受肉
先輩たちの手は、冷たかった。
震えている。
力も入らないのか、歩くことすらままならない。
オビトは、二人を支えながら校舎の外へと運んだ。
なるべく、安全な場所へ。
気配の薄い場所へ。
そこまで来て、ようやく足を止める。
「……ここにいろ」
短く言う。
だが、その声はいつもより少しだけ柔らかい。
佐々木は、まだ震えていた。
その手が、無意識にオビトの服を掴む。
ぎゅっと。
離したくないとでも言うように。
「……ごめん」
か細い声。
「布を、開けようとしたら……」
息が乱れる。
言葉が、途切れ途切れになる。
「何かが、襲ってきて……」
恐怖が、まだ抜けていない。
「触っちゃいけないものだった……」
視線が、揺れる。
「私……とんでもないこと、したのかも」
その言葉を聞いて。
オビトは、ゆっくりと手を伸ばした。
佐々木の手の上に、自分の手を重ねる。
震えを、包むように。
「……悪くねぇよ」
静かに言う。
「これは、誰も悪くねぇ」
はっきりと。
「ただ」
一拍。
「今日は運が悪かった」
それだけだ、と。
言い切る。
その言葉に。
ほんの少しだけ、佐々木の震えが収まる。
井口も、息を吐いた。
まだ怖い。
だが。
完全に、壊れてはいない。
「ここにいろ」
もう一度、言う。
今度は、少しだけ強く。
「すぐ戻る」
二人をその場に残し。
オビトは、すぐに踵を返した。
走る。
校舎の中へ。
気配は、さらに濃くなっている。
重い。
淀んでいる。
そして――
(……外か)
感じる。
校舎の外。
別の気配。
そこへ向かう。
視界が開ける。
その先に。
伏黒が、地面に倒れていた。
息はある。
だが、動けない。
そして。
その前で。
悠仁が、立っていた。
呪霊と対峙している。
だが。
(……届いてねぇ)
分かる。
攻撃が、通っていない。
「俺に呪力があればいいんだろ!」
悠仁が叫ぶ。
その言葉に。
オビトと伏黒の意識が、同時に引き寄せられる。
(まさか――)
「やめろ!!」
声が重なる。
二人同時に。
だが。
間に合わない。
悠仁は、躊躇なく。
指を――
飲み込んだ。
瞬間。
空気が、爆ぜる。
一振り。
それだけで。
呪霊が、吹き飛んだ。
跡形もなく。
消える。
だが。
代わりに。
悠仁の体に、異変が走る。
黒い模様。
皮膚の上を這うように広がる。
そして。
顔に――
もう一つの目が、開く。
「ケヒッ」
笑い声。
歪んだ。
人のものではない。
「あー、いい」
ゆっくりと、首を回す。
「やっぱり生の光はいいな!」
その存在が、空気を支配する。
「いい時代になったもんだ」
目を細める。
「人がウジのように湧いている」
嗤う。
「女はどこだ? 子供は?」
その言葉に。
伏黒が、歯を食いしばる。
「……最悪だ」
低く、吐き出す。
「両面宿儺が受肉しやがった!」
両面宿儺
その名が、空気をさらに重くする。
宿儺は、伏黒に気づく。
目を細める。
だが。
すぐに興味を失ったように視線を逸らす。
その瞬間。
オビトが、動いた。
一歩。
踏み込む。
手を伸ばす。
宿儺の首元を、掴む。
「――」
空気が、止まる。
「なんだ貴様」
宿儺が、低く言う。
その声に、殺意が混じる。
だが。
オビトは、動じない。
「黙れ」
静かに。
「お前に用はねぇ」
はっきりと。
言い切る。
「……なんだと?」
空気が、歪む。
だが。
それ以上に。
オビトの内側で、何かが動く。
膨大な呪力。
それだけじゃない。
もっと深い。
五行の先。
陰と陽。
それが。
手先に。
言葉に。
宿る。
「お前は引け」
命令。
言葉が、力を持つ。
「悠仁、起きろ」
その瞬間。
宿儺の意識が、揺れる。
「……なんだ」
眉が、わずかに歪む。
「意識が、ぶれる……?」
違和感。
明確な。
「いや……こいつが……!」
強制的に。
引き込まれる。
その奥から。
「俺の体を」
声が、浮かび上がる。
「返せよ」
悠仁の意識。
それが、前に出る。
