五条悟と禪院宗一郎
夜。
人通りもまばらな帰り道。
街灯の光が、ぽつぽつと続いている。
宗一郎は、一人で歩いていた。
仕事帰り。
いつもの時間。
いつもの道。
――のはずだった。
「……あ、見つけた」
声。
軽い。
まるで、偶然誰かを見つけたかのような。
だが。
(……っ)
宗一郎の足が、止まる。
振り返る。
そこにいたのは――
五条悟
白髪。
サングラス。
そして。
隠しきれない“圧”。
(……なんでここにいる)
一瞬で理解する。
ただの人間じゃない。
同じ側の人間。
いや――
それ以上。
「いやー、探した探した」
軽く手を振る。
まるで旧知の相手にでも会ったかのように。
だが。
宗一郎の内心は、穏やかじゃない。
(五条……)
知っている。
名前だけは。
だが。
直接関わるのは、初めてだ。
それも、そのはずだ。
(あいつがガキの頃に、俺は出てる)
時間が、ずれている。
それでも。
目の前の存在が、どれだけ“危険”かは分かる。
「……何の用だ」
低く、問う。
警戒は解かない。
一切。
「んー?」
五条は、少しだけ首を傾げる。
「別に?ただ会いに来ただけ」
軽い。
軽すぎる。
だが、その裏にあるものは軽くない。
「禪院宗一郎」
名前を呼ばれる。
逃げ場はない。
「……その名は捨てた」
宗一郎が、静かに返す。
「今は裏葉だ」
「裏葉、ねぇ」
五条が、口元を緩める。
「それって、なんか意味あんの?」
「……さあな」
肩をすくめる。
本当の意味なんて、深く考えたことはない。
ただ。
過去と切り離すための名前。
それだけだ。
「ふーん」
興味なさそうに頷く。
だが、その目は。
ちゃんと見ている。
全部。
「でさ」
ふと、話題が変わる。
「子供、いるんでしょ?」
(……っ)
一瞬。
心臓が、跳ねる。
だが、顔には出さない。
出さないように、抑える。
「……さあな」
とぼける。
それしかない。
だが。
「いやいや」
五条は、軽く笑う。
「隠すの下手だよ?」
指を、ひらひらと振る。
「安心して。もう知ってるから」
(……チッ)
内心で舌打ちする。
情報は、回っている。
分かっていたことだ。
だが。
「……それで?」
低く問う。
次の言葉を、促す。
五条が、少しだけ楽しそうに目を細めた。
「元呪術師としてさ」
わざと、言葉を選ぶように。
「父親として」
そして。
核心を突く。
「どんな子?」
静かに、問いかける。
軽い口調。
だが。
逃げ場はない。
「……」
宗一郎は、少しだけ目を閉じた。
考える。
言葉を選ぶ。
だが。
すぐに、やめた。
(……隠しても意味ねぇか)
どうせ、いずれ知られる。
なら。
答えは、一つだ。
「……普通じゃない」
短く、言う。
それが、全てだ。
「だろうね」
五条は、即答した。
予想通り、とでも言いたげに。
「でもさ」
一歩、近づく。
距離が、縮まる。
「それだけじゃないでしょ?」
視線が、ぶつかる。
逃げられない。
だから。
宗一郎は、はっきりと言った。
「……いい奴だ」
言葉にして、少しだけ笑う。
「まっすぐで」
「よく笑って」
「馬鹿みたいに全力で」
頭に浮かぶ。
走り回る姿。
笑っている顔。
「……俺の、自慢の息子だ」
その言葉に。
一切の迷いはなかった。
沈黙。
数秒。
そして。
「へぇ」
五条が、小さく笑う。
「いいね、それ」
軽く言う。
だが。
その目は、少しだけ柔らかかった。
「ますます興味出た」
(……だろうな)
予想通りだ。
「会わせる気は?」
「ねぇよ」
即答。
一切の迷いなく。
「即答じゃん」
「当然だ」
宗一郎の目が、鋭くなる。
「関わらせる気はない」
守る。
それだけは、絶対だ。
五条は、しばらく黙っていた。
そして。
ふっと、息を吐く。
「まあ、いいや」
あっさりと引く。
「無理にってのは趣味じゃないし」
軽く手を振る。
「そのうち会うでしょ」
まるで、確定事項のように言う。
「……会わせねぇよ」
宗一郎が、低く返す。
だが。
五条は、笑うだけだった。
「どうかな」
一歩、下がる。
距離を取る。
「じゃ、今日はこれで」
背を向ける。
そのまま、歩き出す。
止める理由はない。
止められるとも、思っていない。
ただ。
一つだけ、残る。
「――気をつけてね」
振り返らずに、言う。
「もう、色々動いてるから」
その言葉だけを残して。
五条悟は、夜の中へ消えた。
静寂。
再び、戻る。
「……はぁ」
宗一郎が、大きく息を吐く。
張り詰めていたものが、少しだけ緩む。
(……面倒なのに見つかったな)
だが。
それでも。
やることは変わらない。
「……守るだけだ」
小さく呟く。
それだけは、絶対に揺らがない。
そして。
夜は、静かに更けていく。
