ニアミス
任務帰りだった。
仙台。
地方都市。
特別珍しくもない、よくある“仕事のついで”の立ち寄り先。
――のはずだった。
「……ん?」
足を止める。
白髪の青年。
サングラス越しに、周囲を見渡す。
五条悟
高専二年生。
呪術師としては、すでに規格外。
その彼が、ほんのわずかに違和感を覚えた。
「なんだこれ」
空気が、軽い。
いや、軽いというより。
――澄みすぎている。
通常、この程度の住宅地であれば。
多少なりとも“澱み”がある。
人がいる以上、それは避けられない。
だが。
ここは違う。
まるで、常に何かで“祓われている”ような。
それも。
一点ではなく。
広範囲で。
「……結界?」
呟く。
だがすぐに、否定する。
違う。
これは結界じゃない。
術式の痕跡がない。
もっと、自然で。
もっと――異質だ。
「へぇ」
口元が、わずかに上がる。
面白い。
そう思った。
だが。
そこで、止まる。
数秒。
考える。
「……まあ、いいか」
結論。
興味はある。
だが。
今は任務帰りだ。
疲れている。
腹も減っている。
それに。
「深追いする理由もないしね」
軽く肩をすくめる。
未知の現象。
珍しくはない。
いちいち全部に首を突っ込んでいたら、身が持たない。
それに――
「どうせ、そのうち分かるでしょ」
この世界は、狭い。
特に、呪術界は。
強いものは、いずれ浮き上がる。
隠れていても。
勝手に、表に出てくる。
だから。
今は、いい。
そのまま、歩き出す。
住宅地を抜ける。
その途中。
一軒の家の前を通り過ぎる。
裏葉家。
ほんの一瞬。
足が、止まりかけた。
「……」
何かが、引っかかる。
だが。
それも、ほんの一瞬。
「……気のせいか」
そのまま、通り過ぎる。
振り返らない。
振り返る必要もない。
その頃。
家の中。
オビトは、普通に過ごしていた。
(……?)
一瞬。
何かを感じた気がした。
だが。
すぐに消える。
(……気のせいか)
特に問題はない。
虫もいない。
平和だ。
なら、それでいい。
一方。
街の中心部。
「お、あったあった」
五条は、店の前で立ち止まる。
ショーケースの中。
並べられた和菓子。
その中から。
ひとつを選ぶ。
ずんだ餅
「これにしよ」
軽いノリで、購入。
袋を受け取る。
満足げに、頷く。
「やっぱ仙台来たらこれでしょ」
そのまま。
駅へ向かう。
新幹線。
乗り込む。
席に座る。
袋を開ける。
「いただきまーす」
一口。
頬張る。
「……うん、美味い」
素直な感想。
満足。
それで、十分だった。
列車が、動き出す。
仙台を離れる。
遠ざかる。
その街に。
“何か”があることを。
知らないまま。
気づかないまま。
ただ。
ひとつだけ、確かなこと。
もし。
あの時。
ほんの少しでも、足を止めていたら。
何かが、変わっていたかもしれない。
だが。
それは、起きなかった。
だから。
今はまだ。
すべては、静かなままだった。
仙台。
地方都市。
特別珍しくもない、よくある“仕事のついで”の立ち寄り先。
――のはずだった。
「……ん?」
足を止める。
白髪の青年。
サングラス越しに、周囲を見渡す。
五条悟
高専二年生。
呪術師としては、すでに規格外。
その彼が、ほんのわずかに違和感を覚えた。
「なんだこれ」
空気が、軽い。
いや、軽いというより。
――澄みすぎている。
通常、この程度の住宅地であれば。
多少なりとも“澱み”がある。
人がいる以上、それは避けられない。
だが。
ここは違う。
まるで、常に何かで“祓われている”ような。
それも。
一点ではなく。
広範囲で。
「……結界?」
呟く。
だがすぐに、否定する。
違う。
これは結界じゃない。
術式の痕跡がない。
もっと、自然で。
もっと――異質だ。
「へぇ」
口元が、わずかに上がる。
面白い。
そう思った。
だが。
そこで、止まる。
数秒。
考える。
「……まあ、いいか」
結論。
興味はある。
だが。
今は任務帰りだ。
疲れている。
腹も減っている。
それに。
「深追いする理由もないしね」
軽く肩をすくめる。
未知の現象。
珍しくはない。
いちいち全部に首を突っ込んでいたら、身が持たない。
それに――
「どうせ、そのうち分かるでしょ」
この世界は、狭い。
特に、呪術界は。
強いものは、いずれ浮き上がる。
隠れていても。
勝手に、表に出てくる。
だから。
今は、いい。
そのまま、歩き出す。
住宅地を抜ける。
その途中。
一軒の家の前を通り過ぎる。
裏葉家。
ほんの一瞬。
足が、止まりかけた。
「……」
何かが、引っかかる。
だが。
それも、ほんの一瞬。
「……気のせいか」
そのまま、通り過ぎる。
振り返らない。
振り返る必要もない。
その頃。
家の中。
オビトは、普通に過ごしていた。
(……?)
一瞬。
何かを感じた気がした。
だが。
すぐに消える。
(……気のせいか)
特に問題はない。
虫もいない。
平和だ。
なら、それでいい。
一方。
街の中心部。
「お、あったあった」
五条は、店の前で立ち止まる。
ショーケースの中。
並べられた和菓子。
その中から。
ひとつを選ぶ。
ずんだ餅
「これにしよ」
軽いノリで、購入。
袋を受け取る。
満足げに、頷く。
「やっぱ仙台来たらこれでしょ」
そのまま。
駅へ向かう。
新幹線。
乗り込む。
席に座る。
袋を開ける。
「いただきまーす」
一口。
頬張る。
「……うん、美味い」
素直な感想。
満足。
それで、十分だった。
列車が、動き出す。
仙台を離れる。
遠ざかる。
その街に。
“何か”があることを。
知らないまま。
気づかないまま。
ただ。
ひとつだけ、確かなこと。
もし。
あの時。
ほんの少しでも、足を止めていたら。
何かが、変わっていたかもしれない。
だが。
それは、起きなかった。
だから。
今はまだ。
すべては、静かなままだった。
【〆栞】