まるで上生菓子みたい


濃淡様々な朱に色づいた葉たちが、乾いた秋の地面を転がる。もし草履で踏めば、かさかさ、とか、ぱりぱり、とか、そういう音がするんじゃないかと思う。

踏まずに、箒で一箇所にかき集める。落ち葉たちが景観を損ねているとは全く思わないけれど、『客商売だから、一応お店の前は小綺麗に』という店長の言葉に従っている。

ここ最近は風は冷たいけれど、空が高くて空気が澄み渡っている。先週動物園に行った時も、気持ちのいい秋晴れだった。きりんの赤ちゃん、可愛かったなあ。沖田さんには、『餃子のお礼が動物園ってのはどうかと思うけどな』とは言われてしまったけど、私の思い込みでなければ、彼は楽しんでくれていたと思う。終始穏やかな雰囲気だったから。

ただ、彼との距離感にだけは、偶に妙にどぎまぎしてしまった。今までどうやって接していたのか忘れてしまうほどに。そして、私の笑い声を変だと思ったことはないと言ってくれたのが嬉しかった。そんなようなことを思い出しているとひとりでに体温は上がってくるのに、何かに気づけそうで気づかないフリをここ数日続けている。どうしたものかとたまさんにメールしても、恋愛もののポエムが送られてくるばかりだった。

と、後頭部が大きな熱に撫で上げられた。ぬる、とも、べと、とも言えない絶妙な感触。ヒュッと全身が縮み上がり、思わず持っていた箒を地面に落とす。

な、何。震えながら振り向くと、大きな白い犬が舌を出して荒く呼吸しながらこちらを見つめていた。その上に堂々と跨り腰に手を当てて憤慨するのは、

『サダハル、めっ!名前がびっくりするでショ!』

夏ぶりの、万事屋の神楽ちゃん。横にはスクーターに乗った坂田さんと、新八くんもいた。



『名前さん、突然来ちゃってごめんなさい』
『いいのいいの。私もみんなに会いたいなと思ってました』

思いがけない来訪者にお茶とお団子をお出しして、お店の縁台に一緒に座る。新八くんは申し訳なさそうに筆談してくるけど、久しぶりに三人に会えて本当に嬉しいから気にしないでほしい。彼は人が良すぎる。『もう少し甘ければ最高なんだけどなァ』と言いながらも期間限定の栗おはぎを次々に口に入れていく坂田さんくらい、奔放でいてもいいのに。おはぎの餡は丁寧に裏ごしした丹波の初栗を使っているけれど、最小限の砂糖しか入れていないから、坂田さんには物足りなかったかな。今度彼用にもっと甘くしたものを用意しよう。それで彼らの職場、万事屋に持って行こう。あと、たまさんにも。

神楽ちゃんは、名前に会いたかったから来たアル!とこちらが照れてしまうくらい素直な来訪理由を告げたきり、坂田さん以上に勢いよくおはぎを胃に入れ続けている。

サダハルくんは、お店の外で伏せをして日向ぼっこしている。先程は突然頭を舐められてとてもびっくりしたけど、愛情表現が体と同じくらい大きくなってしまうだけのとてもいい子だと分かった。



新八とのほほんと手話している名前。いつもの茶色い着物に襷をかけ、黒髪は今日は高い位置にくくってある。ポニーテールっていいよねえ。合間を見て手を振り、注意を引く。

「名前ちゃん、ちょいと」
『はい』
「ゴホン!えー、……沖田くんとはどこまでいったの?」
『……えっ?』

名前は一気に顔を赤くして、そういう関係ではないと主張した。ただ最近結構仲良くしてもらっていて、この前は動物園に行ったと。小さい馬に囲まれてサディスティックな顔をした奴の写真を見せられた。

俺の勘は中々いい線いってると思ったんだけどな。まあ名前のことだから、嘘はついていないのだろうが。

「本当にオトモダチ?あいつは動物園なんて誘われても行く質じゃないと思うんだけどね〜。餃子の時も怪しかったんだよな、妙に俺に突っかかってきたからよォ」
「えっ!?名前さん、沖田さんと、で、デートしたんですか!?」
「あっ、若いからギリギリ許されてるみたいなセクハラばっかされてるだろ?」
「名前、サドに弱みでも握られてるアルか!?何されたネ!?私が百倍返ししてやるアル!」

惚れた腫れた話をしていると勘づいた新八神楽も会話に参戦してきた。興奮した俺らに捲し立てられると、名前は『い、いや、デートじゃないし、何もしてないしされてないし、弱みも握られてないですよ…』と焦りながらもゆっくり手話をした。いや、デートだろ。

『でもすごく優しくて、私にもあっけらかんと接してくれて、いい人だなって思います』

『あ、ちょっと意地悪だけど』。そう続けた名前は、なんだかとても楽しそうだし耳はまだ赤い。だから、『ちょっとどころじゃねーよ』なんて言えなかった。もしかしたら名前の前ではあいつのSっ気も鳴りをひそめるのかもしれない。

奴の気持ちは分かる。可愛いもんな。顔だけじゃない、素朴な愛らしさみたいなのが名前にはある。ま、俺はもう少し肉付きが良い方が好みだけど。

『しょっちゅう会ってんの?』
『いえ、たまにここに遊びに来てくださるくらいで…』

続けざまにさりげなく最近の沖田との交流について深掘りすると、出てくる出てくるプラトニックなエピソードの数々。

え、ピュアすぎない?一回り近く年下の二人の純度の高い関係性に頭を抱えた。

沖田のフラットな態度は名前の好感を得ているらしいが、奴自身が自覚を持たない限りこの鈍感女との関係性は前に進まないだろう。あいつ、意外と手ェ早くないんだな。さて、これからどう出るか。

おじさんは知〜らない。

2021.9.11




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