SPIRIT WORLD見解�B
【氷室side】
可笑しな世界に来てオレが目を覚ました所は3年B組。近くにはアツシともう一人、アレックスがいた。状況がわからない中で教室内で話し合っていると廊下から聞こえた唸り声。耳を澄ませると、以前に陽泉のメンバーで観たジュオンに出てきた女の霊の感じに似ていた。「あ゛あ゛あ゛」ってやつだね。
気になったオレが確認するとやはりそこにいたのはDVDで観た女の霊のような姿。廊下に這い蹲ってズルズルと体を引きずっている。
気付いたソイツが一瞬動きを止めた後に凄い勢いで教室に入って来た時は流石に吃驚した。けどアレックスの回し蹴り、オレの背負い投げ、アツシの踏み潰しによって引き返していった。案外弱いのだと思った。
その後は歩き回っているうちに近くの教室にいた桐皇始め、他校のバスケ部と合流し大きくみんなが集まり易い体育館に向かう。オレ達の次に来た海常の人達が怪物に追い掛けられたようで、必死の形相で駆け込んできた時に扉の向こう側で見えたのは、体育館と校舎を繋いでいる渡り廊下の校舎側のドア前でウロウロした後引き返していく怪物。
閉め切れなかったであろうドアは少し開いていたにも関わらず来ないという事は、こちら側には来られないという事。そして体育館を拠点にする事になった。
以降は何度かの探索の後、人が集まり、白黒のメモや女性が見付かった。
この奇怪な世界で会った誰も知らない女性は、顔見知り同士であるオレ達からすれば必然的に警戒対象になってしまう。此処に怪物が入れないのは絶対ではない。言い切れる理由がないから、彼女が人間に化けた怪物ではないとも言い切れなかった。
此処に入れない怪物が低級とすれば、化ける事が出来る怪物は中級〜高級で此処に入れる…なんて、いいように考え過ぎかと自嘲する。
怪物はオレ達も見ているから此処が自分達の住んでいる世界とは違う事は重々承知している。だからこそ気が抜けなかった。隣にいるアツシは然程気にした様子がないのでどうでもいいのだろう。ずっとお菓子が食べたいと訴えているが、ないものは仕方ない。みんなジャージの手ぶらで此処にいるんだ。
目が覚めた女性、山口そらさんを見ての第一印象は普通。勿論悪い意味ではなく、害がないように見えるという意味で。
そして話し合いでも特に可笑しいと思うような点はなかった。だが怪しめば怪しむ程怪しいもので、話し合い後山口さんはみんなから距離を置かれ一人だった。のも少しの間だけで、話し掛けに行く誠凛の監督と桐皇のマネージャー。そしてアレックス。
あろう事かキスまでしてしまった彼女に、警戒心がなさ過ぎという意味と初対面でしかも(見た感じ)シャイである日本人相手にやめて欲しいという意味でオレが駆け寄る。タイガも同時に駆け寄るが、恐らくタイガは俺の考える後者の理由のみで動いていると思う。タイガは優しい奴だから。
そこで初めて彼女と会話する。話した感じも至って普通。敵意も悪意も何も感じない。
相手に疑心がバレないように繕い、人当たりのいいとされる笑みを浮かべて彼女を褒めると、キスを受けてあまり動揺が見られなかった先程とは違い頬がじわじわと染まっていく。オロオロ視線を彷徨わせる姿は純粋に可愛らしいと思った。
でもこれも演技だったら…と考えてしまう分に、オレは性格が歪んでいるらしい。
そして探索。オレ達陽泉と一緒に行く事になった山口さん。もし騙そうとしているなら一緒に行動すればいつかボロが出るだろうと思っていた。しかし予想を裏切り至って普通に少し強張った表情で隣を歩く彼女。教室内を見回っている時も真剣に何かないか探そうとするだけで可笑しな行動が一切見られない。
