肝試し
朝。
下駄箱を開けた瞬間、紙が落ちた。
一枚じゃない。
二枚、三枚――いや、もっとか。
(……またか)
オビトは、無言でそれらを拾い上げる。
封筒。
カラフル。
可愛らしいシール。
香りつきまである。
(気合い入ってんな……)
中身は見なくても分かる。
ラブレター。
定番中の定番。
「うわ、またかよ」
後ろから覗き込んできた悠仁が、苦笑する。
「すげーな、お前」
「……勘弁してくれ」
溜息が出る。
正直、面倒だ。
「何がいいんだろうな」
悠仁が、ぽつりと呟く。
「顔よし、背も高い、頭もいい、運動もできる」
指折り数える。
「優しい」
最後に、それを足す。
「……それ全部だろ」
「そりゃモテるわ」
納得したように頷く。
(……優しい、か)
自覚はない。
ただ。
(困ってるやつは放っとけねぇだけだ)
それだけだ。
「お前も普通にモテてんだろ」
軽く返す。
「いやいやいや」
悠仁が手を振る。
「俺は違うって」
「どこがだよ」
「いや、ほら、なんか違うじゃん?」
(雑だな)
だが。
確かに違う。
オビトは、もう一度封筒を見て。
「……あとで返すか」
適当にまとめて、鞄に突っ込んだ。
放課後。
オカ研の部室。
「というわけで!」
佐々木先輩が、両手を広げる。
「肝試しやります!」
(来たな)
予想通り。
「いいねー、これぞオカ研って感じ!」
井口先輩が、やたらテンション高い。
だが。
(絶対こいつ怖がりだな)
雰囲気で分かる。
「場所は校舎裏の旧校舎!」
「おー!」
悠仁が、楽しそうに声を上げる。
完全にノリノリだ。
(まあ、こいつは余裕だろうな)
問題は――
「……怖くないですか?」
佐々木先輩の声が、すでに震えている。
(やっぱりな)
開始前からこれだ。
案の定。
夜。
旧校舎。
暗い。
静か。
空気が重い。
「……行くぞ!」
悠仁が先頭に立つ。
躊躇がない。
(頼もしいな)
そのまま進む。
だが――
「ちょ、ちょっと待って!」
腕を、掴まれる。
左。
佐々木先輩。
「は、離れないで……!」
「……」
(いや近い)
かなり近い。
密着。
柔らかい。
(……あるんだな)
思わず思う。
(すげー柔らかいし弾力ヤバい)
健全男子の、素直な感想だった。
「……歩き辛いんですけど」
小声で言う。
「無理!」
即答。
「絶対無理!!」
(ですよねー)
そして。
右。
「うおおおおお!?」
野太い悲鳴。
「ひぃぃぃ!!」
井口先輩。
男。
なのに。
がっちり腕にしがみついている。
「……あんた男だろ」
「怖いもんは怖いんだよ!!」
力が強い。
無駄に。
(離せ)
左右から挟まれる。
完全に。
逃げ場なし。
「……悠仁」
前を見る。
助けを求める視線。
「助けろ」
特に。
左を。
「いや無理だろ」
即答。
笑っている。
「挟まってんじゃん」
「見りゃ分かる」
「てかさ」
悠仁が、ぽつりと言う。
「ほんとモテるよな」
「何の感想だよ」
「いや、なんかさ」
ちらっと見る。
「分かる気がする」
(やめろ)
変な納得するな。
「嫌なら逃げればいいのに」
悠仁が、続ける。
「そういうとこなんだよな」
(……)
言われて、少しだけ考える。
確かに。
振り払うことはできる。
力もある。
距離も取れる。
だが。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
結局。
そのまま。
「……行くぞ」
歩き出す。
左右に人をぶら下げたまま。
「ひぃぃぃ!!」
「やだやだやだ!!」
騒がしい。
重い。
歩き辛い。
(何の耐久テストだよ)
本気で思う。
だが。
「でも!」
佐々木先輩が、涙目で言う。
「オビトくんと悠仁くんがいなかったら!」
「肝試しなんてできないもん!!」
井口先輩も、激しく頷く。
「マジでそれ!!」
(……まあ)
悪い気はしない。
少しだけ。
本当に少しだけ。
「……佐々木先輩」
「な、なに!?」
「腕、離してくれません?」
「無理!!」
即答。
(知ってた)
「……あー、もう」
空を見上げる。
見えないけど。
ため息を吐く。
そのまま。
四人で進む。
騒がしく。
怖がって。
笑って。
そんな時間が、流れていく。
悠仁が、ちらっと横を見る。
(……やっぱりな)
心の中で思う。
(優しいんだよな、こいつ)
嫌なら、逃げられる。
でも、しない。
それが。
裏葉オビトという人間だった。
