小学校入学式
春。
空は澄み、風は柔らかく、どこか新しい匂いがする。
季節が、切り替わる。
そして――
「オビトー!ほら、時間だぞ!」
(……またか)
玄関先。
靴を履きながら、ぼんやりと思う。
今日は、小学校の入学式。
新しい場所。
新しい生活。
だが、幼稚園を経験した今となっては、そこまでの緊張はない。
(まあ、似たようなもんだろ)
多少規模が大きくなるだけ。
やることの本質は、変わらない。
鏡に映る自分を見る。
制服。
ランドセル。
(……重いな、これ)
背負うと、ずしりとくる。
だが動けないほどではない。
許容範囲。
「似合ってるわよ」
綾乃が微笑む。
「ほんとにな!」
宗一郎も、満面の笑みで頷く。
(……ああ)
問題ない。
外に出る。
道を歩く。
同じような格好の子どもたちが、ちらほら見える。
親と並んで。
少し緊張した顔。
嬉しそうな顔。
様々だ。
(……まあ、こんなもんか)
校門が見える。
人が多い。
ざわざわしている。
だが、統制は取れている。
式典としての形は、しっかりしている。
(……ちゃんとしてるな)
率直な感想。
中に入る。
案内される。
席に着く。
流れはスムーズだ。
そして。
式が始まる。
挨拶。
説明。
呼名。
淡々と進む。
(……特に問題なし)
順調だ。
ここまでは。
問題は、その隣だった。
「……っ……」
(……ん?)
視線を向ける。
宗一郎。
顔が。
崩れている。
(……は?)
涙。
まただ。
ぼろぼろと。
止まらない。
(……なんでだよ)
理解不能。
いや、ほんとに。
なんでだ。
まだ入学しただけだぞ。
何もしてないぞ。
なのに。
「オビトぉ……!」
(……いやいやいや)
声が震えている。
完全に感情が溢れている。
(……早すぎるだろ)
卒園式でも泣いていた。
だが、今回はさらに早い。
開始早々だ。
まだ何も起きていない。
なのにこれだ。
(……重症だな)
冷静に分析する。
隣で、綾乃が苦笑している。
「あなた……まだ始まったばかりよ?」
「だってよぉ……!」
止まらない。
(……面倒だな)
放置するか。
それが最適解。
そう判断する。
だが。
視線が、合う。
宗一郎と。
ぐしゃぐしゃの顔で、こっちを見ている。
(……ああ、もう)
ため息をつきたくなる。
仕方ない。
一言だけ。
「父さん、泣き過ぎ」
ぽつり、と。
冷静に。
その一言で。
「――っ!?」
宗一郎が、固まる。
数秒。
沈黙。
そして。
「うぉぉぉぉ!!」
さらに泣いた。
(……悪化したな)
完全に逆効果。
綾乃が、肩を震わせて笑っている。
「ほら、オビトに心配されてるわよ」
「だってぇぇ……!」
(……ダメだこりゃ)
結論。
治らない。
そういう性質だ。
諦めるしかない。
そのまま、式は進む。
名前を呼ばれる。
返事をする。
立つ。
座る。
問題なくこなす。
周囲の子どもたちも、同じように動く。
(……まあ、こんなもんか)
特別なことはない。
ただの始まり。
それだけだ。
式が終わる。
人が動く。
ざわめきが戻る。
「オビトぉぉ……!」
また来た。
抱きつかれる。
(うわ)
回避不可。
「よくここまでぇ……!」
(いや、まだ何もしてねぇよ)
内心で突っ込む。
だが、声には出さない。
無駄だからだ。
綾乃が、優しく頭を撫でる。
「入学おめでとう」
その声は、落ち着いていて。
安心する。
(……ああ)
こっちは、いい。
普通だ。
ちゃんと理解できる。
「……ありがと」
小さく答える。
それだけで、十分だった。
新しい生活が、始まる。
まだ何も知らない場所。
だが。
(……なんとかなるだろ)
そう思えるだけの余裕は、もうあった。
