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「げ」
 目的だった昼食も済ませたので、名残惜しそうに見つめるレイラに別れを告げてぶらぶらと街を散策していたところ、放浪者を見つけた。わたしの顔を見るなり嫌そうな顔をして、ふいと離れようとするのですぐに距離を詰めて隣を陣どる。
「放浪者! 放浪者くん奇遇だね! 何してるの?」
「別に。じゃあね」
「待ってよ、酷くない? せっかく会ったんだからもう少し話そうよ」
 わたしを適当にあしらってどこかに行こうとするので放浪者の腕をがっと掴み、そのまま当然のように横を歩いた。心底侮蔑したような眼差しを向けられたが、放浪者にこういった眼差しを向けられるのは茶飯事なので今更気にしない。ヒモたるもの、いついかなる時も平常心でなければならないのだ。まあ、なんだかんだいいつつも放浪者がわたしのことを嫌っていないと知っているからこそ彼相手にこんなことができるわけなのだけれども。
「いやホントに久しぶり〜〜! 何週間ぶりだろう? 元気してた?」
「僕に尋ねる前に、自分の心配をしたらどうなんだい。君のこわあい飼い主に見つかったら、また監禁されるだろう」
「エ! 放浪者わたしのこと心配してくれてるの? うれし〜!」
「……」
 次は氷のように覚めた眼差しを向けられたが、まったく気が付かないふりをした。こんなつんけんした口振りをしてはいるものの、なんだかんだわたしと会えなかったことを寂しがっているのだろう。わたしは割と頻繁にアルハイゼンとカーヴェによって外出禁止令を出されているのだが、放浪者はあまり自分からぺらぺらと喋る方ではないというか、静かに話を聞いてくれるのでつい何でも話してしまう。うるさい喋るなお前の言葉は耳障りです、と言わんばかりのつんつんした態度を取っておきながら、放浪者は簡単にわたしなど振り切ってどこかに行けるのにそれをしたりしないし、今だってわたしに腕を掴まれたまま、わたしの歩調にさりげなく足を揃えながら歩いてくれている。話を聞いていないようでいて、こうみえてわたしの言葉をちゃんと聞いているし、相槌もしてくれるし、気をつかってもくれるのだ。素直じゃない、可愛いやつである。
「大丈夫だよ〜今日は二人も仕事だし、別に約束破ってないし。破ってもバレなきゃ問題ないない」
「君のその能天気さには呆れを通り越して尊敬さえ覚えるね」
「褒めてる?」
「貶してるんだ、馬鹿」
 放浪者は大きく溜め息を吐くとふんと顔を背けてぴたりと口を閉じた。どうやらもう話す気はないらしい。まあこれは恒例のことだったので、わたしは彼の横でいつものようにぴーちくぱーちくと話し始めることにした。放浪者の足は教令院に向かっている。そういえば、放浪者は教令院のなんとか学院に在学しているらしい。教令院の人たちの間では、放浪者は笠っちと呼ばれているそうだが、なんだかたまごっちみたいな響きなので聞く度にいつもふふ……と頬が緩んでしまう。あのつんけんした放浪者がたまごっち。たまごっちで例えるならなにっちだろうと思ったけれども、たまごっちはまめっちとふらわっちとくちぱっちくらいしか知らなかった。あとめめっち。少なくとも放浪者はどれにも属さなさそうだ。閑話休題。
「放浪者これから何するの?」
「君に関係あるのか」
「あるよ。友達じゃん」
「……。君にいちいち言う必要はないと思うけど」
「えーっ。わたしたちの仲じゃん。ねーっ?」
「うるさい。暇ならクラクサナリデビにでも構ってもらえ」
 教令院の中までやってきた辺りで放浪者にばさりと切り捨てられ、わたしは渋々引いた。引き時を見誤ってはならないのだ。これも、この世界で身につけた処世術というべきか、まあ、とにかく言われたことに従っておけばいいのだ。去っていく放浪者にばいばーいと手を振ると、放浪者は鼻を鳴らして去っていった。一見塩対応に見えるが、これでも初めて会った時よりだいぶ丸くなった方だ。初めて会った時はもっと皮肉ばかりを吐いていてもっと刺々しかった。放浪者もわたしに絆されてきたのだろうか。まあ、少なくともわたしは少なからず放浪者に好感を抱いているし、なんだかんだわたしに行くところがなくなったら助けてくれそうなところも好きだ。放浪者はああ見えてだいぶ面倒見がいい。本人が聞いたら、きっと否定するだろうけれども。
 それはさておき、流れるままに教令院まで来てしまった。アルハイゼンの職場だ。ここまで来て下のハザールまでとんぼ返りするのは面倒だなと思い、門限までゆっくり暇を潰したいなと思い立った。時間になったらアルハイゼンと帰ればカーヴェにああだこうだとちくちく言われることもないだろうし。
「うーん」
 せっかくここまで来たのだ、放浪者が言う通りにナヒーダに会いに行くのもいいのかもしれない。

 ナヒーダ。別名、クラクサナリデビは、この国の神様のことだ。

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