楽しかった中学校生活も今日で幕を閉じる。
 卒業証書を片手に笑う私達がカメラに写った。本当に波乱万丈な事ばかりで、毎日が特別な日だった。
 さて、そんなことを話していたのはついさっきのことだ。
 今はもうお世話になった雷門中の校舎にお礼と別れを告げ、風丸と道を歩いている。
 私達は近所に住んでいるから、必然的に同じ方向に帰ることになるのだ。でも、

『こうして一緒に帰るのも今日でおしまいだね』

 当たり前のように、それぞれ違う高校に通うことになる。
 自分でそう言って虚しくなった。同時に悲しくなった。
 風丸も同じことを考えていたみたいで、そうだなと返ってきた声はどこか寂しげだった。

『私さ、何気に風丸と帰る時が好きだったんだ』
「俺もだよ。大切な時間だった」

 いつもなら恥ずかしくて絶対言えない言葉が、今だと何も気にせずに言える。
 ちらりと風丸の表情を伺えば、切なそうに笑っていた。つい自分の表情も暗くなってしまう。少しの沈黙さえも心に深く刺さった。
そんなとき、二つだった足音が一つになった。気になって振り返ると、風丸がさっきのままの表情で私を見ていた。

「あのさ……俺、名前が好きなんだ」

 え?
 よくある漫画やアニメのシチュエーションのように、風が吹く。桜の花が舞って目の前を掠めていった。
 風丸が、私を好きだって言ったの? 少し信じられなくて固まってしまった。
 何の反応も示さない私にいつもの彼なら笑って誤魔化すだろうが、今日は違った。返事を聞かせてほしいと目で語っている。
 ならいっそのこと、言ってしまおうか。

『……私、も……好き』

 まっすぐに見つめながらそう言ったら、「ありがとう、名前」と風丸は嬉しそうに笑った。
 どうしよう、かっこいい。顔が熱くなる。
さっきまでの寂しい気持ちが遥か彼方に吹っ飛んでしまったかのようだった。
 再び歩き始めた私達の手は自然と繋がれる。とても暖かい安心する手。

『これからは違う高校だけど、私どうせ暇だからいつでも呼んでね』
「じゃあ今夜あたりでも、どうだ?」

 好きの一言で、嘘みたいに笑顔になった。
例えば遠く離れたとしても、例えば会えなくなったとしても、いつでも傍にいるから。あなたが傍にいてくれるように。



この度も結崎夜月様、リクエストありがとうございました!
これからもよろしくお願いします。
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