兄弟みたい

第三十話「兄弟みたい」

休日の午後。

陽は高く、風は穏やかで、どこまでも平和な時間だった。

宗一郎は、少し離れた場所から歩いていた。

買い物の帰り。

袋を片手に、いつもの道を通る。

その途中。

ふと、足が止まった。

(……あれは)

公園。

見慣れた場所。

そして。

見慣れた二人。

「おい悠仁!そっち行ったぞ!」

「うお、マジか!?」

声が響く。

元気で、遠慮がなくて。

全力だ。

(……オビトか)

木陰の向こう。

走り回る影。

裏葉オビト。

そして、虎杖悠仁。

「待てって!」

「捕まえられるかよ!」

笑い声。

本気の追いかけっこ。

だが、その動きはただの遊びじゃない。

踏み込み。

重心移動。

間合い。

(……やっぱりな)

宗一郎は、内心で頷く。

あれは、ただの子どもの動きじゃない。

無駄がない。

洗練されている。

だが――

「はははっ!お前遅ぇな!」

オビトが、笑っていた。

大きく。

遠慮なく。

無防備に。

(……珍しいな)

思わず、そう思う。

家の中でも笑う。

話す。

だが、どこか落ち着いている。

一歩引いたような。

俯瞰しているような。

そんな雰囲気がある。

だが、今は違う。

完全に、年相応だ。

いや、それ以上に。

「くっそ、次は負けねぇ!」

「何回言ってんだよそれ!」

言い合って、また走る。

止まらない。

疲れてるはずなのに。

関係ない。

ただ、楽しいから動いてる。

(……いい顔してるじゃないか)

宗一郎は、静かに笑った。

ああいう顔は、家ではあまり見ない。

外だからか。

それとも――

(……悠仁、か)

視線を、もう一人へ向ける。

虎杖悠仁。

まっすぐな目。

裏がない。

疑いもしない。

だからこそ。

あの距離感。

(……あいつ、合うんだな)

オビトと。

妙に、しっくりきている。

友達。

それは、そうだろう。

親友。

それも、近い。

だが。

(……それだけじゃないな)

言葉にするなら。

もっと、近い。

もっと、自然で。

もっと、当たり前の関係。

「兄弟、みたいなもんか」

ぽつりと、呟く。

血は繋がっていない。

だが。

それ以上に、繋がっているような。

そんな距離感。

そして。

もう一つ。

視線を、ずらす。

少し離れた場所。

ベンチの近く。

立っている男。

(……やっぱりな)

虎杖倭助。

腕を組み、じっと見ている。

動かない。

だが、その視線は鋭い。

(……見てるな)

悠仁を。

そして。

オビトも。

その目に、わずかな色がある。

評価。

確認。

そして――

(気に入ってる、か)

宗一郎は、すぐに察した。

あの目は、そういう目だ。

ただの近所の子を見る目じゃない。

認めている。

受け入れている。

「……なるほどな」

納得する。

あの倭助が。

ああいう反応をする。

それだけで、十分だ。

(……悪くない)

オビトにとっても。

悠仁にとっても。

そして。

大人たちにとっても。

「……いい関係だ」

小さく呟く。

そのまま、少しだけ見ている。

二人の姿を。

走って。

笑って。

ぶつかって。

また笑って。

その繰り返し。

単純で。

真っ直ぐで。

嘘がない。

(……ああ)

こういうのが、いい。

こういう時間が。

こういう関係が。

守るべきものだと、思える。

宗一郎は、ふっと息を吐いた。

そして。

そのまま、踵を返す。

邪魔する必要はない。

あれは、あの二人の時間だ。

ただ一つ。

確かなこと。

裏葉オビトは――

ちゃんと、笑っていた。

それだけで。

十分だった。


〆栞
PREV  |  NEXT
LIST
#novel#