『俺、大地さんみたいになるのが目標なんです!』

 そう言い続けて一年が経った。
 結論から言うと、達成出来る見込みがない。体格差は言うまでもなく、チームの支柱になれそうな性格でもない。憧れに近付くどころか、新入生にレギュラーの座をあっさりと奪われる始末だ。
 おかしい。俺だって努力を重ねてきたつもりだ。頑張って、頑張って、いつの日か大地さんと同じコートに立つ日を夢見て。
 畜生! 才能か、才能なのか!
 対人のサーブレシーブ練習。レギュラーの枠をかっさらった一人である月島にサーブをかます。レシーブを苦手とする月島は、苦い表情でボールを弾いた。

『はっはー! やっぱレシーブは俺のが上手いなぁ!!』
「……レシーブだけで威張るとか」
『うるせぇ!!』

 レシーブはめちゃくちゃ大切なんだぞ! 相手が打ったボールが取れなきゃこっちの得点に繋がらねぇんだぞ!
 もはや半泣きで叫ぶと、面倒臭そうな顔で溜め息を吐きやがった。こいつはいちいち癪に障ることを。
 いつもの光景だと慣れきって気にもしない皆に紛れ、日向が苗字さんまた言ってるぞ、とか言ってるけど、お前も打倒組なんだからな。
 ダーン、ダーンと月島が床にボールを打ち付ける。
 分かってるさ、万年ベンチウォーマーの俺が言ったって説得力ないってことぐらい。でも、だけど。

「名前の言うことは最もだ」

 俯きそうになった頭に、ポンと手を載せられる。振り向いた先には、微笑んだ大地さんがいた。

「お前がいつも頑張ってることも、知ってる」
『っ、大地さん』
「でもバレーボールは、何か一つでも欠けたら駄目だ。ずっと見てきたお前になら、分かるだろ」

 分からない筈がない。見ているからこそ、嫌でも思い知る。サーブ、レシーブ、ブロック、全てが揃ってこそ勝利を掴み取ることが出来ると。
 あっという間に解かれていく。大きな包容力のある掌に、心が落ち着いていくのが分かった。
 大地さんは小さく頷く俺の答えに満足そうに笑うと、目を合わせて口を開いた。

「それを知っていることは、とても大切なことだ。名前が横で見てきたこと、絶対に活きる日が来る」

 確信したような言い方に、胸が痛み、高鳴る。
 やっぱり大地さんは、俺の憧れだ。憧れという一言だけでは片付けられない感情を持っているのも、自覚している。こんなにも優しくされて、堕ちるなと言う方が無理な話だ。
 グ、と拳を握りしめる。その為に俺が出来ること、俺がすべきこと。一日でも早く大地さんの横で戦う為に。

『大地さん! 俺、絶対大地さんに追い付きます!』
「おう、期待してるぞ」

 突進するように大きな体躯に抱き着くと、わしゃわしゃ頭を撫でられる。俺は犬か、と思った。が、さっきまでの焦燥感や劣等感が何処かに消え去り、幸福感が支配していた俺にはもはや問題ではなかった。
 大地さんがいるから、俺は走り続けられる。
 まずは一年レギュラーを追い抜かないと。努力でその才能を越そうなんて、かっこよすぎるじゃないか、俺。

『大地さんは魔法だ』
「魔法?」
『だって、大地さんが言ってくれるだけで、俺は何処までも頑張れる。そんな気がするんです!』

 そう言うと、大地さんは顔を背けた。あれ、耳が赤いですよ?


(大地さんって名前には甘いよな)
(何でもいいから、続きやりたいんだけど……。)
260111

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