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「レイラ〜何してるの?」
「えっ……? あっ、ベガ!? ぐ、偶然だね……! えっと、ちょっと論文を……」
「わ〜大変だね〜。それよりレイラ、お腹空かない?」
 レイラ。彼女もまたわたしのスペアの寄生先である。教令院のなんちゃら学院の学生らしいが(全部で六つあるらしいが、ややこしい横文字なので覚えていない)会う度にいつも論文に苦労しているような気がする。レイラはわたしの姿を認めるとわたわたと手を動かして、それから嬉しそうに頬を染めて「それじゃあ、ええと……ご飯、行く?」と誘ってくれた。今日の昼食をゲットである。もちろんこの支払いはレイラがする。わたしはヒモの寄生虫なので、相手に集るのもお手の物だ。我ながらクズの思考をしていると思うが、罪悪感など今更湧くはずもない。人生開き直った者の方が強いのだ。
「ベスティと食事なんていつぶりだろう……? ベガ、最近は全然街でも会わないから……」
「うーん、ちょっと忙しくてさあ……。でもレイラに会えてよかったあ! お腹すっごく空いてたんだ」
「そうだったんだ……なら、今日は好きなだけ食べていいからね」
 レイラが両手で頬杖をついて、うっとりとした様子でわたしを見つめている。どうしてこんなに好意を持たれているのか正直わたしも分からない。レイラと会った時、わたしは既に多方面のヒモをしていて、彼女に対しても集るだけ集っているだけのクズだ。しかもレイラは学生。学生に寄生しようだなんて最低最悪としか言いようがないが、だからといって辞めるつもりはない。寄生することはわたしの生命線なのである。まあ現在はアルハイゼンさんという飼い主がわたしの首輪のヒモを握っているわけだけれども、寄生先は多いに越したことはない。アルハイゼンのことだ、「いつまで君は怠惰に過ごし俺に寄生しているつもりだ? いい加減出ていけ」と突然追い出してくる可能性がないとは言えない。朝アルハイゼンとカーヴェに他のやつに媚びを売るなと釘を刺されたけれども。まあバレなきゃ問題はないだろう。どうせ二人は今仕事だし。
「そうだ、ベガ……これ、あげる」
「? なにこれ……鍵?」
「私の家の鍵だよ。ずっと渡したいと思っていたんだけどずっと機会を逃してて……ふふ、渡せてよかった」
 レイラに合鍵を渡されて、わたしは少し困ってしまった。気軽に寄りつける家ができたのは喜ばしいことだが、これをどうやってあの二人から隠し通せばいいのか。アルハイゼンはわたしの些細な変化もすぐに気が付いてしまうし、カーヴェはわたしのお世話をしてくれることもあって、わたしの持ち物をチェックしている。わたしをヒモとして養ってくれる人はこのスメールに沢山いるわけだが、そこにわたしのものは何ひとつない。すべてを与えられているのだ。つまり、わたしは管理されている愛玩動物のようなもので……ペットの不調に飼い主はすぐに気が付くものだ。もちろん、ペットの隠した宝物だって見つけてしまう。そういうわけで、わたしが手に入れたものは大抵取り上げられて、他人に媚びるなと怒られてしまう。カーヴェは怒ると面倒くさいのだ。合鍵を持つことは、約束を破ったことに繋がるかもしれないので、正直もらいたくはなかった。

 ちなみにだが、以前にもレイラと同じようにわたしに合鍵をくれた人がいた。ニィロウである。わたしとニィロウは一週間という短い期間ではあったが一緒に住んでいたために、彼女の家の鍵をわたしは持っていたのだ。しかし、アルハイゼンとカーヴェに無理矢理連れ帰られた時、カーヴェが不機嫌そうにニィロウの家の鍵をわたしの服のポケットから見つけた。
「これは?」
「ニィロウの家の鍵……」
「ふうん。なら僕たちの家に帰ってきた今これはもう必要ないよな? 君がこれから誰かの家に住むなんてことは今後一切ありえないんだし」
「なら俺が彼女に鍵を返しておこう。キャットに行かせたら面倒なことになりそうだからな」
 ――あの鍵の行方はそれからわたしも分かっていない。しかし恐らくアルハイゼンの手からニィロウに返されたのだろう。このように、二人はわたしが他の寄生先があることを気に入っていないようなのだ。まあ、その後こっそり会ったニィロウに「鍵はここに隠しておくからね」と隠し場所を教えてもらったのでいつでも彼女に家に入れるのだけれども、しかしわたしがレイラの家の鍵を持ち帰ればカーヴェがすぐに見つけて取り上げるに違いない。そうなれば尻尾を振って媚びを売ったと言われてまた外出禁止令を出されてしまう。今度はきっと三日どころでは済まないはずだ。それは避けたい。缶詰生活は懲り懲りだ。
「あの、これからはいつでも私の家に来ていいからね」
「う……うーん。レイラ、わたし何もできないけどいいの?」
「うん、何もしなくていいよ! ベガが家にいてくれるだけで、凄く嬉しいの」
 満面の笑みだ。あまりに眩しすぎるため、わたしは「合鍵、いらない」とは言えなかった。もしもわたしがそんな言葉を吐いた暁には、レイラのこの笑みがたちまち曇ってしまうだろうと考えると……。まあ鍵は隠せばいいか。ニィロウの時のようにレイラの家の近くにこっそり隠しておけば見つかることもない。
「ありがとうレイラ。だーいすき」
「! ……え、えへへ、私もベガが大好きだよ!」
 ううん、食後にはやはりデザートが欲しい。レイラも好きなだけ食べていいと言っていたし、ここはパフェでも頼ませてもらおうかな。

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