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雨が止んだら晴れるように、時計の針が六十数えて一周を巡るように、夜が明ければ朝が来るように、花が咲いたら枯れるように。変わることのない必然が世界を構成し、わたしたちはそれを当然のように享受している。産まれる前から定められた事象に疑問を呈すこともない。昔ならいざ知らず、現代においてはほとんどの現象が化学で証明され、不可思議な事柄は消滅した。鳥は空を飛び、車は地を走り、魚は水を泳ぐ。誰もそうあることを疑わないようなことでさえ、身体構造から活動論理まで矛盾のひとつなく語ることができる世に、証明できないことなどないはずだった。
「××××××××××××××××」
飾り物の耳にしてはよくできていて、その深い深緑の髪色によく馴染んだ生きているみたいにぴょこりと動く大きな耳。一目で意識を奪われるような、二層に分かれた綺麗な琥珀と翠玉の瞳に、大きな、ふさふさの尻尾。それだけでも驚きなのに、彼のその服装だって、現代人の服装にしては奇抜で、漫画だとかゲームだとかに登場しそうなほどにファンタジーなものだったから、コスプレ会場で倒れてしまったのかと錯覚してしまうほどだった。
「×××……××××××?」
──気が付けば、わたしは知らない部屋の、知らないベッドの上に眠っていた。状況をまともに理解できない中で、聞いたこともない言語でわたしに声をかける、たった一言では説明できないような不可思議≠ネ人。
ここは見慣れたわたしの部屋じゃない。わたしの家はこんな木造建築じゃない。ましてや窓に映る外の景色はありのままの大森林ではなく整備された一般住宅街だし、そもそもわたしは自室のベッドで眠りについたはずだった。現代において剥き出しの自然に触れることは早々ないし、たった一夜のうちに何もかもが変わっていることなんて漫画やドラマでもないのにありえない。
──雨が止んだら晴れるように、時計の針が六十数えて一周を巡るように、夜が明ければ朝が来るように、花が咲いたら枯れるように。変わることのない必然が世界を構成し、わたしたちはそれを当然のように享受している。長年不可思議で称されてきたほとんどの事象は解明され、化学によって成り立つ世の中で、証明できないことなどないはずだった。
けれど今、わたしの目の前にある現実は、間違いなく化学では証明できないようなおかしな現実だ。
「こ、ここ、どこ?」
泣きそうになりながら、震えた声でそう呟くわたしを見て、その人はぴくりと片眉を上げた。