下駄箱を開けた瞬間、紙が落ちた。
一枚じゃない。
二枚、三枚――いや、もっとか。
(……またか)
オビトは、無言でそれらを拾い上げる。
封筒。
カラフル。
可愛らしいシール。
香りつきまである。
(気合い入ってんな……)
中身は見なくても分かる。
ラブレター。
定番中の定番。
「うわ、またかよ」
後ろから覗き込んできた悠仁が、苦笑する。
「すげーな、お前」
「……勘弁してくれ」
溜息が出る。
正直、面倒だ。
「何がいいんだろうな」
悠仁が、ぽつりと呟く。
「顔よし、背も高い、頭もいい、運動もできる」
指折り数える。
「優しい」
最後に、それを足す。
「……それ全部だろ」
「そりゃモテるわ」
納得したように頷く。
(……優しい、か)
自覚はない。
ただ。
(困ってるやつは放っとけねぇだけだ)
それだけだ。
「お前も普通にモテてんだろ」
軽く返す。
「いやいやいや」
悠仁が手を振る。
「俺は違うって」
「どこがだよ」
「いや、ほら、なんか違うじゃん?」
(雑だな)
だが。
確かに違う。
オビトは、もう一度封筒を見て。
「……あとで返すか」
適当にまとめて、鞄に突っ込んだ。
放課後。
オカ研の部室。
「というわけで!」
佐々木先輩が、両手を広げる。
「肝試しやります!」
(来たな)
予想通り。
「いいねー、これぞオカ研って感じ!」
井口先輩が、やたらテンション高い。
だが。
(絶対こいつ怖がりだな)
雰囲気で分かる。
「場所は校舎裏の旧校舎!」
「おー!」
悠仁が、楽しそうに声を上げる。
完全にノリノリだ。
(まあ、こいつは余裕だろうな)
問題は――
「……怖くないですか?」
佐々木先輩の声が、すでに震えている。
(やっぱりな)
開始前からこれだ。
案の定。
夜。
旧校舎。
暗い。
静か。
空気が重い。
「……行くぞ!」
悠仁が先頭に立つ。
躊躇がない。
(頼もしいな)
そのまま進む。
だが――
「ちょ、ちょっと待って!」
腕を、掴まれる。
左。
佐々木先輩。
「は、離れないで……!」
「……」
(いや近い)
かなり近い。
密着。
柔らかい。
(……あるんだな)
思わず思う。
(すげー柔らかいし弾力ヤバい)
健全男子の、素直な感想だった。
「……歩き辛いんですけど」
小声で言う。
「無理!」
即答。
「絶対無理!!」
(ですよねー)
そして。
右。
「うおおおおお!?」
野太い悲鳴。
「ひぃぃぃ!!」
井口先輩。
男。
なのに。
がっちり腕にしがみついている。
「……あんた男だろ」
「怖いもんは怖いんだよ!!」
力が強い。
無駄に。
(離せ)
左右から挟まれる。
完全に。
逃げ場なし。
「……悠仁」
前を見る。
助けを求める視線。
「助けろ」
特に。
左を。
「いや無理だろ」
即答。
笑っている。
「挟まってんじゃん」
「見りゃ分かる」
「てかさ」
悠仁が、ぽつりと言う。
「ほんとモテるよな」
「何の感想だよ」
「いや、なんかさ」
ちらっと見る。
「分かる気がする」
(やめろ)
変な納得するな。
「嫌なら逃げればいいのに」
悠仁が、続ける。
「そういうとこなんだよな」
(……)
言われて、少しだけ考える。
確かに。
振り払うことはできる。
力もある。
距離も取れる。
だが。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
結局。
そのまま。
「……行くぞ」
歩き出す。
左右に人をぶら下げたまま。
「ひぃぃぃ!!」
「やだやだやだ!!」
騒がしい。
重い。
歩き辛い。
(何の耐久テストだよ)
本気で思う。
だが。
「でも!」
佐々木先輩が、涙目で言う。
「オビトくんと悠仁くんがいなかったら!」
「肝試しなんてできないもん!!」
井口先輩も、激しく頷く。
「マジでそれ!!」
(……まあ)
悪い気はしない。
少しだけ。
本当に少しだけ。
「……佐々木先輩」
「な、なに!?」
「腕、離してくれません?」
「無理!!」
即答。
(知ってた)
「……あー、もう」
空を見上げる。
見えないけど。
ため息を吐く。
そのまま。
四人で進む。
騒がしく。
怖がって。
笑って。
そんな時間が、流れていく。
悠仁が、ちらっと横を見る。
(……やっぱりな)
心の中で思う。
(優しいんだよな、こいつ)
嫌なら、逃げられる。
でも、しない。
それが。
裏葉オビトという人間だった。
【〆栞】