空は澄み、風は柔らかく、どこか新しい匂いがする。
季節が、切り替わる。
そして――
「オビトー!ほら、時間だぞ!」
(……またか)
玄関先。
靴を履きながら、ぼんやりと思う。
今日は、小学校の入学式。
新しい場所。
新しい生活。
だが、幼稚園を経験した今となっては、そこまでの緊張はない。
(まあ、似たようなもんだろ)
多少規模が大きくなるだけ。
やることの本質は、変わらない。
鏡に映る自分を見る。
制服。
ランドセル。
(……重いな、これ)
背負うと、ずしりとくる。
だが動けないほどではない。
許容範囲。
「似合ってるわよ」
綾乃が微笑む。
「ほんとにな!」
宗一郎も、満面の笑みで頷く。
(……ああ)
問題ない。
外に出る。
道を歩く。
同じような格好の子どもたちが、ちらほら見える。
親と並んで。
少し緊張した顔。
嬉しそうな顔。
様々だ。
(……まあ、こんなもんか)
校門が見える。
人が多い。
ざわざわしている。
だが、統制は取れている。
式典としての形は、しっかりしている。
(……ちゃんとしてるな)
率直な感想。
中に入る。
案内される。
席に着く。
流れはスムーズだ。
そして。
式が始まる。
挨拶。
説明。
呼名。
淡々と進む。
(……特に問題なし)
順調だ。
ここまでは。
問題は、その隣だった。
「……っ……」
(……ん?)
視線を向ける。
宗一郎。
顔が。
崩れている。
(……は?)
涙。
まただ。
ぼろぼろと。
止まらない。
(……なんでだよ)
理解不能。
いや、ほんとに。
なんでだ。
まだ入学しただけだぞ。
何もしてないぞ。
なのに。
「オビトぉ……!」
(……いやいやいや)
声が震えている。
完全に感情が溢れている。
(……早すぎるだろ)
卒園式でも泣いていた。
だが、今回はさらに早い。
開始早々だ。
まだ何も起きていない。
なのにこれだ。
(……重症だな)
冷静に分析する。
隣で、綾乃が苦笑している。
「あなた……まだ始まったばかりよ?」
「だってよぉ……!」
止まらない。
(……面倒だな)
放置するか。
それが最適解。
そう判断する。
だが。
視線が、合う。
宗一郎と。
ぐしゃぐしゃの顔で、こっちを見ている。
(……ああ、もう)
ため息をつきたくなる。
仕方ない。
一言だけ。
「父さん、泣き過ぎ」
ぽつり、と。
冷静に。
その一言で。
「――っ!?」
宗一郎が、固まる。
数秒。
沈黙。
そして。
「うぉぉぉぉ!!」
さらに泣いた。
(……悪化したな)
完全に逆効果。
綾乃が、肩を震わせて笑っている。
「ほら、オビトに心配されてるわよ」
「だってぇぇ……!」
(……ダメだこりゃ)
結論。
治らない。
そういう性質だ。
諦めるしかない。
そのまま、式は進む。
名前を呼ばれる。
返事をする。
立つ。
座る。
問題なくこなす。
周囲の子どもたちも、同じように動く。
(……まあ、こんなもんか)
特別なことはない。
ただの始まり。
それだけだ。
式が終わる。
人が動く。
ざわめきが戻る。
「オビトぉぉ……!」
また来た。
抱きつかれる。
(うわ)
回避不可。
「よくここまでぇ……!」
(いや、まだ何もしてねぇよ)
内心で突っ込む。
だが、声には出さない。
無駄だからだ。
綾乃が、優しく頭を撫でる。
「入学おめでとう」
その声は、落ち着いていて。
安心する。
(……ああ)
こっちは、いい。
普通だ。
ちゃんと理解できる。
「……ありがと」
小さく答える。
それだけで、十分だった。
新しい生活が、始まる。
まだ何も知らない場所。
だが。
(……なんとかなるだろ)
そう思えるだけの余裕は、もうあった。
【〆栞】