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父さん母さん事件です�B

七月上旬。

日差しは強く、空気はじっとりと重い。

セミの声がやたらとうるさい帰り道を、オビトはいつも通り歩いていた。

(……暑いな)

ランドセルの背中が蒸れる。

さっさと帰って水でも飲みたい。

そんなことを考えていた、その時。

視界の端に、異物が映った。

白い。

やたらと目立つ。

白髪。

そして、目隠し。

包帯のようなものを巻いている。

(……なんだあれ)

足を止めるほどじゃない。

だが、確実に“普通じゃない”。

しかも――

(禪院とも加茂とも違うな)

同じ系統ではある。

だが、雰囲気が違う。

あいつらはもっと“硬い”。

こいつは――

(軽い)

明らかに。

ふわふわしてる。

というか。

(……不審者じゃねぇか)

見た目からしてアウトだ。

どう見てもアウト。

満場一致でアウト。

(……ああ、そうか)

ふと、思い出す。

御三家。

禪院。

加茂。

そして――

(五条家)

なるほど。

納得した。

(五条家は不審者系なんだな)

結論が出る。

分かりやすい。

非常に。

(関わらねぇ方がいいな)

即判断。

進路を、ほんの少しだけ変える。

距離を取る。

近づかない。

それが最善。

そのまま、何事もないように通り過ぎる。

――はずだった。

「ねえ君」

声が、飛んできた。

軽い。

やっぱり軽い。

(来たな)

足は止めない。

そのまま歩く。

「ちょっといい?」

「よくねぇ」

即答。

反射で出た。

「えー、冷たいなぁ」

「知らねぇ奴について行くなって教わってる」

当然の対応だ。

むしろ満点。

「怪しくないよ?」

「怪しいだろ」

即否定。

白髪。

目隠し。

軽いノリ。

三拍子揃ってる。

(完璧だな)

不審者として。

「ちょっと傷つくなぁ」

全然傷ついてなさそうに言う。

(ダメだこいつ)

会話するだけ無駄。

そう判断した瞬間。

オビトは、大きく息を吸った。

そして――

「お巡りさーん!!」

全力で叫ぶ。

周囲に響く。

完璧な通報。

「ちょっと待って!?」

明らかに焦った声。

(効いてるな)

いい反応だ。

さらに声を上げようとした、その瞬間。

視界が、ぶれる。

「――っ!?」

気づいた時には。

地面が、遠い。

いや。

自分が、浮いている。

(……は?)

体が、持ち上げられている。

軽々と。

まるで荷物みたいに。

「ちょ、待っ――」

言い切る前に。

景色が、流れる。

速い。

明らかに、速い。

(……いやいやいや)

理解が、追いつかない。

これ。

完全に。

(拉致じゃねぇか!!)

白昼堂々。

真昼間。

人通りのある場所で。

小学生を。

担いで。

運んでいる。

(いや犯罪だろこれ!!)

思考が、一瞬止まる。

あまりにも。

あまりにも展開が飛びすぎて。

反撃すら、遅れる。

というか。

(怖ぇわ!!)

見た目からしてアウトなのに。

やってることもアウト。

むしろ、見た目以上にアウト。

「ちょっと大人しくしててねー」

軽い声。

軽すぎる。

(軽くねぇよ!!)

内心で全力ツッコミ。

だが。

それ以上に。

(なんだこいつ……)

力。

速さ。

気配。

全部が、異常。

禪院や加茂とは違う。

だが。

同じか、それ以上。

(……やべぇな)

本能が、警告する。

だが、それ以上に。

別の感情が浮かぶ。

(……なんか)

一瞬、考えて。

そして、結論が出る。

(禪院と加茂、まともだったな)

あいつら、ちゃんと“敵”だった。

筋は通ってた。

正面から来た。

だが。

(こいつ)

不審者。

ナンパ。

拉致。

三連コンボ。

(最悪だろ)

評価が、地の底まで落ちる。

そのまま、運ばれながら。

オビトは、真顔で思っていた。

(父さん母さん――)

心の中で、静かに呟く。

(事件です)


【〆栞】
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