少し肌寒い感覚に目が覚めた。鳥肌こそ立ちはしないが、肌に直接冷気が当たっているようだった。
 一面が真っ暗で、唯一の目の助けが月光のみ。だが私が寝ているベッドの真横の巨大な窓から降り注ぐそれだけで、十分だった。
 よく見ると自分の体には真紅のドレスがまとわりついていた。いつの間にこんな服に着替えたのだろうか。思い当たることは何一つないのだが。いたって冷静な自分に少し驚きながら、ドレス綺麗だな、なんてのんきなことを考えていた。
 そんなとき、ドアが静かに開き、

「目が覚めた? 名前」

 赤い髪を揺らして一人の男が入ってきた。月光の当たるところまで来た彼は、私に微笑んだ。普通ならこんなにかっこいい人にそんなことをされたら見惚れてしまうのかもしれないが、あまりにも怪しいので見惚れるに見惚れれない状況になっている。

『あなた、誰?』
「……随分と落ち着いてるんだね」
『質問に答えなさい』

 きっぱり言う私に、彼は基山ヒロト、吸血鬼だよと答えた。
 ……あー。

『疲れてんのかな、幻聴が……寝るか』
「や、待って待って嘘じゃないよ! まったくもう君は噂通りのムードクラッシャーだね」

 なにそれ、そんな噂たってたの? 私初耳なんだけど。てかムードとかあったの? ベッドに潜りながらぼんやり考える。目を閉じたら少し感じていた光が消え、再び目を開けるとヒロトの顔がすぐ近くに見えた。
 押し倒されてるのか。自分はこんな状況になってもやはり冷静であまり気にしていないようで、もう無視を決め込むことにした。
それを受け入れだと思ったのか、ヒロトは私の首に唇を近付ける。瞬間、ヒロトが上から消えてパリーンとガラスが割れる音が聞こえた。

『えっ、なに!?』
「ご、がふっ……ひど、酷いよ……」
「僕が君のご飯に毒を盛ってる間に何やってんの?」
「さらに酷いよ!?」

 こいつらなんなの……?
 巨大窓に突っ込んだヒロトが半泣きで叫ぶと五月蝿い黙れと容赦ない一言が浴びせられた。うん、酷い……。
 それから暫く口論を続けていたようだが、ヒロトが観念したのか土下座をしていた。
 なにこのカオスな空間……もはや呆れるしかない。完全に私の存在忘れ去られてるよね、そう思ったとき

「僕は吹雪士郎って言うんだ。よろしくね、名前ちゃん」
『……あんたも、吸血鬼なの?』

 こんなとこにいるくらいだからそれ以外に何がいるんだと思ったが敢えて訊いておく。士郎は案の定「そうだよ名前ちゃん」と言った。

『さっきから思ってたけど何で私の名前を……』
「そりゃ知ってるよ」
「だって君は僕のお姫様なんだから」
「何言ってるんだい吹雪君? 名前は俺のだよ」

ALICE+