遺骨

白い天井が、ゆっくりと視界に戻ってくる。

消毒液の匂い。

どこか懐かしい静けさ。

「……起きた?」

軽い声が、すぐ傍から落ちた。

悠仁は、ゆっくりと瞬きをする。

視界が定まる。

そこにいたのは――

五条悟

「……あれ」

声が、少し掠れる。

体を起こすと、頭が軽く揺れた。

「俺……」

記憶が、断片的に繋がる。

指。

呪霊。

黒い模様。

そして――

「……じいちゃん」

胸の奥が、きゅっと締まる。

その一言に。

五条は、一瞬だけ目を細めた。

だが、すぐにいつもの調子に戻る。

「まず結論からね」

軽く言う。

「君、死刑」

あまりにもあっさりと。

その言葉が落ちる。

「……は?」

悠仁の思考が、一瞬止まる。

当然だ。

だが。

「ただし」

五条が指を立てる。

「条件付き」

視線が、まっすぐ向けられる。

「宿儺の指を全部取り込んでから処分」

一拍。

「ってことになったから」

淡々と続ける。

「すぐには死なないよ」

その言葉が、ゆっくりと浸透していく。

理解する。

時間がある。

猶予がある。

「……そっか」

悠仁は、小さく息を吐いた。

完全な安堵ではない。

だが。

少なくとも、今すぐ終わりではない。

それだけで、十分だった。

――翌日。

空気は、静かだった。

薄曇りの空。

風も弱い。

骨壷の前に、二人が座っている。

悠仁と、オビト。

白い壷。

その中に、倭助の遺骨が納められていく。

一つ一つ。

丁寧に。

音はしない。

ただ、手の動きだけが続く。

悠仁の指が、少しだけ震えている。

それでも、止めない。

止めたくない。

(……じいちゃん)

言葉にはしない。

だが、胸の奥で繰り返す。

その隣で。

オビトも、静かに骨を納めていた。

無駄な動きはない。

ただ、確実に。

一つ一つ。

(……約束は、守る)

あの夜の言葉。

消えない。

消す気もない。

全部、背負う。

それが、自分の選んだ道だ。

作業が、終わる。

蓋が、閉じられる。

静かに。

それで、一つの区切りがついた。

少し離れた場所で。

五条が、その様子を見ていた。

軽く腕を組みながら。

「……二人ってさ」

ぽつりと、口を開く。

「どういう関係?」

興味本位のようでいて。

どこか、真面目な問い。

悠仁が、少し考える。

「友達……」

言いかけて、止まる。

「いや」

首を振る。

「親友……っていうより」

ちらっと、横を見る。

オビトは、特に何も言わない。

ただ、そこにいる。

「……兄弟、かな」

その言葉が、自然に出た。

無理がない。

嘘もない。

「へぇ」

五条が、少しだけ笑う。

「じいちゃんも」

悠仁が続ける。

「オビトのこと、好きだったし」

その言葉に。

オビトは、ほんの少しだけ目を伏せた。

「俺の家庭教師だし」

悠仁が、軽く笑う。

「まあな」

オビトが肩をすくめる。

「世話係だったな」

炊事。

洗濯。

掃除。

全部。

「ほぼ家政婦」

「言い方」

小さく笑う。

ほんの少しだけ。

空気が、柔らぐ。

そして。

五条が、ポケットから何かを取り出した。

それは――

黒く、禍々しい指。

宿儺の指

「はい」

軽く、悠仁に差し出す。

「追加分」

軽い調子。

だが、意味は重い。

悠仁は、それを見て。

少しだけ顔を歪めた。

「……これ」

「うん」

「食うのか」

「うん」

即答。

逃げ道なし。

「……マジかよ」

ぼやきながら。

それでも。

手を伸ばす。

掴む。

口へ。

(……覚悟、決めたしな)

そのまま――

飲み込む。

「……っ!」

顔が、歪む。

「クソ不味い!!」

本音が漏れる。

それを見て。

オビトが、露骨に顔を顰めた。

「……よく飲み込もうと思ったな」

心底、引いている。

「衛生観念どうなってんだ」

正論だ。

完全に。

「仕方ねぇだろ!」

悠仁が叫ぶ。

「俺しかいねぇんだから!」

その言葉に。

一瞬、沈黙。

オビトは、ふっと息を吐いた。

(……まあ)

そういうやつだ。

最初から。

変わらない。

「……バカだな」

小さく呟く。

だが。

その声は、どこか柔らかかった。

五条が、その様子を見て笑う。

軽く。

楽しそうに。

だが。

その目は、ちゃんと見ていた。

この二人を。

これからを。

静かな空の下で。

一つの区切りと。

新しい始まりが、重なっていた。


〆栞
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