SPIRIT WORLD
要点

 あたしが案内人とわかり、みんなが休んでいる間に今までの探索結果など知らない事について、赤司少年に教えてもらった。
 まず構図であるが、探索の都度書き留めて図にしていたようでそれを見せてくれた。

 一階は体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下から入り、右側に保健室、第二会議室、第一会議室、印刷室、職員室、第一資料室、職員と来客用玄関と奥へ続く。L字になっているその突き当たりに来客室、左に校長室、階段、生徒昇降口と続く。
 その先へ進むと先程の秀徳の報告通り別館で、T字になっている右側奥が技術室、手前へ順に準備室、物置。左側奥が乾燥室、手前に男女のトイレ。
 保健室の対面、つまり渡り廊下側から入り左側には階段、その横に男女のトイレがある。

 二階は階段から上がり保健室の真上に当たる位置に2年G組、奥へ2年F〜A組と続き、A組横が先程海常が途中で探索を断念した第二資料室となっている。その先はL字の突き当たりだが不明との事。
 一階にあった階段とトイレのある位置は二階、三階も同じ構図である。

 三階は階段から上がり2年G組の真上に当たる位置に1年G組、奥へ1年F〜A組と続いていて二階とほぼ教室の位置は同じだが、一階と二階にはある資料室はなかった。
 可能性としては、あたしが怪物を見つけたL字の突き当たり(一階で言うと来客室や校長室の真上に当たる位置)にあるかもしれないとの事。怪物がいてそれどころじゃなかったからちゃんと見てなかったわ。
 突き当たりから先の奥は三階も不明。

 みんなが目を覚ました場所は全員1年から3年の各教室であったとの事。そこで疑問が発生。

「此処に来て2時間…それより経ってるから3時間くらいだよね?はっきり言うけどあんまり構図わかってないんだね。あと3年生の教室書いてないけど何処にあるの?記入漏れ?」

 そう言った途端に固まる赤司少年。

「…どした?」

「…いえ、そうですね。抜けています」

 何故気付かなかった、と呟く赤司少年。ん?どゆ事?

「…すみません。皆さん少しいいですか?」

 そう言うと全員を呼び集め、やや困惑気味に質問を投げ掛けた。

「再確認します。3年生の教室で目を覚ましたのは誰がいましたか?」

 手を挙げるのは数名。

「ワシと諏佐、青峰と桃井が3年F組や」

「3年C組で僕と火神君、木吉先輩と土田先輩です」

「オレとアツシ、アレックスが3年B組だよ」

 それを聞くと構図を見ながら顎に手を添えて考え込む赤司少年。それを見てマコマコが口を開く。

「それがどうした」

「…うっかり、3年生の教室を書き忘れていました」

 赤司に限ってうっかり?と彼を知る者は当然、全員が目を見張る。あたしも吃驚したけど、そんな顔したら何で吃驚してんのと突っ込まれるので何とか表情を変えずに頑張る。
 それを聞いたマコマコが眉間に皺を寄せ怪訝な顔をした。

「すみませんが、どの位置にあったか覚えていますか?」

 赤司少年が今吉少年らに目を向けると、途端に困惑したような顔をする。

「…ワシらどうやって来たんやっけ」

「確かに…3年F組は一階だったというのは覚えてるんですけど」

 はい?

「記憶喪失?」

「いや、…3年生の教室出てからどうやって此処まで来たか一部思い出せやんねん」

 んんん?

「えーっと、じゃあ他のみんなは?忘れてる?」

「私は自分の起きた教室からなら覚えてるけど…」

 リコぴんに続いてオレも、といくつか声が上がる。つまり?

「記憶の一部が操作されている…?」

 そう、それが言いたかった。赤司少年が呟いて何となく理解した。この世界では何が起こっても仕方ないから、誰が悪いとかじゃない。

「此処に来て数時間。こと事細かに情報共有して校舎の構図も書きました。それでも今まで誰も違和感なく3年生の教室に関して触れてこなかった。十数人3年生の教室で目を覚ました人がいるのにも関わらず、目を覚ました場所は聞いてもどの位置にあるか聞かなかった。構図に書かれていない事に違和感を覚えなかった…」

 赤司少年が整理するように言うと、今吉少年が再度口を開く。

「…最初に言うとくけど、ワシらは疑われるような事はしてへんで。忘れてしまっとるんは事実やけど」

 確かにこの状況では最初から偽物だったのではないか、など彼らが疑われやすくなってしまう。その証拠に一部の人が3年生の教室で起きた人達を疑うような、畏怖するような目で見ている。

「その辺は大丈夫でしょ」

 あたしがそう言うとみんなの視線が集まる。

「あたしは怪物の正体がわかるみたいだし、この場にいる全員普通の人間に“視”えてるよ。怪物なら怪物みたいに視えるはずだし、弱点かもしれない黒い靄も視えると思うしね」

