禪院と加茂

第三十一話「禪院と加茂」

季節は巡り、時は静かに積み重なっていく。

裏葉オビトが四年生を終え、五年生の冬を迎えた頃――
その“静けさ”とは裏腹に、呪術界は揺れていた。

それは、一本の報告から始まった。

「……確認されたのか」

低い声。

抑えられているが、その奥には確かな動揺がある。

「はい。複数の情報が一致しています」

報告する側も、落ち着いてはいるが、僅かに緊張が滲む。

「禪院宗一郎と、加茂綾乃――」

言葉を区切る。

そして、はっきりと告げた。

「夫婦関係にあった可能性が高い、と」

沈黙。

その場の空気が、重く沈む。

禪院と加茂。

御三家の中でも、思想の違いが色濃く出る二家。

その血が――交わった。

「……ふざけるな」

吐き捨てる声。

怒り。

明確な、拒絶。

「そんなことが、許されるわけがない」

禪院側の反応は、激しかった。

血は管理されるもの。

価値あるもの。

勝手に混ぜるなど、論外。

「必ず見つけ出せ」

命令が飛ぶ。

以前よりも、明確に強く。

「その事実ごと、回収する」

一方。

加茂。

こちらは、静かだった。

だが、その静けさは、決して穏やかなものではない。

「……なるほど」

一人が、淡々と呟く。

「血は、繋がっていたか」

怒りではない。

分析。

そして、確信。

「探せ」

短い命令。

「その価値は、放置するには惜しい」

禪院と加茂。

方向性は違えど、結論は同じだった。

“見つける”。

そして――

“回収する”。

その動きは、確実に広がっていく。

そして、その情報は。

別の場所にも届いた。

「へぇ……」

軽い声。

だが、その内容は軽くない。

五条悟

「禪院と加茂、ねぇ」

机に腰掛けながら、書類を眺める。

口元には、薄い笑み。

「それで逃げた、と」

状況を整理する。

点と点が、繋がる。

「……なるほど」

以前、耳にした噂。

“呪いが薄い地域”。

そして、仙台。

「当たりかもね」

ぽつりと呟く。

確証はない。

だが、可能性は高い。

「じゃあ、ちょっと動いてみますか」

軽い口調。

だが、その目は鋭い。

五条家もまた、動き出す。

静観から、一歩前へ。

そして。

その全てと、直接は関係なく。

仙台郊外。

裏葉家。

夕方。

「……」

綾乃は、ふと手を止めた。

台所。

いつもの光景。

だが。

違和感。

ほんの僅かな、引っかかり。

(……来てる)

気配。

見えないが、分かる。

遠く。

だが、確かに。

こちらを探るような、視線。

「……宗一郎」

静かに呼ぶ。

その声に、わずかな緊張が混じる。

「どうした?」

振り返る宗一郎。

その瞬間。

綾乃の目が、鋭くなる。

「……動いてるわ」

短く。

だが、はっきりと。

「加茂の影が、来てる」

空気が、変わる。

一瞬で。

穏やかな家庭の空気から。

かつての“世界”へ。

宗一郎の表情も、引き締まる。

「……やっぱりか」

予想はしていた。

だが、現実になると話は別だ。

「禪院も、時間の問題ね」

綾乃が続ける。

両方来る。

確実に。

「……面倒だな」

宗一郎が、小さく息を吐く。

だが、その目は覚悟を決めていた。

「守るぞ」

短い言葉。

だが、それで十分。

「ええ」

綾乃も、頷く。

迷いはない。

その時。

「おーい、母さん!」

声が響く。

オビト。

いつも通りの、明るい声。

「腹減った!」

(……ほんとに)

綾乃は、ほんの少しだけ笑う。

緊張が、和らぐ。

だが。

消えはしない。

(まだ、知らない)

この子は。

何も。

迫りつつあるものも。

その意味も。

「すぐできるわよ」

いつも通りに、返す。

それが、今できる最善。

日常を、崩さない。

守る。

そのために。

外では。

静かに。

確実に。

“何か”が、近づいていた。


〆栞
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