)

 説明不能。

 そして。

 「うちはの落ちこぼれって誰だよ」

 「全然違うじゃねーか」

 ざわざわ。

 (だよなぁ!!)

 心の中で全力同意。

 そして。

 天井を見上げた。

 「……はぁ」

 深いため息。

 手裏剣。
 組手。
 忍術。
 座学。

 全部。

 「無理だろこれ」

 小さく呟く。

 「子どもになるって難しすぎねぇか……」

 完全に、諦めの境地。

 第四次忍界大戦首謀者。
 六道の力。
 特級呪術師。
 宿儺と殴り合い。

 (どう隠せって言うんだよ)

 軽く笑う。

 だが。

 その目は、変わらない。

 (手の届く範囲でいい)

 あの言葉が浮かぶ。

 (救える奴は、救っとけ)

 なら。

 「……ま、いっか」

 肩をすくめる。

 「やっちまったもんはしゃーねぇ」

 そして。

 窓の外を見る。

 青い空。

 平和な里。

 その裏にある“これから”。

 (全部、守る)

 そのためなら。

 多少のやらかしなんて――

 安いもんだ。

 「俺、強いからな」

 ぽつりと呟く。

 一拍置いて。

 「だから、助ける」

 カカシが、わずかに目を細めた。

 違和感。

 まだ言葉にはならない“何か”。

 だが確実に。

 原作とは違う歯車が、回り始めていた。



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