宿儺を、押し込む。
「……っ!」
宿儺の意識が、引き剥がされる。
完全ではない。
だが。
主導権は、戻る。
悠仁の体が、揺れる。
崩れ落ちる。
その瞬間。
オビトが、肩で受け止める。
「……おい」
静かに呼ぶ。
悠仁が、顔を上げる。
視線が、まだ少し泳いでいる。
「あー……オビト」
その声に。
オビトは、じっと睨む。
鋭く。
真っ直ぐに。
(……やべ)
悠仁の背中に、冷たいものが走る。
(完全に怒ってる)
分かる。
痛いほど。
優しいやつほど、怒らせると怖い。
それを、よく知っている。
「……ごめん」
素直に、謝る。
逃げない。
誤魔化さない。
オビトは、深く息を吐いた。
「……はあ」
ため息。
長く。
重い。
(知ってた)
こうなるって。
こいつは。
誰かのために、自分を投げるやつだ。
(……ほんと、似てるな)
ナルトの顔が、浮かぶ。
苦笑が、漏れそうになる。
オビトは、手を伸ばす。
悠仁の頭を、くしゃりと撫でる。
それから。
軽く、叩く。
「いてっ!」
「これで勘弁してやる」
それだけ。
だが。
十分だった。
悠仁は、小さく息を吐く。
(……やっぱ)
安心する。
(優しい)
そして。
(……強ぇ)
はっきりと、分かる。
オビトは、ふと自分の手を見る。
そこに、微かに残る感覚。
火でも、水でも、血でもない。
陰と陽。
それが、確かに動いた。
風が、頬を撫でる。
土の匂いが、微かに香る。
木々のざわめきが、遠くに聞こえる。
(……そろそろ、か)
向き合う時だ。
この力と。
「……あ」
気配。
軽い。
だが、強い。
「来た」
その言葉と同時に。
「今どんな感じ?」
軽い声が、割り込む。
視線の先。
白髪。
目隠し。
片手に――
仙台銘菓。
「喜久福」。
喜久福
そして、そのまま。
スマホを取り出し。
倒れている伏黒を――
撮る。
「……」
シャッター音。
無遠慮に。
容赦なく。
(……相変わらずだな)
オビトは、心の底から思った。
(クソだな)
震えている。
力も入らないのか、歩くことすらままならない。
オビトは、二人を支えながら校舎の外へと運んだ。
なるべく、安全な場所へ。
気配の薄い場所へ。
そこまで来て、ようやく足を止める。
「……ここにいろ」
短く言う。
だが、その声はいつもより少しだけ柔らかい。
佐々木は、まだ震えていた。
その手が、無意識にオビトの服を掴む。
ぎゅっと。
離したくないとでも言うように。
「……ごめん」
か細い声。
「布を、開けようとしたら……」
息が乱れる。
言葉が、途切れ途切れになる。
「何かが、襲ってきて……」
恐怖が、まだ抜けていない。
「触っちゃいけないものだった……」
視線が、揺れる。
「私……とんでもないこと、したのかも」
その言葉を聞いて。
オビトは、ゆっくりと手を伸ばした。
佐々木の手の上に、自分の手を重ねる。
震えを、包むように。
「……悪くねぇよ」
静かに言う。
「これは、誰も悪くねぇ」
はっきりと。
「ただ」
一拍。
「今日は運が悪かった」
それだけだ、と。
言い切る。
その言葉に。
ほんの少しだけ、佐々木の震えが収まる。
井口も、息を吐いた。
まだ怖い。
だが。
完全に、壊れてはいない。
「ここにいろ」
もう一度、言う。
今度は、少しだけ強く。
「すぐ戻る」
二人をその場に残し。
オビトは、すぐに踵を返した。
走る。
校舎の中へ。
気配は、さらに濃くなっている。
重い。
淀んでいる。
そして――
(……外か)
感じる。
校舎の外。
別の気配。
そこへ向かう。
視界が開ける。
その先に。
伏黒が、地面に倒れていた。
息はある。
だが、動けない。
そして。
その前で。
悠仁が、立っていた。
呪霊と対峙している。
だが。
(……届いてねぇ)
分かる。
攻撃が、通っていない。
「俺に呪力があればいいんだろ!」
悠仁が叫ぶ。
その言葉に。
オビトと伏黒の意識が、同時に引き寄せられる。
(まさか――)
「やめろ!!」
