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 ナヒーダと楽しくおしゃべりを楽しんだ後、アルハイゼンの仕事が終わる定時の時間になったのでナヒーダにお別れしてあの長い坂をえっちらおっちらと下っていったらその中腹辺りでアルハイゼンに捕獲された。どうやら教令院内でのわたしの目撃情報が報告されていたらしい。「そういえば書記官にご報告がありまして、あの例の方が教令院にいらっしゃっていましたよ」といった内容で。一体どんな理由があってアルハイゼンに報告したのかは分からないが、もしかするとアルハイゼンがわたしを排除するために動いてくれるのかもしれないと思ったのかもしれない。わたしが教令院に出入りすることは周知の事実というか、暗黙の了解にされているところがあるのだが、中にはよく思わない人もいる。教令院に出入りすることが許されているのは厳格な試験を突破した学生たちであり、そこに収納されている知恵を学ぶ権利は教令院主催の催しを除いて一般にはない。だというのに、わたしはナヒーダに許されているというだけで閲覧禁止区域を除くほとんどの場所への出入りが許されているのだから、真面目にやっている人間からすれば溜まったものではない。それが放浪者のようにちゃんと学生として勉学に励んでいればいいけれども、わたしはただナヒーダとお茶をして遊んでいるだけなので、まあ、口には出さないだけでよく思われていないことは確かだ。だからといって、アルハイゼンにそれを告げ口したところで意味はないのだが。
 何せ、アルハイゼンはそんなわたしを飼っている飼い主であり、わたしをナヒーダの前に突き出した張本人でもある。最初からこっち側であるのだ。最も、アルハイゼンはあっちだとかこっちだとかの派閥に属する気はないだろうし、ただただわたしの飼い主であるという権利だけを主張するのだろうが。
 まあその報告がわたしを追い出すためであるのか、はたまたただの雑談であるのか、その真意はさておき、残念ながらわたしはナヒーダに様々な我儘を許されているプロのヒモなので、文句があるならナヒーダとアルハイゼンに言えという話である。この国の神と、教令院の書記官であるアルハイゼンに。バックが強いとヒモ活は捗る。アルハイゼンの家に飼われていたいのはそういう面もあるのだ。アルハイゼンは敵に回すと面倒だが、わたしの飼い主である内はわたしのことを守ってくれる。まあ、最近はいろいろと制約が課されていて、メリットだけではなくなってきたけれども。
 それはさておきアルハイゼンに捕獲されたわたしはアルハイゼンに首根っこを掴まれながら家へと連れて帰られて静かに詰められたのだった。「誰に飼われているのかをよく考えてみるといい、と言ったはずだが」という様子で――要は、尻尾を振りすぎだ、ということらしい。ナヒーダでもダメなんですか? と敬語で聞いたところ(一応叱られている立場なのでそこはちゃんと弁える。プロのヒモなので)駄目らしかった。むしろナヒーダだからこそ余計いけないらしい。難しいことは分からなかったのではえ〜そうなんですか〜と適当に返していたら、アルハイゼンがぴくりと眉を上げて、わたしを見つめる厳しい眼を細めた。パーフェクトコミュニケーションはならず、アルハイゼンに告げられたのは二週間の外出禁止である。これには流石のわたしも反論したが、アルハイゼンに淡々と詰められた挙句、運悪く帰ってきたカーヴェがそれを知ったことでわたしはブチ切れの二人に詰められることになり、最終的に三週間の外出禁止が言い渡された。増えとる。つい先日外出禁止が終わったと思った矢先にまた始まった。外出禁止を言い渡されるとわたしはアルハイゼンとカーヴェがいない時以外は一切部屋の外に出ることさえも許してもらえなくなる。三日の外出禁止でさえ暇すぎて腐っていたのに、三週間も外出禁止にされたらわたしは廃人になってしまう。暇すぎて。わたしはアウトドアなヒモなのだ。
 まあ、大人しく二人の言うことを聞いておけば楽だということは理解している。わたしに課す門限や制約が厳しいことを除けば、アルハイゼンもカーヴェもわたしにとても優しい飼い主だ。怠惰や堕落を許し、ある程度わたしの意思を尊重してくれる。わたしに暴力を振るうわけでもないし、どちらかといえば積極的にわたしを甘やかしてくれる方だ。こんな優良物件、他にはない。
 三週間の外出禁止と言い渡されたものの、わたしが彼らの言いつけをよく守って大人しくしていれば、自宅近辺を散歩することくらいは許されることだろう。ひょっとしたら一時間という制限付きでトレジャーストリートなどへ遊びに行くことも許されるかもしれない。約束を守りさえすれば、彼等も強い理不尽を課せることはないのだ。
 しかし、わたしはヒモである。自由なヒモである。やりたいようにやるし、好きなことをする。だってそれが許されているから。今回に限っていえば、門限を破ってもいないし、ナヒーダに対して分かりやすく尻尾を振ったつもりもない。どんなにナヒーダに誘われてもあくまでわたしの飼い主はアルハイゼンとカーヴェであるのだときちんと線引きはしたのだ、褒められることこそすれ、責め立てられるいわれはないはずである。今回のお叱りは非常に不満だった。いくらなんでも理不尽が過ぎる。ナヒーダはアルハイゼンたちが不安だからわたしに厳しくするのだと言っていたが、不安になる要素がどこにあるというのだろう。こんなにわたしは忠実なのに。大変遺憾の意だ。

 ――なので、家出をすることにした。
 別にわたしを飼ってくれる人はたくさんいるのだ。スペアの寄生先だっている。アルハイゼンたちに飼われることはわたしにとってメリットの方が多いけれども、何もアルハイゼンたちに拘る必要はない。
 基本的には従順だが、気に食わないことがあれば時に反抗もする。首輪をつけず、扉の鍵を開けたままにしておけば脱走する。――これぞペットの極意、ペット兼ヒモの第一次反抗期である。

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