家族同然
季節が、一つ巡った。
裏葉という名の家から離れ、虎杖家での生活が始まってから。
最初は、少しだけ違和感があった。
間取りも違う。
匂いも違う。
生活音も、どこか違う。
だが――
「オビト、飯できてるぞ」
「おう」
その一言で、全部がどうでもよくなる。
倭助の声。
悠仁の気配。
(……まあ、いいか)
そう思える。
それで、十分だった。
朝。
早く起きるのは、もう習慣だ。
台所に立つ。
米を研ぐ。
味噌汁の準備。
火加減を調整する。
(……このくらいはな)
倭助に全部任せる気はない。
年齢もある。
負担は減らしたい。
だから、自然と手が動く。
掃除。
洗濯。
買い出し。
出来ることは、全部やる。
「……助かるな」
倭助が、ぽつりと呟く。
それだけ。
だが、それでいい。
「気にすんな」
軽く返す。
大したことじゃない。
(家族だしな)
その感覚は、もう当たり前だった。
悠仁との生活も、変わらない。
むしろ――
「おい悠仁、起きろ!」
「あと五分……!」
「遅刻すんぞ!」
布団を引っぺがす。
抵抗される。
引っ張る。
「うおっ!?」
そのまま床に転がる悠仁。
「いてぇ!」
「起きたな」
「雑すぎんだろ!!」
朝から騒がしい。
だが、それが普通だ。
小学校を卒業し。
同じ中学校へ入学。
制服姿の悠仁を見て、少しだけ笑った。
「似合ってんじゃねぇか」
「お前もな」
そんなやり取りをしながら、三年間。
時間は、あっという間だった。
成績は、問題なかった。
むしろ。
「またトップか」
テストの順位表。
一番上に、自分の名前。
(まあ、こんなもんだろ)
前世の記憶もある。
理解力もある。
困る要素がない。
結果。
「オビト、ちょっと来い」
倭助に呼ばれる。
居間。
座る。
「悠仁の勉強、見てやれ」
「……ああ」
即答。
当然だ。
その日から。
悠仁専属の家庭教師。
「ここ違ぇよ」
「え、マジで?」
「マジだ」
ノートを叩く。
「こここうだろ」
「あー、なるほど……って分かるか!!」
「分かれ」
「無茶言うな!!」
騒がしい。
だが、楽しい。
そんな日々の中で。
気づけば――
「……なんで俺が」
生徒会室。
椅子に座っている。
目の前に、書類。
周りには、他の役員。
「会長、これ確認お願いします」
「……ああ」
自然と返す。
(……いつの間にだよ)
気づいたら、生徒会長になっていた。
理由は知らない。
流れで、そうなっていた。
(まあいいか)
問題はない。
やるだけだ。
そして。
「おい悠仁」
呼ぶ。
「何だよ」
振り返る。
「お前、副会長な」
「は?」
固まる。
数秒。
「いや待て」
「何だ」
「生徒副会長なんてねぇだろ!?」
至極まっとうなツッコミ。
だが。
「勝手に作った」
ドヤ顔で言う。
「はぁ!?」
「今日からある」
「いやいやいや!!」
「決定な」
「横暴すぎんだろ!!」
騒がしい。
だが。
それでいい。
そんな日々が、続く。
学校。
家。
笑って、騒いで、怒られて。
普通の生活。
(……悪くねぇな)
心から、そう思える。
その裏で。
“虫”も、相変わらずいた。
むしろ――
(増えてんな)
両親がいなくなった分。
寄ってくる数が増えた。
だが。
「……鬱陶しいな」
指先を、軽く動かす。
血。
水。
火。
必要な分だけ。
一瞬で。
消す。
(まあ、虫だしな)
感覚は、変わらない。
見つけて。
潰す。
それだけだ。
そして――
三年。
時間が、少しずつ変わり始める。
「……ふぅ」
倭助が、息を吐く。
その回数が、増えた。
「大丈夫か?」
「問題ねぇ」
そう言う。
だが。
分かる。
(……違うな)
前と違う。
少しずつ。
確実に。
「検査入院だ」
そんな言葉も、増えてきた。
病院。
白い部屋。
無機質な空気。
「すぐ戻る」
倭助は、そう言って笑う。
だが。
(……無理すんなよ)
心の中で、呟く。
声には出さない。
まだ。
その時じゃない。
だが。
確実に。
何かが、変わり始めていた。
それでも。
日常は、続く。
笑って。
騒いで。
過ごす時間。
それが、どれだけ大事か。
ちゃんと、分かっているから。