 だから誰も怪しむ必要はないよと言うと、ある人は不意を突かれたように目を見張り、ある人は安堵したように息吐いたりしている。

「そうでしたね。ありがとうございます、山口さん」

 赤司少年は少し微笑むとあたしに礼を言う。礼言われるような事はしてないけどね。うん、照れる。

「いえいえ。じゃあ整理すると、3年の教室に関して記憶を操作されているって仮定したとして。実はそこには色々重要な物があるとかで隠したいとか都合のいいように解釈しておこう。今回あたしが案内人だから気付いたとするなら、探索するうちに何か3年の教室に関してわかるかもしれないね。白黒の紙にもあったけど、行くまでの道とか」

 途中のあたしの勝手な解釈に数人が成る程と納得している。飽く迄いいように解釈してるだけだからね。

「そうですね。皆さん、3年生の教室に関してもし思い出した事や気付いた事があれば直ぐに言って下さい。またその点に関して今後注意していきましょう」

 そこまで言うとみんなが頷き、程なくして再度解散。あたしは引き続き赤司少年に話を聞く。

「あとは黒い紙が二枚だったよね。今までのが何処にあったとか覚えてる?」

「書き留めてあります」

 そう言うと赤司少年が誰かを呼ぶ。呼ばれたのは黛少年。初絡みだ。そして黒子少年もだけど薄いな影。

「黛。紙が見付かった場所だが」

「ああ。ほら」

 懐から出した紙切れにそれぞれが見付かった場所が書かれている。
 白い紙5-1が技術室、5-2が1年G組、5-3が職員室、5-4が来客室、5-5が印刷室。黒い紙A-1が2年B組、A-2が1年E組、A-3が職員室、A-5が保健室との事。

「…見た感じあった場所の統一性がないな。一階で見付かったのが多い、かな?」

「はい。職員室は他の教室と比べて広いので、二枚あったと単純に考えています。残りは白い紙がこれ以上なければ黒い紙のA-4とA-6のみだけです」

「一階は乾燥室とトイレ以外探したなら二階か三階、か…あるいはトイレ…」

 そこまで呟いて一つ気になる事が。

「トイレってトイレの花子さんとかいるのかな?」

「…トイレと言えば有名ではありますが、どうでしょう」

「花子さんどころか色んな怪物いるんだからそんな事気にすんなよ」

 ごめん。どうでもよかったね。結局怪物いるとわかっていても行かなきゃならないもんは行かなきゃだし。

「すみません。山口さん」

「ん?」

「毎回怪物のいる所へ行ってもらわなくてはならないので」

 申し訳なさそうに、心配そうにこちらを見つめる赤司少年。黛少年も気まずそうにふいと視線をあたしから外す。不謹慎にも心配されるのが嬉しくて思わずへらっと笑ってしまう。

「気にしないで。なっちゃったもんは仕方ないし、誰も悪くないよ。それよりあたしは与えられた役割をこなすだけだよ。それに今は一人じゃないし。ね?」

 すると赤司少年は一瞬瞠目してから柔らかく美しく(ここ重要)微笑んで頷いた。黛少年は視線を逸らしたままだ。ウブか?

「はい。オレ達がついています」

「頼もしいー。宜しく、赤ぴー」

 勝手に今作ったあだ名で呼ぶとまた瞠目する。

「あ、嫌だった?」

「いえ…そのようなあだ名で呼ばれるのは初めてだったので」

「微妙かな?うーん…じゃあ、せいせい」

「……」

「赤っしー」

「……」

「赤ちゃん」

「一番駄目ですね」

「ぷっ」

 一番って事は全部駄目なのか。そして黛少年口元隠したけど吹き出したの聞こえてるよ。

「あかせい」

「……」

「じゃー赤君」

「…そうですね、それが一番マシです」

 結構我儘だな。でも呼んでもいいって事だよね。やった!

「黛君はちーちゃん」

「やめろ」

 黛少年もあだ名で呼んだけど一蹴されてしまった。つらたん。

「…探索ですが、今後は山口さん同行のもと、一つのチームで行ってもらおうと思います。山口さんしか視えるモノも視えないのなら、他のチームが行ってもリスクが高まるだけで無駄足になりかねません」

「うん、わかった。じゃあ次の探索は構図がわかってない二階の第二資料室から先に行こうかな」

「わかりました。もしまたわからない事や気になる事があれば言って下さい。出発まで山口さんは少し休んで下さい」

「ありがとう」

 そう言って赤君と別れると駆け寄ってくるさっちゃん。

「そらさん!休むならこっちです!」

 そう言われ手を引かれて連れられるままについて行くと、体育館の隅にさっちゃんが正座し奪ったらしい青峰少年のジャージの上着を床に敷いてあたしを寝かせる。つまり、膝枕である。

「あの、さっちゃん?」

「そらさんの癒しになれたらなって…えへへ」

 守りたい、この笑顔。

 下から見ても可愛いとか狡い。そして胸も羨ましいがこの柔らかい太股も素敵だ。駄目だ、変態になってしまう。あ、手遅れか。
 そう思っていると頭を優しくゆっくり撫でられて、ウトウトしてきた。やっぱり気が張ってた分疲れてたのか、と思う内に重い瞼が閉じて直ぐに眠りへと誘われた。

「ありがと…さっちゃん…」

「はい。おやすみなさい」

 羨ましいと嘆く森山少年と数名の羨む視線は完全無視である。

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