虎杖悠仁

放課後。

校門を出て、いつもの帰り道。

ランドセルを背負いながら、ぼんやり歩いていると――

「おーい!」

声が飛んできた。

振り向く。

少し先。

手を振っている少年。

(……あいつか)

虎杖悠仁。

あの家の、赤ん坊だったやつ。

今はもう、しっかり走り回るガキだ。

「オビト!」

「おう!」

自然と、声が出る。

足も、勝手に速くなる。

気づけば、走ってた。

(……なんだよ、これ)

楽しい。

単純に。

それだけで、体が動く。

「今日ヒマ?」

「ヒマだ!」

即答。

考えるまでもねぇ。

「じゃあ遊ぼうぜ!」

「いいぞ!」

そのまま、並んで歩く。

いや、途中から走る。

なんとなく競争みたいになって、どっちが速いか張り合って。

「お前速ぇな!」

「そっちもな!」

笑う。

息が上がる。

でも、止まらない。

(……いいな、これ)

理由は分かんねぇ。

でも、楽しい。

ただそれだけで、十分だった。

公園に着く。

広い。

人もそこそこいる。

だが気にしねぇ。

「何すんだ?」

「なんでもいい!」

「じゃあ鬼ごっこだな!」

「よっしゃ来い!」

すぐに始まる。

走る。

逃げる。

追う。

単純な遊び。

でも、全力だ。

手を抜く気なんてねぇ。

「捕まえた!」

「くっそ、速ぇって!」

「ははは!」

笑いながら、また走る。

転びそうになっても、踏ん張る。

体が軽い。

動きやすい。

(……やっぱ、この体いいな)

思った通りに動く。

無駄がない。

気持ちいい。

「なあオビト!」

悠仁が、横に並ぶ。

「お前さ、なんか強くね?」

「ん?」

「走るのもだけど、なんつーか……すげぇ感じする」

(……あー)

曖昧な言い方。

でも、なんとなく分かる。

「まあな!」

にっと笑う。

「俺、結構すげぇぞ?」

言ってみる。

軽いノリで。

でも。

「だよな!」

悠仁も、即座に笑う。

疑いもせずに。

「分かる!」

(……いいやつだな、こいつ)

思わず、そう思う。

変に疑ったりしねぇ。

まっすぐだ。

だから、こっちも楽だ。

「じゃあ勝負しようぜ!」

「おう!」

また走る。

また笑う。

また転びそうになって。

また立ち上がる。

その繰り返し。

気づけば、時間が過ぎてる。

夕方。

空が、少し赤い。

「……あー、疲れた」

悠仁が、芝生に寝転がる。

「だな」

俺も、そのまま座り込む。

息が荒い。

でも、悪くねぇ。

むしろ。

(……気持ちいいな)

体を動かす。

全力で。

それだけで、こんなにスッキリするとはな。

「なあオビト」

「ん?」

「また遊ぼうぜ」

「当たり前だろ!」

即答。

迷いなんて、ねぇ。

「次は負けねぇからな!」

「はっ、無理だな!」

言い合う。

笑う。

そのやり取りが、やけにしっくりくる。

(……ああ)

なんだこれ。

分かんねぇけど。

(……いいな)

ただ、それだけは確かだった。

立ち上がる。

帰り道。

また並んで歩く。

言葉は、そんなにいらねぇ。

隣にいるだけで、なんか安心する。

(……変な感じだな)

でも。

悪くねぇ。

むしろ――

(最高じゃねぇか)

自然と、笑っていた。


〆栞
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