オレ達と同じようにただ此処に連れてこられた人なのかな、と思っていると廊下に出て引き攣った声を漏らす山口さん。視線の先にはミイラ男のような怪物。怖さはあまり感じられないが、やはり女性だからあんなのでも強いのかと思って彼女を盗み見ると、暗闇でもわかるくらいに青ざめ目を見開き、少し体を震わせて怪物を見つめる姿が異常に感じた。
目を逸らしたくても逸らせないというように、見つめ続けていたかと思うと怪物は突如走り出しこちらに向かって来る。
アレックスとアツシ三人でいた時も撃退出来たので大丈夫だろうと迎え討つ姿勢を取る。
「馬鹿!逃げるよ!!」
と叱咤され背中を押され逃げる事になったが、途中一人だけ焦ったように怪物が変な事を言っていたと言う。あの時も今もオレ達には何も聞こえなかったが、彼女は何を聞いたのか。何を見て何を感じ取ったのか疑問が脳内を占める。やはり彼女は普通の人間ではないのか、と思考が過ったその時急にこける山口さん。
慌てていて足を取られたかと思えばその足に巻きつくのはミイラ男の包帯。抱き起こそうと手を伸ばすがそのまま引きずられていく彼女には届かず、舌打ちが漏れた。
その途中も山口さんの悲鳴しか聞こえないが一人でツッコミを入れる山口さん。馬乗りになる怪物を見て駆け出す前に、正邦の坊主君が駆け出すが、それよりも早く投げ飛ばす山口さんにみんなの目が点になった。火事場の馬鹿力…かな?
ミイラ男は坊主君によって殴り飛ばされ壁に激突していた。
アツシと駆け寄り起き上がった山口さんの肩を支えると怪物の首を狙うように指示する。当然何故急にそんな事をと疑問が更に増えるが、オレ達の時とは違いトドメを刺すと消えていく怪物。トドメを刺すと消える事がわかった。
怪物がいなくなってから急に力が抜けてもたれ掛かる彼女の体の軽さや細さ、肩の小ささに驚いた。大丈夫と言いつつ微かに震える様子を見て、そこでやっと彼女の弱さが見えた気がする。
思えば、特に会話したわけではないが彼女は泣き言など一切言っていなかった事を思い出した。身の潔白を示す為に一生懸命になっているだけだと、その時に理解した。
彼女を知らないという事は、彼女の知り合いはおらず味方もいないという事も改めて理解し、こんな世界に自分を知るのが自分一人ということがどれだけ怖く心細い事か、計り知れないと思った。オレ達には仲間がいるからそんな考えは無縁だった。
その時、自然にこの人を守らなければ、と思考が過る。たっちゃんとあだ名を付けて呼んだ彼女に、オレ達と少しでも距離を縮め寂しさを補おうとしているように思えて、オレはそれに応えたくなった。
名前で呼ぶと嬉しそうに破顔する。純粋な笑みを見て、自然と決意は固まった。この人を守ろうと。
リュウとアツシも何だかんだ少し懐いたように見えたのでよかったと思った。
探索後、体育館に戻ると探索結果の話し合い。そこであの時そらさんが見た詳細を聞いて驚愕した。当然嘘を吐いているようには見えず、背中を撫でている手越しに体温が少し下がったように感じ、怖い思いをしたんだと無性にその小さな背中を抱き締めたくなった。
そして白黒のメモの解読によって、そらさんが案内人である事が判明した。
元々そういう力を持っていたから此処に来たのか、此処に来たから案内人になったのか、案内人になるきっかけが何処かであったのかはわからない。けど本当なら目を逸らしたい現実を受け止め、覚悟を決めて案内人として役目を果たそうとする姿勢を見て、オレも彼女の力になれるように、守れるように頑張ろうと思えた。
余談だが、もう一つわかった事がある。あの時は急な事で心配しかなかったが、いいツッコミをしたり「目があ!!目がァァァ!!!」と叫んだり、そらさんは意外とお茶目である事。
それも彼女のよさなんだろうと思うと共に思い出し笑いをしてしまって、アツシに首を傾げられたのは此処だけの話で。
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