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父さん母さん事件です�A

放課後。

ランドセルの重みも、もう慣れたもんだ。

六年生のこの時期になると、帰り道の風景も見飽きてくる。いつもと同じ電柱、同じ曲がり角、同じ公園。

(……平和だな)

ぼんやりとそんなことを思いながら歩いていた、その時。

前方。

道の先に、立っている影があった。

一人じゃない。

二人、三人――いや、もっとか。

(……あー)

足を止めるほどじゃない。

だが、気づかないふりをするには、ちょっと多い。

視線を外す。

そのまま、何事もないように歩く。

(……直接かよ)

内心でため息をつく。

この前と同じ匂いだ。

ただし、今度は数が違う。

(親を通せ、親を)

筋ってもんがあるだろうが。

だが、まあ。

(通したら返り討ちか)

それは、分かる。

父さんと母さんの顔が、頭に浮かぶ。

あの二人に正面から行くのは、正直おすすめできねぇ。

だから、こうして。

(飛び越えて来たってわけか)

合理的ではある。

面倒だが。

歩く。

そのまま、近づく。

相手は、動かない。

ただ、待っている。

完全に、こっちを狙って。

(……ていうか)

ふと、思う。

(デジャヴだな)

ついこの前も、こんな感じだった。

違うのは、人数くらいか。

(……まあいいや)

結論。

関わらない。

それが一番だ。

そのまま、横を通り過ぎる。

視線も向けない。

完全に、他人。

だが――

「裏葉オビト」

背後から、声が飛ぶ。

無視。

聞こえてないふり。

そのまま、歩く。

「止まれ」

今度は、少し強い声。

(止まる理由ねぇだろ)

内心で返す。

足は止めない。

次の瞬間。

気配が、動いた。

横。

前。

後ろ。

「――」

気づけば。

囲まれていた。

(……おいおい)

思わず、足を止める。

前方に二人。

左右に一人ずつ。

後ろにも、気配。

完全に、逃げ道を塞がれている。

(やる気満々だな)

視線を上げる。

全員、同じ系統だ。

無駄のない立ち方。

隙の少ない構え。

(禪院、か)

なんとなく分かる。

父さんと似てる。

動きの“質”が。

「……何だよ」

ゆっくりと、口を開く。

ため息混じりに。

「また子供に直接か?」

少しだけ、眉をひそめる。

「親に用があるなら、そっち行けよ」

筋は通ってる。

今回も、同じだ。

だが。

「お前が対象だ」

前に立つ男が、淡々と告げる。

感情が薄い。

ただ、任務をこなす声。

(……はいはい)

理解した。

話は通じないタイプだ。

「面倒くせぇな」

ぽつりと呟く。

本音だ。

帰りたい。

普通に。

飯食って、寝たい。

それだけなのに。

「抵抗は無意味だ」

別の男が言う。

さっき聞いたような台詞。

(……ほんと、同じこと言うな)

少しだけ、口元が緩む。

呆れ半分。

そして――

(舐めてるな)

確信する。

こいつらも、同じだ。

子供だから。

数で囲めばどうにかなると思ってる。

(……だったら)

ゆっくりと、ランドセルを下ろす。

地面に置く。

肩が軽くなる。

「……いいぜ」

軽く、首を回す。

体をほぐす。

「相手してやるよ」

視線を上げる。

正面の男を見る。

その目に。

一切の迷いはない。

囲まれている。

数は多い。

だが――

(関係ねぇな)

体の奥で、何かが静かに動く。

血。

水。

そして、火。

全部が、そこにある。

「来いよ」

短く言い放つ。

その声は。

静かで。

だが、はっきりとした“戦意”を帯びていた。


【〆栞】
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