高校入学

春。

新しい制服。

見慣れない校舎。

だが、隣にいる顔は変わらない。

「オビト!」

「おう」

虎杖悠仁が、いつも通りの調子で声をかけてくる。

それだけで、妙に安心する。

杉沢第三高等学校。

入学式を終えたばかりの校内は、ざわついていた。

新入生の声。

上級生の視線。

新しい空気。

(……まあ、こんなもんか)

特別な感慨はない。

ただ――

「部活どうする?」

悠仁が、いきなり本題に入る。

(早ぇな)

まだ入学したばっかだぞ。

だが、こいつらしい。

「お前は?」

「決めてる!」

満面の笑み。

嫌な予感しかしない。

「霊異現象研究会!」

(……ああ)

そう来たか。

「通称オカ研!」

「いや通称いらねぇだろ」

思わず突っ込む。

だが。

悠仁は、気にしない。

「面白そうじゃん!」

キラキラしている。

完全に、楽しむ気満々だ。

(……まあ)

少しだけ考える。

強制じゃない。

だが。

「……行くか」

ぽつりと、言う。

「マジで!?」

「お前一人でやらかす方が面倒だ」

正直な理由。

「ひでぇ!」

「事実だろ」

肩をすくめる。

結果。

巻き込まれる形で。

オビトも、オカ研へ。

部室。

古い。

少し埃っぽい。

だが。

「お、来た来た」

先輩が二人。

「新入生?」

「はい!」

悠仁が元気よく返す。

「いいねー、歓迎するよ」

佐々木先輩。

ゆるい雰囲気。

だが、どこか鋭い。

「人数ギリだったから助かるわ」

井口先輩。

こちらも、軽い。

だが。

しっかりしている。

「これで四人か」

「ちょうどいいな」

悠仁とオビト。

佐々木と井口。

これで、部は成立。

「よろしくお願いします」

オビトが、軽く頭を下げる。

そのまま、部室を見渡す。

(……虫、いそうだな)

案の定。

気配がある。

黒い、あれ。

(まあ、あとで潰すか)

いつも通り。

それでいい。

日常は、動き出す。

学校。

授業。

部活。

そして――

病院。

「……来たか」

ベッドの上。

倭助が、こちらを見る。

「おう」

オビトが、椅子に腰掛ける。

その隣で、悠仁が袋を置く。

「見舞い!」

「おう、ありがとよ」

軽いやり取り。

だが。

空気は、どこか静かだ。

検査入院。

回数は、確実に増えている。

(……長ぇな)

滞在が。

前より。

だが。

「元気そうじゃねぇか」

オビトが、軽く言う。

「当たり前だ」

倭助が、鼻を鳴らす。

「まだくたばらねぇよ」

その言葉に。

少しだけ、安心する。

完全じゃない。

だが。

それでも。

「ははっ、じいちゃん元気だな!」

悠仁が笑う。

その声が、部屋を軽くする。

(……いいな)

こういう時間。

ちゃんと、大事にする。

学校と、部活と、見舞い。

忙しい。

だが。

嫌じゃない。

むしろ――

(充実してるな)

そう思える。

そして。

夜。

自室。

静かな時間。

机の上に、ノート。

ペンを走らせる。

「……血」

赤血操術。

これは、分かる。

使っている。

理解も進んでいる。

「……水」

流れ。

循環。

操作。

これも、掴めてきた。

「火」

変換。

爆発。

「雷」

加速。

貫通。

それぞれ。

断片的だが、繋がり始めている。

(……でも)

まだ、全体像は見えない。

もっと、奥。

根源的な何か。

火、風、雷、土、水、木。

そして――

陰と陽。

(……なんだ、これ)

呟く。

答えは、出ない。

だが。

「……面白ぇな」

口元が、少しだけ緩む。

分からないから、面白い。

知らないから、進める。

独学。

誰にも教わらない。

それでも。

(やれる)

確信がある。

ペンを止める。

窓の外を見る。

夜は、静かだ。

その中で。

オビトは、一人で進んでいた。

誰にも知られず。

確実に。


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