一目惚れしたとかで猛アピールされて、何度も断るの選択肢を選んで、しかしあまりにしつこかったから思わずOKの返事を出してしまった。それは実に150回目の告白の時、つい先週のことだった。
そんな俺が好きだという物好きは、今を時めくモデルの黄瀬涼太。性別なんてどうでもいい、俺は名前っちが好きになったの! なんて恥ずかし気もなく言ってのけるもんだから、俺の方が恥ずかしくなった。
時に、この状況に俺はどう対処したらいいんだろうか。黄瀬がうちに遊びにおいでとかしつこく言ってくるから来てみたものの……おい、誰もいないなんて聞いてないぞ!!
現に向かい合ったリビングのソファーには俺一人。
今し方飲み物とか持ってくるッスとか言いながら黄瀬が出ていった扉を睨み付ける。
いや、黄瀬のことが嫌いだとかそんなんじゃなくて、何かが起きそうでそれだけが心配なんだ。いや、さすがにそんな性急じゃないだろ……。
「お待たせー」
『!!』
やばい、どうしよう。めちゃくちゃ動揺してしまった。
いやいや、俺はこいつの恋人……なんだから、もっと堂々としてていいだろう。よくわからないけど。
そわそわしながらもキリッとした表情を保つ。
『ありが「ぶっ、名前っち何スかその顔!」
わ、笑いやがった、こいつ。
じろりと睨み付けるも笑い続けるばかり。いつか覚えてろよ。
……でも、この本当に笑ってる顔、良い表情だよな。って違う、見とれてる訳じゃない!
コップに入ったジュースを一気に飲み干すと、それが俺の好物であるオレンジジュースだと分かった。
「美味しいッスか? オレンジジュース好きでしょ」
『何で知ってんだよ、黄瀬』
「そりゃあ、好きな人の好きな物くらい知ってるッスよ」
好きな人。あーはいはいそうですかと流しながらも改めて聞くとなんと恥ずかしいことか。
笑顔の黄瀬によって落とされた爆弾が爆発し、顔が真っ赤になる。静まれ、冷めろ。
もともと黄瀬に圧されて返事をしてしまっただけだし、その間に恋愛感情なんて……。
視線を必死に逸らしている間に、向かい側に座っていた黄瀬が隣まで歩いてきた。そしてそのまま俺の隣に座る。
ううわわわわどうしようどうしよう。だらだらと汗が出てきて心中穏やかでない。
せめてちょっとでも間を開けようと横に動こうとしたら、まるで逃がさないとでも言うように肩を押されてソファーにダイブ。その上に覆い被さるように黄瀬が出現。
俺はというと、恥ずかしさと焦りとで顔が上げられない。
「そろそろ名前で呼んでほしいんスけど。知らない訳じゃないでしょ?」
『知ってる、けど』
「じゃあ呼んでよ。こっち見てさ」
拗ねたような声色に可愛いと思ったのは、永遠に俺だけの秘密だ。
黄瀬の大きな手によって顔が上を向かされる。その表情はさっきの純粋に楽しそうな笑顔ではなく、明らかに何かを企んでいるような笑顔。例えは悪いが、これから気に入らないやつを蹂躙しに行ってきますと言わんばかりの顔。
これは逆らうと大変なことになりそうだ。は、恥ずかしいけど言うしかない、か。
『りょ……りょ、うた』
「もっと大きな声で」
あああもう自棄だ!
『っ、涼太』
半ば叫ぶようにその名を口に出す。まさかここまで大きく言われるとは思わなかったのか、暫く鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。それも段々弛んでいって良く出来ましたと含み笑いを浮かべる。
どんな表情も様になってしまうのがムカつく。
しかしとりあえず嵐は去ったと一息吐こうと気を緩めた途端、その息は素早く奪われた。
『ふ、っ……んん』
「はっ、ん」
ほらみろ何か起きた。なんて思う余裕もなく、固く目を瞑ってキスが終わるのを待った。
何度も何度も角度を変えられて攻められる。その度にふわっと鼻腔を掠めていく香りに、ただただ頭がボーッとしてきた。流されてしまいそうになる。
もう駄目だと諦めた瞬間、軽いリップ音と共に唇が完全に離れた。
寂しいと思ったのも秘密である。
胸の上に手を置かれて、だが払う気力もなかった俺は、ぐでんと四肢をソファーに預けた。
「名前っちドキドキしてるッスね」
『当たり前だろ……お前は余裕そうだけどな』
「何言ってるんスか? 俺なんか誘った時からずっと心臓が五月蝿いんスけど」
さっきとは打って変わって照れ笑いになった黄瀬を見て、更に鼓動が速まったのはどうやら嘘じゃないらしい。
ぷよ様、リクエストありがとうございました!
250906
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