世界一




「風見くんさ、学生のとき合コンとか飲み会とか行くタイプじゃなかったでしょ」
「いやまあ、うん、そうだな」

珍しく休みが合うというので、仕事を終えて合流して、一緒にお酒を飲むことにした。
和と洋で迷ったけど、なんだか今日は日本酒な気分で。彼も同意してくれたので、ちょっと落ち着いた感じの和食屋に入って、ビールを飲んでから冷酒に移った。
こうしてゆっくり話すのはいつぶりだろう。

「合コン、一度くらい行った?」
「誘われて何回かは。でも俺は地味だし、浮かれた雰囲気にはなじまなくて」

苦笑いとは言えないくらいの渋い表情で、彼は舞茸の天ぷらを口に運んでいた。食べ方はシンプルに塩だ。
カウンター席の横並びは心地がいい。

「風見くん真面目なんだよねえ」
「遠慮なく頭が固いと言ってくれ、自覚はあるんだ」
「ふふふ、拗らせてるね」

私は姫竹の天ぷらに箸を伸ばしながら、思わず小さく噴き出してしまった。
いじけるようなその言葉が彼らしい。

「自己理解を深めてきた結果だ、好きに笑ってくれていい」
「いや、真面目なのは風見くんのいいところだよ」
「貴重な長所として受け止めておくよ」
「そんなことないでしょ」

彼はお猪口を口につけて横目で私を見遣る。

「私、風見くんのいいところ、たくさん知ってるもの」

神経質でちょっと固いけど、その分細かいところよく気が付くし。
気が付いたらちゃんと対処しないとって動いてくれるし。
(もしトイレットペーパーが切れてたとしても、絶対そのままにはしないと思う)

動物に好かれるでしょ。
それから、運転が菩薩。渋滞でもイライラしたりしないから安心できるよ。
めがねが似合うのもいいところだし。
あ、連絡も、おはようとおやすみは律儀にくれるじゃない。
自分は寝てなくても、きっちり私の寝る時間に合わせてさ。ほんと、風見くんもちゃんと寝て食べてよね。

寝相がいいのもいいよね。もう30になったけどお腹も出てないし。
洗濯物自体は溜めるけど、脱いだ靴下とかその辺に放らないでちゃんと洗濯かごに入れるしさ。
無駄に笑わないけど、ドア開けてくれたりして紳士的なところも。

頭に浮かんだことを一通り口にしてみたらけっこうな量だった。息継ぎの暇がなくなるかと思った。
ふう、と息を吐いて隣の風見くんを見上げたら、

「………。」
「あとほら、その顔めちゃくちゃ可愛い」

彼は口元を抑えて目を泳がせながら、頬を少しだけ赤く染めていた。
その姿が可笑しくて、私はもう我慢ができなくて。可愛いなんて失礼かもしれないけど、ほんとうに可愛いのだ。

「……あ、ありがとう…」
「どういたしまして」

絶句しつつしっかりお礼を言うところも、礼儀正しくていい。
不器用だけどまっすぐで、そんなところが私はどうもたまらなく好きなんだなと改めて思った。

「はいはい、落ち着いて落ち着いて」
「いや、うん、落ち着こうとは思っているんだけども」
「あー、ほんと面白いよ風見くん」
「やめてくれ」

空のまま手の中にあった彼のお猪口に、そろりと日本酒を注いだ。所在なさげなその視線が揺れて、お酒はその薄い唇の隙間に吸い込まれていく。
たまにはこんなお酒もいいな。
あと一回くらいは褒めちぎって、もう少しお酒がすすんだら頭をぐりぐり撫でてあげよう。
いつも気を張って頑張ってるから、ご褒美だな。
何でだろう、ご褒美をやる側の私の方がなんだか楽しくて愉快でしょうがない。

私の彼は、世界一可愛い男なのだ。



(運転しててスマートに道を譲るところ、けっこう好きなんだよね)
(シャツの腕まくりもいいよ、なんてそれは個人的嗜好か)


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