裏葉という名の家から離れ、虎杖家での生活が始まってから。
最初は、少しだけ違和感があった。
間取りも違う。
匂いも違う。
生活音も、どこか違う。
だが――
「オビト、飯できてるぞ」
「おう」
その一言で、全部がどうでもよくなる。
倭助の声。
悠仁の気配。
(……まあ、いいか)
そう思える。
それで、十分だった。
朝。
早く起きるのは、もう習慣だ。
台所に立つ。
米を研ぐ。
味噌汁の準備。
火加減を調整する。
(……このくらいはな)
倭助に全部任せる気はない。
年齢もある。
負担は減らしたい。
だから、自然と手が動く。
掃除。
洗濯。
買い出し。
出来ることは、全部やる。
「……助かるな」
倭助が、ぽつりと呟く。
それだけ。
だが、それでいい。
「気にすんな」
軽く返す。
大したことじゃない。
(家族だしな)
その感覚は、もう当たり前だった。
悠仁との生活も、変わらない。
むしろ――
「おい悠仁、起きろ!」
「あと五分……!」
「遅刻すんぞ!」
布団を引っぺがす。
抵抗される。
引っ張る。
「うおっ!?」
そのまま床に転がる悠仁。
「いてぇ!」
「起きたな」
「雑すぎんだろ!!」
朝から騒がしい。
だが、それが普通だ。
小学校を卒業し。
同じ中学校へ入学。
制服姿の悠仁を見て、少しだけ笑った。
「似合ってんじゃねぇか」
「お前もな」
そんなやり取りをしながら、三年間。
時間は、あっという間だった。
成績は、問題なかった。
むしろ。
「またトップか」
テストの順位表。
一番上に、自分の名前。
(まあ、こんなもんだろ)
前世の記憶もある。
理解力もある。
困る要素がない。
結果。
「オビト、ちょっと来い」
倭助に呼ばれる。
居間。
座る。
「悠仁の勉強、見てやれ」
「……ああ」
即答。
当然だ。
その日から。
悠仁専属の家庭教師。
「ここ違ぇよ」
「え、マジで?」
「マジだ」
ノートを叩く。
「こここうだろ」
「あー、なるほど……って分かるか!!」
「分かれ」
「無茶言うな!!」
騒がしい。
だが、楽しい。
そんな日々の中で。
気づけば――
「……なんで俺が」
生徒会室。
椅子に座っている。
目の前に、書類。
周りには、他の役員。
「会長、これ確認お願いします」
「……ああ」
自然と返す。
(……いつの間にだよ)
気づいたら、生徒会長になっていた。
理由は知らない。
流れで、そうなっていた。
(まあいいか)
問題はない。
やるだけだ。
そして。
「おい悠仁」
呼ぶ。
「何だよ」
振り返る。
「お前、副会長な」
「は?」
固まる。
数秒。
「いや待て」
「何だ」
「生徒副会長なんてねぇだろ!?」
至極まっとうなツッコミ。
だが。
「勝手に作った」
ドヤ顔で言う。
「はぁ!?」
「今日からある」
「いやいやいや!!」
「決定な」
「横暴すぎんだろ!!」
騒がしい。
だが。
それでいい。
そんな日々が、続く。
学校。
家。
笑って、騒いで、怒られて。
普通の生活。
(……悪くねぇな)
心から、そう思える。
その裏で。
“虫”も、相変わらずいた。
むしろ――
(増えてんな)
両親がいなくなった分。
寄ってくる数が増えた。
だが。
「……鬱陶しいな」
指先を、軽く動かす。
血。
水。
火。
必要な分だけ。
一瞬で。
消す。
(まあ、虫だしな)
感覚は、変わらない。
見つけて。
潰す。
それだけだ。
そして――
三年。
時間が、少しずつ変わり始める。
「……ふぅ」
倭助が、息を吐く。
その回数が、増えた。
「大丈夫か?」
「問題ねぇ」
そう言う。
だが。
分かる。
(……違うな)
前と違う。
少しずつ。
確実に。
「検査入院だ」
そんな言葉も、増えてきた。
病院。
白い部屋。
無機質な空気。
「すぐ戻る」
倭助は、そう言って笑う。
だが。
(……無理すんなよ)
心の中で、呟く。
声には出さない。
まだ。
その時じゃない。
だが。
確実に。
何かが、変わり始めていた。
それでも。
日常は、続く。
笑って。
騒いで。
過ごす時間。
それが、どれだけ大事か。
ちゃんと、分かっているから。
【〆栞】