「名前、それを取ってくれ」
『はい』
「ありがとう」
征十郎とは幼馴染みではない。バスケ部員、マネージャーとして知り合ったのが中学だ。そこから今に至るまで、何故か私達は一緒だった。その為いつの間にかあれそれで会話が成立するようになっていた。
『あ、征十郎! あの話なんだけどさ』
「ああ、どうした?」
何をする訳でもなく、私と征十郎はだらだらと休日を満喫していた。バスケ部が休みになるのは珍しい為、二人揃って貴重な休みを楽しんでいる。本を読むかパソコンを弄るかテレビを見るか寝るか。決して選択肢は多くはなく、二人で同じ事をする訳でもないのだが、不思議とその沈黙に気不味さは無い。むしろお互い騒がしいのはそこまで好きではないので、その逆だったりもする。
『(あ、なんか眠くなってきた)』
現在、私は選択肢の中の一つ、寝るを実行しようかと迷っていた。だが本当に久し振りの休みなのに、寝てしまうのはどこか勿体無い気もするのだ。
ベッドに仰向けになりうつらうつらと舟を漕いでいると、寝るのか? と征十郎の声が朧気に聞こえた。視線を動かすのも面倒臭くて、んーと曖昧に返事をする。寝ようか、寝まいか……否、寝ようか。ほぼくっついている目蓋を前に迷うのはどうやら無駄だったようだ。
「名前」
『んー』
「おい」
『んー?』
今日はよく喋るね征十郎。微睡みながら回らない頭で考える。暖房がよく利いているから余計に眠くなる。
突然、目蓋越しに感じていた光が何かによって遮られた。私の上に何かいる? そう思ってゆっくり目を開けると、視界には少しばかりの天井と一杯に広がった赤。一瞬目蓋がピクリと動いた。
何で征十郎が私の上にいるのかとか、もしかしなくてもこれは俗に言う馬乗りというやつなんじゃとか、吃驚するくらい冷静に考えていた。謎の安心感と信頼がそうさせるのだ。……それは征十郎にとっては面白くないのかもしれないけど。
「お前は危機感というものが無いのか。それとも俺は、」
やはり不満そうな顔で私を見ている。
でもね。
『征十郎は私の嫌がることなんてしないでしょ?』
今までだってそうだった。私に無理矢理を強いたことはない。征十郎は目を丸くすると、尤もだなと破顔した。
こんなに接近して、ドキドキしないなんてことはない。征十郎のこと意識してない訳でもないし。だけど私は、まだこの関係が良いの。付かず離れずで、征十郎と一緒にいたい。
ボスリと音を発てて征十郎が隣に崩れる。目が合ってどちらともなく笑い始めた。
くおん様リクエストありがとうございました!
251219
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