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 アルハイゼンとカーヴェが仕事に行った後、わたしは華麗な二度寝をキメて、太陽がほとんど真上に登ったあたりでようやく覚醒する。そうして亀のような速度で支度を済ませた後は、二人が帰ってくる夕方まではわたしの自由時間だった。なぜ夕方かというと、アルハイゼンの仕事が終わるその時間までがわたしが外を自由に歩いていい門限だからである。いい大人のくせして門限があるのかと思われるのかもしれないが、これはわたしがアルハイゼンの脛を齧らせてもらうための条件だった。
 以前は門限なんてなかったのだけれども、スメール砂漠出身であるというわたしのスペア寄生先(アルハイゼンの脛を齧らせてもらえなくなった時、次にヒモとして飼ってもらう予備の飼い主のことだ)である少年の言葉につられてふらふらキャラバン宿駅で夕食をキメていたらホイホイ甘い言葉に誘われるなと大層叱られ三日間外出禁止で部屋に閉じ込められた挙句、アルハイゼンやカーヴェが帰るまでに家にいなかったら過ぎた時間×日数で外出禁止にすると言われたので、渋々わたしも門限を守っているわけである。アルハイゼンとカーヴェがわたしに着せるルールは他にもあるのだが、今は割愛しておく。面倒だし厳しくはあるものの、アルハイゼンはお金もあるし、お強請りすれば大抵は買ってくれるし、何もしなくても許してくれるので、自分に課せられたデメリットを考慮してもアルハイゼンの臑を嚙る権利を失うのは惜しい。そうでなくても何を任せてもセンスが抜群のカーヴェがわたしを着飾ってくれるので、服のコーディネートなどを考えなくて済むのも楽だし、とにかくアルハイゼンさんちは居心地がいいのだ。追い出されない限りは脛を齧っていたいのである。(まあ正直少年の「え?(笑) 君の飼い主って随分と厳しいんだね〜。僕ならそんなことさせないけどなあ。僕なら目の届く範囲にいるなら何処へ行っても自由にさせてあげるのに」という言葉にはとても揺らいだ。揺らいでしまったが故に怒りを買い、門限をつけられ閉じ込められることになったわけだが)
 まあそんなわけでわたしは自由なのである。家のものは自由にしていいとアルハイゼンには言われているけれども、ずっと家にいては腐ってしまう。わたしはアウトドアなヒモなのだ。最も、アウトドアになったのはこの世界に来てからではあるが。スマホの使えないこの異世界において、娯楽はほとんど外にしかないのだ。アルハイゼンの家には幾多の本が収められた書斎があるが、この世界の文字をわたしは読めないので本を読むということもできない。そうなると、娯楽は外でしか得られないのだ。ぐうたらするのも好きではあるが、ぐうたらも毎日続ければ飽きるというものである。
 適当にシティをぶらつきながら、市場の商品を眺める。アルハイゼンは一緒に出かけている時なら何でも買ってくれるが、わたし自身にお小遣いはくれない。ので、市場のものを見るだけで何も買うことができない。だがしかし、早朝早くに朝ごはんを食べたせいか、昼過ぎの今はすっかりお腹が空いてしまっていた。市場の食べ物がすべて美味しそうに見える。食べたくて仕方がない。しかし、お金がない……こうなったら教令院に転がり込んでアルハイゼンに昼代を強請るしかないかと考えたところで、ふいに目の前を見慣れた藤色が横切った。
 ――レイラだ。

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