春です。桜の花も満開で、至る所でお花見が開かれています。
 街の様子も冬から春に切り替わり、沢山の所から心地好い暖かさを感じる季節です。

『ひいい寒いいいい!!』

 なのに! なぜ! こんなにも寒いの!?
 猛ダッシュで廊下を走りバスケ部の部室へ。途中体育館からボールが床を跳ねる音が聞こえたが、多分赤司君だろう。あの人はいつも早い。
 はー、タイツから靴下に替えた途端この温度。やっぱり靴下は止めとけばよかった。
 そう溜め息を吐いたとき、窓から入る光を何かの陰が遮った。てか簡単に言うと、私の真ん前に誰か立ってる。

『うわあぁっ!! ……て、なんだ敦か』
「む、何だって酷くない?」
『ごめんごめん』

 陰の主は二メートルを超す身長の男、紫原敦だった。
 あー吃驚した。(ていうか体育館行かなくていいの?)
 さつきもまだだし、赤司君と敦以外の部員も来ていないみたいだ。今は部活開始時間より大分前なのだから当然と言えばそうだろう。
 私も出来ればもう少し寝ていたかったんだけど、一度目覚めたら一気に寒くなって二度寝なんか到底出来る状態じゃなかった。
 まあ、敦がいたから良しとしよう。

「名前ちん足寒そー」

 もぐもぐとお菓子を頬張りながら言う。朝っぱらからよく食べることで。
 て言うかね、寒そうじゃなくて寒いのよ実際。
 そう返事をすると、敦はふぅんと言って次のお菓子に手を伸ばした。よくそんなに沢山鞄に入ってるね。
 二度目の溜め息を吐いて、視線を敦から動かす。その先にはロッカーがあり、扉が閉じられていない一つからだらしなく服が垂れていた。

『そうだ! ねぇ敦、カーディガン貸して!』
「俺のー? いいけど……」

 そう言いながら、敦が白いカーディガンをロッカーから取り出す。そのままカーディガンは私の手に渡った。
 敦の身長は大体私に五十センチ足した位だったはず。いや、二メートル超してるんだからそうだろう。
つまりこの差が何を意味するかと言うと、

『あったかーい……』

 いそいそとカーディガンを着ると、予想通りの結果になった。
 私の身体よりずっと大きいから簡単に着ることが出来た。長さは太股にまで達していて、足を折って入れれそうだ。
 袖は最近よくある萌え袖状態。だがこちらの方がありがたい。
 あー、敦の匂いだ。落ち着く。
 緩む口元を隠すことなく、袖を頬に寄せた。その時、にょっと背後から伸びた二つの腕が私をその方向へ引っ張った。

「ねぇ名前ちん」
『ど、どしたの?』
「俺の服着るよりこっちの方が暖かいし」

 ぎゅ、と強く抱き締められる。と言うよりか、覆われているのに近いのかもしれない。

「名前ちん好きー……」

 すりすりと私の頭に頬擦りする敦。とても可愛い。くるりと反転して、正面から抱きついた。出来る限り隙間をなくそうと、ぴっとりくっつく。
 凄く暖かくて、ずっとこうしていたくなる。離れたくない。熱に溶け、寒さなんてもう存在していなかった。

『私も、好きだよ』

 微笑んで呟いた。
 頬を擦り寄せ、きつく抱き締め合う私達の周りは、多分春の陽気に負けず劣らずだろう。
 このまま、くっついて、一つになって、暖かな時を二人で過ごすことが出来たら、とても幸せなんだろうな。
 そう頭の中でひとりごちた。


くおん様、リクエストありがとうございました!
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