声が重なる。
二人同時に。
だが。
間に合わない。
悠仁は、躊躇なく。
指を――
飲み込んだ。
瞬間。
空気が、爆ぜる。
一振り。
それだけで。
呪霊が、吹き飛んだ。
跡形もなく。
消える。
だが。
代わりに。
悠仁の体に、異変が走る。
黒い模様。
皮膚の上を這うように広がる。
そして。
顔に――
もう一つの目が、開く。
「ケヒッ」
笑い声。
歪んだ。
人のものではない。
「あー、いい」
ゆっくりと、首を回す。
「やっぱり生の光はいいな!」
その存在が、空気を支配する。
「いい時代になったもんだ」
目を細める。
「人がウジのように湧いている」
嗤う。
「女はどこだ? 子供は?」
その言葉に。
伏黒が、歯を食いしばる。
「……最悪だ」
低く、吐き出す。
「両面宿儺が受肉しやがった!」
両面宿儺
その名が、空気をさらに重くする。
宿儺は、伏黒に気づく。
目を細める。
だが。
すぐに興味を失ったように視線を逸らす。
その瞬間。
オビトが、動いた。
一歩。
踏み込む。
手を伸ばす。
宿儺の首元を、掴む。
「――」
空気が、止まる。
「なんだ貴様」
宿儺が、低く言う。
その声に、殺意が混じる。
だが。
オビトは、動じない。
「黙れ」
静かに。
「お前に用はねぇ」
はっきりと。
言い切る。
「……なんだと?」
空気が、歪む。
だが。
それ以上に。
オビトの内側で、何かが動く。
膨大な呪力。
それだけじゃない。
もっと深い。
五行の先。
陰と陽。
それが。
手先に。
言葉に。
宿る。
「お前は引け」
命令。
言葉が、力を持つ。
「悠仁、起きろ」
その瞬間。
宿儺の意識が、揺れる。
「……なんだ」
眉が、わずかに歪む。
「意識が、ぶれる……?」
違和感。
明確な。
「いや……こいつが……!」
強制的に。
引き込まれる。
その奥から。
「俺の体を」
声が、浮かび上がる。
「返せよ」
悠仁の意識。
それが、前に出る。
宿儺を、押し込む。
「……っ!」
宿儺の意識が、引き剥がされる。
完全ではない。
だが。
主導権は、戻る。
悠仁の体が、揺れる。
崩れ落ちる。
その瞬間。
オビトが、肩で受け止める。
「……おい」
静かに呼ぶ。
悠仁が、顔を上げる。
視線が、まだ少し泳いでいる。
「あー……オビト」
その声に。
オビトは、じっと睨む。
鋭く。
真っ直ぐに。
(……やべ)
悠仁の背中に、冷たいものが走る。
(完全に怒ってる)
分かる。
痛いほど。
優しいやつほど、怒らせると怖い。
それを、よく知っている。
「……ごめん」
素直に、謝る。
逃げない。
誤魔化さない。
オビトは、深く息を吐いた。
「……はあ」
ため息。
長く。
重い。
(知ってた)
こうなるって。
こいつは。
誰かのために、自分を投げるやつだ。
(……ほんと、似てるな)
ナルトの顔が、浮かぶ。
苦笑が、漏れそうになる。
オビトは、手を伸ばす。
悠仁の頭を、くしゃりと撫でる。
それから。
軽く、叩く。
「いてっ!」
「これで勘弁してやる」
それだけ。
だが。
十分だった。
悠仁は、小さく息を吐く。
(……やっぱ)
安心する。
(優しい)
そして。
(……強ぇ)
はっきりと、分かる。
オビトは、ふと自分の手を見る。
そこに、微かに残る感覚。
火でも、水でも、血でもない。
陰と陽。
それが、確かに動いた。
風が、頬を撫でる。
土の匂いが、微かに香る。
木々のざわめきが、遠くに聞こえる。
(……そろそろ、か)
向き合う時だ。
この力と。
「……あ」
気配。
軽い。
だが、強い。
「来た」
その言葉と同時に。
「今どんな感じ?」
軽い声が、割り込む。
視線の先。
白髪。
目隠し。
片手に――
仙台銘菓。
「喜久福」。
喜久福
そして、そのまま。
スマホを取り出し。
倒れている伏黒を――
撮る。
「……」
シャッター音。
無遠慮に。
容赦なく。
(……相変わらずだな)
オビトは、心の底から思った。
(クソだな)
【〆栞】