ドドドドドド!!
 そんな地響きが学校中に響き渡る程、彼等は急いで走っていた。目指すは立ち入り禁止の屋上。本来なら鍵がかかっていて出られないのだが、ある人物によってその扉はただの扉と化していた。
 ある人物とは、カラフルな集団をたった一言のメールで呼び寄せた男。
 バン! 大きな音を発ててただの扉を開けると、屋上の中心で座り込んでいたある人物が振り向き笑った。

『えへ』
「えへじゃないッス!! 何スかこのメールは!?」
「毎度ふざけるなよ名前」

 そんな怒んなよとへらへら笑うのはこの騒ぎの犯人、苗字名前だ。彼は携帯を取り出すと、うぇーいと変な声をあげながら写真を撮っていた。反省している風は全く無い。
 その背後に立ち、黒子は静かに見下ろす。

「名前くん。嘘、なんですよね、あのメール。“疲れたから死ぬ”だなんて」
『どうしよっかなーって思ってたけど』

 ま、死ぬ気なんか更々無いよ。皆に自分の下に来てほしかっただけ。なんて口には出さない。より呆れられるのが目に見えているからだ。
 名前の横に同じ様に座った紫原は、もー、馬鹿でしょとぼやいてその頭に顎をのせる。ぐりぐり動かせば悲鳴が下から響いた。だが紫原は勢いを緩めただけで止めるつもりはないようだ。緑間も眼鏡のブリッジをくいと上げて溜め息を吐いた。

「こう何度も何度も同じシチュエーションに騙されるとはな」
『騙すつもりなんて無いんだけどなぁ……でもその度に来てくれるじゃん? 俺は嬉しいよ……』

 その言葉の真意を直ぐ様理解した緑間は見る見る内に頬を朱に染め、そんなわけないのだよと嘯く。当の名前は両手で顔面を覆いよよよと泣く真似をすると、チラリと人差し指と中指の隙間から未だに立ったままの五人を見た。暫く見詰めて瞬きを数回続けると、五人の表情がさっきより大分和やかに変わっていた。安堵というか、仕方無いというか。
 近付いた青峰が大きな手で名前の頭をわしわしと撫でる。

『ちょ、止めろよ』
「とか言って笑ってんじゃねぇかよ」

 事実なので否定はしない。代わりに嬉しそうに口角が上がった顔があった。
 気付くと円を描くようにして彼等は座っていた。今日は赤司、紫原が名前の隣にいる。これがこの集団の、いつもの風景である。

「お前は授業に出ろ」
『やだよー面倒だし』
「じゃあ俺と遊びに行くッス!」
『お前のファンに集られるから嫌だ』
「大丈夫ッスよ俺は名前っちしか見てな「俺とバスケしようぜ」
『桃井も連れてくるなら』
「僕と将棋でもするかい?」
『や、将棋わかんねぇし……』
「名前ちんにだけお菓子あげるよ」
『まじでかサンキュ』
「今日の帰りバニラシェイク飲みに行きましょう」
『行く行くー!』

 今日のウィナー、黒子は、あまり表情には表れていないが彼なりのドヤ顔で満足そうに微笑む。他の面々は悔し気な顔をして、特に赤司は小さく舌打ちをしていた。(それを見て黒子と名前以外が震え上がった)
 名前がまぁまぁと宥めようと両手を上げた瞬間に、赤司は前からぎゅうと抱きついた。そして僅かに目線を上げると、

「死ぬなんて名前でも許さないよ」

 一瞬きょとんとした名前だったが、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべて頷いた。


『まあでも、かまってくれなきゃ死んでしまう気はするけとね』



巫様リクエストありがとうございました!
260104

ALICE+