人通りもまばらな帰り道。
街灯の光が、ぽつぽつと続いている。
宗一郎は、一人で歩いていた。
仕事帰り。
いつもの時間。
いつもの道。
――のはずだった。
「……あ、見つけた」
声。
軽い。
まるで、偶然誰かを見つけたかのような。
だが。
(……っ)
宗一郎の足が、止まる。
振り返る。
そこにいたのは――
五条悟
白髪。
サングラス。
そして。
隠しきれない“圧”。
(……なんでここにいる)
一瞬で理解する。
ただの人間じゃない。
同じ側の人間。
いや――
それ以上。
「いやー、探した探した」
軽く手を振る。
まるで旧知の相手にでも会ったかのように。
だが。
宗一郎の内心は、穏やかじゃない。
(五条……)
知っている。
名前だけは。
だが。
直接関わるのは、初めてだ。
それも、そのはずだ。
(あいつがガキの頃に、俺は出てる)
時間が、ずれている。
それでも。
目の前の存在が、どれだけ“危険”かは分かる。
「……何の用だ」
低く、問う。
警戒は解かない。
一切。
「んー?」
五条は、少しだけ首を傾げる。
「別に?ただ会いに来ただけ」
軽い。
軽すぎる。
だが、その裏にあるものは軽くない。
「禪院宗一郎」
名前を呼ばれる。
逃げ場はない。
「……その名は捨てた」
宗一郎が、静かに返す。
「今は裏葉だ」
「裏葉、ねぇ」
五条が、口元を緩める。
「それって、なんか意味あんの?」
「……さあな」
肩をすくめる。
本当の意味なんて、深く考えたことはない。
ただ。
過去と切り離すための名前。
それだけだ。
「ふーん」
興味なさそうに頷く。
だが、その目は。
ちゃんと見ている。
全部。
「でさ」
ふと、話題が変わる。
「子供、いるんでしょ?」
(……っ)
一瞬。
心臓が、跳ねる。
だが、顔には出さない。
出さないように、抑える。
「……さあな」
とぼける。
それしかない。
だが。
「いやいや」
五条は、軽く笑う。
「隠すの下手だよ?」
指を、ひらひらと振る。
「安心して。もう知ってるから」
(……チッ)
内心で舌打ちする。
情報は、回っている。
分かっていたことだ。
だが。
「……それで?」
低く問う。
次の言葉を、促す。
五条が、少しだけ楽しそうに目を細めた。
「元呪術師としてさ」
わざと、言葉を選ぶように。
「父親として」
そして。
核心を突く。
「どんな子?」
静かに、問いかける。
軽い口調。
だが。
逃げ場はない。
「……」
宗一郎は、少しだけ目を閉じた。
考える。
言葉を選ぶ。
だが。
すぐに、やめた。
(……隠しても意味ねぇか)
どうせ、いずれ知られる。
なら。
答えは、一つだ。
「……普通じゃない」
短く、言う。
それが、全てだ。
「だろうね」
五条は、即答した。
予想通り、とでも言いたげに。
「でもさ」
一歩、近づく。
距離が、縮まる。
「それだけじゃないでしょ?」
視線が、ぶつかる。
逃げられない。
だから。
宗一郎は、はっきりと言った。
「……いい奴だ」
言葉にして、少しだけ笑う。
「まっすぐで」
「よく笑って」
「馬鹿みたいに全力で」
頭に浮かぶ。
走り回る姿。
笑っている顔。
「……俺の、自慢の息子だ」
その言葉に。
一切の迷いはなかった。
沈黙。
数秒。
そして。
「へぇ」
五条が、小さく笑う。
「いいね、それ」
軽く言う。
だが。
その目は、少しだけ柔らかかった。
「ますます興味出た」
(……だろうな)
予想通りだ。
「会わせる気は?」
「ねぇよ」
即答。
一切の迷いなく。
「即答じゃん」
「当然だ」
宗一郎の目が、鋭くなる。
「関わらせる気はない」
守る。
それだけは、絶対だ。
五条は、しばらく黙っていた。
そして。
ふっと、息を吐く。
「まあ、いいや」
あっさりと引く。
「無理にってのは趣味じゃないし」
軽く手を振る。
「そのうち会うでしょ」
まるで、確定事項のように言う。
「……会わせねぇよ」
宗一郎が、低く返す。
だが。
五条は、笑うだけだった。
「どうかな」
一歩、下がる。
距離を取る。
「じゃ、今日はこれで」
背を向ける。
そのまま、歩き出す。
止める理由はない。
止められるとも、思っていない。
ただ。
一つだけ、残る。
「――気をつけてね」
振り返らずに、言う。
「もう、色々動いてるから」
その言葉だけを残して。
五条悟は、夜の中へ消えた。
静寂。
再び、戻る。
「……はぁ」
宗一郎が、大きく息を吐く。
張り詰めていたものが、少しだけ緩む。
(……面倒なのに見つかったな)
だが。
それでも。
やることは変わらない。
「……守るだけだ」
小さく呟く。
それだけは、絶対に揺らがない。
そして。
夜は、静かに更けていく。
【〆栞】