「ねー名前っちー……そんなに苛々するなら言ってくればいいんじゃないスか?」
『五月蝿い黄瀬黙れ』
「酷い!!!」
わー! と泣く振りをする黄瀬を無視する。
でも苛々してるのは本当の事。だって、なぁ。仕方ないのはわかってるけど。
俺の苛つきの原因は、青峰大輝と桃井さつき。彼女は大輝の幼馴染みで、加えてバスケ部のマネージャー。だから話す機会が沢山あって当然だ。いや、それはまだ大丈夫、割り切ってる。
『お似合いなんだよあの二人が』
口に出すと、何だか桃井に負けた気がした。
苛々。そんな娘ほっといてこっち向いてくれよ。じっと見詰めてみるが話に熱中してるのか気付きそうもない。ズキンと胸が痛んで、悔しい。
やっぱ可愛くて巨乳の女の子がいいのかなぁ。桃井はその条件を全て満たしている。悔しい、悔しい。
可愛さには、まぁまぁ自信はあるさ。男の中でも可愛い方であると自負してるからな。(男としてのプライドは!? とか黄瀬が喚いてたけどやっぱり無視)
胸……は、流石に弄りたくない。でもあいつ巨乳好きだし。俺ぺったんこだし?
「そりゃ男ッスからね。性別の壁は越えられない」
『……わかってるよ』
黄瀬の言葉がグサッと胸に突き刺さった。
そうなんだよそうなんだよ、女にはなれないんだよ。なりたくもないしよ。机に突っ伏してうんうん唸る。解決策はどこか遥か彼方である。
「名前っち起きて?」
『何で』
「いいから」
渋々上体を起こして黄瀬を見ると、思いの外近くに顔があって驚く。
何でお前こんなに接近してるんだよ。ニヤニヤしながら更に近寄ってくる黄瀬の肩を押して遠ざけようとするが、どうもうまくいかない。それどころか、腕を掴まれてしまい、逃げることも抵抗することも出来なくなってしまった。
っ、やば……!!
『!!?』
目を瞑って誰か助けてくれと祈っていたら、後ろから首に腕が回されて思いっきり引かれた。
助かったけど、今度は俺自身が危ない!! 首しまってる!!!
バンバンと必死に机を叩いて訴えると、それが伝わったのか力が弱まった。
あーもう誰だよ。いや、本当に助かったけどさ。
見たってわかんないだろうとは思いながらチラリと腕を見下ろすと、一発で誰か理解した。わかった途端心臓が早鐘を打ちだす。見てなかったくせに、どうして気付いたんだろう。
「あっれー? 青峰っち何でわかったんスか?」
「てめぇがわざとらしく動くもんでな、視界に入ったんだよ」
「(ずっと見てたくせに)」
黄瀬はへらへらと笑っていて、大輝はそんな黄瀬を睨んでいる。
え、何? さっきの演技なの?
なんて紛らわしいことをするんだと文句を言いたかったが、二人の会話が続いて何も言えなかった。て言うかもはや喧嘩なんですけど。人の頭上でしないでほしいんです、けど……。きっと言ったとこで聞きやしないな。
「おい名前」
『大輝、何んっ』
上を向いたままの突然のキス。正直辛い体勢だけど、さっきまでの事を考えたらどうでもよくなった。もやもやが溶かされて消えていく。
おー、青峰っちだいたーん、なんて囃す黄瀬なんて、周りの人なんてまるでいないかのような感覚。
暫くして唇を離した大輝は、
「いいか、名前は俺のもんなんだよ」
と言った。
『お、俺まぁまぁ可愛いけど巨乳女子じゃないよ……?』
「お前可愛いって自分で言うのかよ……ったく、お前にんなもん求めてねぇよ。そのままで傍にいろ」
『っ!!』
カッと頬が熱くなる。
うわああやばい何だこいつかっこよすぎるだろ……。嫉妬してた自分が馬鹿みたいに思えてきたうわあああ。
両手で顔を覆った俺は何とも女々しいことだろう。
遠くの方でいつの間にか移動していた黄瀬と桃井が笑っていた。
るいこ様、リクエストありがとうございました!
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