いつの間に仲良くなったの?
 委員会で。
 へぇ、そうなんだ。
 なんてあの時はそれだけだった。俺の大好きな人と尊敬してる人が仲良くなって、良いことだなぁと思っていた……のだが。

「多分苗字くんもこういうの好きかなぁと思って」
『あ、うん好き!』

 昼休憩、黒子っちが遊びに来たと思ったら、俺をほったらかしにして名前っちと仲良く話し始めた。またか、と溜め息を吐く。
 確かに仲良くなるのは良いことだ。話も弾むし、何より雰囲気が良くなる。喜んで迎え入れよう。
 だけど、こうも俺だけアウェイな状態になるとつまらない。一緒にいるのに名前っちの興味が俺に向いてないことが、更につまらない。
 ムスッと表情に出してみたけど全く気付きそうにない。

「ねー」
『でさ、ここが凄く泣けるんだよな』
「ねー名前っち『ごめん涼太ちょっと後にして』

 ……つまらない。
 本格的に苛々してきて、とりあえず落ち着こうとペットボトルを手に取り中に入っている水を飲んだ。中途半端に温くなった水が喉を通る度に不快感は増し、やっぱり飲むんじゃなかったと後悔。
 ちょっと話しかけただけでこれだから、多分もう声をかけるだけ無駄だろう。完全に二人の世界に入っている。
 何でそんなに楽しそうなんスか。俺といる時より生き生きとしてるように見える横顔。わだかまりはどんどんでかくなって、二人から目を逸らした。
 ここまで真剣に恋愛に挑んだことが、今だかつてあったろうか。ましてや嫉妬するなんて、恐らくなかっただろう。
 ……俺も本でも読んでみようかな。そうすれば俺を見てくれるかな。

『どうせ読んだってすぐ厭きるだろ?』
「何で分かったんスか!? えっ、てか黒子っちは…」
『お前がうだうだしてる間に帰ってったけど』

 また見失っただけかと思ったが、忽然と姿を消した黒子っちは本当にいなくなったらしい。大方、俺が拗ねてるのがバレたんだ。
 急に恥ずかしくなってきて、大きく息を吐いた。
 とにかく黒子っちありがとう。心の中でお礼を言う。
 いきなり黙って俯いた俺に、更に機嫌を悪くしたと勘違いしたらしい名前は……悪かったよほったらかしにして、と言って本を机に置いた。むしろ好調に向かいつつあるのだが、とは言わないでおく。
 よし、ここはひとつ悪戯をしてみようか。

「名前っちが何でも聞いてくれるなら、一発で機嫌なおるんだけどなー」

 語尾に行くにつれて口角が緩んでいく。名前っちはそのことにきっと気付いてる。
 ちらりと名前っちの顔を盗み見ると、呆れたような、仕方ないなぁって表情だった。
でも、ほら。

『一個だけだからな?』

 受け入れてくれる。
 それがどれだけ嬉しいか、きっと君は知らない。
 やったとわざとらしく大きく喜んだら、名前っちはくすりと笑った。
 ああ、好きだなぁ。君のその全てが愛しい。
 反対側に回り込んで、その体をぎゅっと抱き締めた。


如月様、リクエストありがとうございました!
250903

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