輝く金の毛をゆっくり撫でると、わふんと擦り寄ってくる。
 そんな私の犬、涼太が可愛くて可愛くて……わしゃわしゃと両手で無造作に撫でると気持ち良さそうに目を細めた。
 こんな和やかな空気のなか、眠くなるなという方が無理な話で。うとうとと船を漕いでいたら、涼太が小さく一鳴きした。

『ん、なぁに、涼太……』

 ゆっくりとした動きで、今度は私から涼太に擦り寄る。涼太は何も答えず、私も温かな微睡みの中に落ちていった。私の頭を撫でる、優しい掌を感じながら。




『……あれ、寝ちゃったんだ私』

 パチリと目が覚め、起き上がって伸びをする。一体どのくらい寝てしまったんだろうか。金の毛をした愛犬はどうやらどこかに行ってしまったようだ。
 今までそんなことなかったのに。
 少し寂しく感じながらも、時間を確認しようかと視線をずらした瞬間、何かが私の背中にのった。覆い被さる、の方が正しいかもしれない。
 涼太かな、と思ったけれど、私の肩から垂れる白い腕を見て固まった。
 何で……確かに鍵は閉めてたのに。
 どんどん焦りが生まれてくる。
 不法侵入? それともずっと部屋にいたの?
 寝起きだった頭が一気に覚醒していくのがわかった。とにかく離れないとと思った時、後ろから声をかけられた。

「名前っち、やっと起きたんスね! もー俺寂しかったんスよ?」
『私は寂しくなんかないです貴方は誰ですかどうやって入ったんですかなぜ私の名前を知ってるの』
「あ、そっか。ちゃんと説明しないとッスね」

 何がそっかだ!!
 今わかっていることは、相手は若い男性。面識ないけど私のストーカーだったのだろうか。止めてくれ。
 ふっと、男性が離れた。彼は私と正面になるように座ると、愛嬌ある笑顔を見せて言った。

「俺は涼太ッス! 名前っちの愛犬の!」

 何を馬鹿なことを。

『……愛犬のとか言いながら思いっきり人間じゃない! 信じられないもっとましな嘘吐きなよ』
「えー、嘘じゃないけど……じゃあ信じてもらうまで」

 涼太と名乗る男性は鼻先がぶつかるくらいまで私と距離を詰めると、そのまま話しだした。
 私と出会った時の話、私がいつも涼太に話してること、涼太が好きな食べ物や遊び。誰も知らないようなことを次から次へとその綺麗な唇から吐き出す彼に、言葉が出せない。
こんなの、調べたって出てくるようなものじゃないし、考えただなんて尚更だ。
 極めつけはさっきから鼻腔を掠めるこの香り。この距離になってわかったが、これは間違いなく涼太の匂い。
 あのこと同じ金の髪の毛を撫でて、気付けばぽつりと尋ねていた。

『本当に、涼太なの……?』
「うん……ずっとこうして話したかった。大好きな名前っちを、こうして抱き締めたかった」

 涼太は頭にある私の手を握り、ぐいっと引き寄せる。背中に回った手は、寝る前頭を撫でてくれていたものと同じだった。
 つられるように私も彼の背に手を回した。
 すりすりと涼太が動く度に、首筋に当たる髪の毛がくすぐったい。思わず身を捩ると、クスクスと笑い声がした。
 本当に痒いんだから仕方ないじゃない。不満気に言うと、そんなとこも可愛いッスと言われる。
 耳元で響くウィスパーボイスが心地よくて、もっと聞いていたくなる。
 起きたら愛犬が人間になっていたなんて、夢か現実かよくわからない状態。しかし涼太を見ていたら、段々信じてもいいかもなんて思えてきて。
 口角が僅かに上がる。しかも私の愛犬、いつもの可愛らしさはどこに消えたのか、なかなかのイケメンときた。何のサービスですか。
 喜んでいいのやら、涼太を人間にした誰かの慈悲で、彼氏がいない私にせめてもの…的な感じで捉えたらいいのか。ううんそれは何だかむかつく。
 ふわふわの髪の毛を堪能していると、前から更に力がかかり、いつも涼太がしているような私の上にのし掛かった体勢になった。
いや、いつも、ならいいんだけどね。

『えええあのちょっと待って』
「どうしたんスか?」

 いやいやいやただイケメンに押し倒されてるだけになってるんですけど大丈夫だよね。これ涼太を信じていいんだよね(何をって話だけど)。
 パニックになって口をぱくぱくさせて何を言うわけでもなく、あー、えーと唸る。
 そんな私に追い討ちをかけるかのように、涼太は匂いを嗅いだり目蓋に、キ、キキキスをしたりしてきて……ってちょっと待って大丈夫じゃない気がしてきたんだけど!

「んー……やっぱり名前っち落ち着くッス。だーいすき」
『う、うん、ありがとう』
「愛してる」
『わかったから、あのね』
「名前っちが他の男をつれてきた時とか、気が気じゃなかったんスよ?」

 あ、だからあんなに威嚇して……じゃなくて誰か喋りながらさりげなくキスしてくるこのわんころどうにかして。ちぎれんばかりにぶんぶん振っている尻尾が見えるよ。
 そろそろ私が死にそうなんだけど恥ずかしさで。既に心臓飛び出そう。
 これ以上この整った顔と対面し続けたら、頭がどうにかなってしまいそうで、少し顔を横に向けた。しかしそれが逆効果になってしまったのか、獣さながらのぎらつく鋭い瞳が動き、丸見えの首筋にかぷりと噛み付かれた。

『っ、ひゃ……』
「真っ赤、可愛いッス。俺が名前っちの所に来たときから、俺は、名前っちにご執心なんスわ」
『りょ、うた』
「もう、逃がさない」



るく様、リクエストありがとうございました!
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