SPIRIT WORLD疑義
資料室を出た後、最初の並び順でL字の突き当たりに向かって歩き出す。教室も何もない突き当たりを左へ曲がり進む前に、若松少年が突き当たりの壁を見て呟いた。
「この壁真っ白だな」
一同立ち止まり壁を見つめる。あたしも疑問に思った。この校舎は廃校というだけあって全体的に古びているのだが、この目の前にある壁はシミ一つない真っ白。異様に感じる。
今吉少年が近付いてペタペタ触ってみるが、特に変異もないただの壁との事。
「山口さんにはどう視えとる?」
「普通の壁」
やっぱそうか、と呟く今吉少年の隣に並んで見つめる。普通の壁だが、何か違和感がある。それはみんな同じだからこそ食い付いているのだが、その違和感がわからない。
「な、何かあるんでしょうか?あっ偉そうにすいません!」
「何かクリアしたら開くとか」
「ゲームだな。あと偉そうじゃないぞ桜井」
桜井青峰に諏佐少年が会話するのを聞きながら、あたしも壁に手を伸ばす。
「…少し温かい?」
「え?ワシには冷たく感じるで」
じんわり手の平から伝わる温もりに気付いて呟くと怪訝な声色で今吉少年が正反対の事を言う。
「いやいや。あったかいんだからぁ〜」
「「…ぷっ」」
「何で今それやねん」
「すいません!!」
「桜井ちゃうて!」
あ、これも異世界共通?このネタ通じた?
若松少年と桜井少年が思わず吹いたのを聞きながら、温かいのは冗談ではないと言っておく。
「何かがあるんだろうな」
「今わかんねえなら後回しにしようぜ。さっさと探索して帰りてぇ」
案内人であるあたしが感じて他は感じないなら必ず何かがあると諏佐少年が言うや否や、落ち着かない様子で辺りを気にする青峰少年が先を促す。怖いんだな。
特に嫌な感じはないので、あたしも同意し再度並んで先へ進む。
「ねえねえ、スーさんって呼んでいい?」
「え、オレ?」
「そうオレ。諏佐君でしょ?だからスーさん」
「別にいいですけど…」
初めて呼ばれた、と呟く諏佐少年改めスーさんは苦笑していた。さっき軽々と抱き上げてくれたからね、単純だから懐いちゃう。
「ならワシは何や?」
「ワシは翔ちゃん」
「オレは?」
「峰さん?」
「オレ」
「若」
「俺だけ何の捻りもねぇじゃねえか!」
「じゃあ若ちゃんにするよ」
「妥協!?」
次々に便乗してくれる。え、呼んでいいの?と嬉しくなってあだ名のオンパレード。ちらりと隣の桜井少年を見ると、ビクッとしつつこちらを気にしている。
「桜井君は良君って呼びたいなあ」
「えっ?」
「駄目?いい?」
「え、あ、はい!すいません!」
おどおどする様子はさながら小動物である。可愛い。そして謝り過ぎ。
そんなやり取りをしながら廊下を歩いて行くと別館にそのまま続いているが、恐らく別館は後から付け加えたようで境界線のように仕切り線が出来ているのを越え別館に入る。特に本校舎と変わらない。
T字の突き当たりに差し掛かると、右奥は第二調理室、手前に第一調理室がある。反対に左奥は被服室があり、手前に男女のトイレ。恐らくトイレの位置は三階も同じだと推測。花子さんとか出て来ないでね。あ、フリじゃないよ。
「調理室か。武器調達出来そうやな」
「使えるといいんスけどね」
警戒しながら第一調理室へ入る。中には何もおらず安堵するが、先程のように怪物がいつ現れるかわからない。まあ、多分さっきのは教室のドア開けっ放しだったからそこから入って来たんだろうけど。
今回はスーさんにきちんと閉めてもらい、探索開始。
「そらさんはそっち頼んますわ」
「はーい」
ちょっと、ナチュラルに名前で呼ばれてドキッとしたじゃないの。平静を装って返事し、食器棚周辺を探す。引き出しを開けるとフォークやスプーンなど入っているが、調理器具は見当たらない。
何処かなと考えていると良君が声を掛ける。
「あっ!すいません、黒い紙見付けました!」
「よくやった桜井!」
「す、すいません!!」
「もう突っ込まんでな」
良君が黒板付近で黒い紙を見付け翔ちゃんに渡す。聞くとA-4の紙らしい。あと一枚か、と思いながら隣の棚の引き出しを開けると、そこに包丁があった。新聞紙で作ってあるカバーで包まれており、刃を確認するがどれも錆びて使い物にならない。
その隣を開けると果物ナイフがいくつかあり使えそうだ。確認してみると全部で五本。
「ナイフ五本あったよ」
「武器に使えるな」
懐中電灯片手にスーさんと翔ちゃんが近付いて来て確認する。すべて折り畳み式であたしも一本護身用に持つよう言われてポケットにしまう。
現在持ち物は翔ちゃんがナイフとファイルと黒い紙、スーさんがナイフと懐中電灯、若ちゃんと良君とあたしがナイフ、峰さんがバット。
「水も出ねえし食料もなしかよ」
「此処にあっても食おうとは思わねえだろ」
峰さんと若ちゃんのやり取りを聞きながら、そういえばお腹空いたと思った。空腹感とか生理現象は起こるのか。じゃあいずれはトイレにも…ってまたトイレの話題かい!ってツッコミはなしで。
他は使えそうなものが錆びてしまっているので使えないと判断し、第二調理室へ移動する。
そこも調理器具が殆ど使えないが、そんなに重さもなく錆びも酷くないフライパンを武器にする為持ち出す。これで装備がナイフとフライパンになったよ。某プリンセスが使ってたからいけそう。
やはりそこにも食料はなかった。
「あとは被服室見て一旦帰ろか」
一同頷いて第二調理室の対面にある被服室へと向かい、中へ入る。
作業台と思われる大きな机が六つ、壊れたミシンが至る所に放置されており、千切れた布なども床に落ちていて他の所より埃っぽい。
「鋏あんじゃん」
「使えそうか?」
「ああ。三つだけな」
ふああ〜と欠伸をしたが埃っぽいから噎せてしまった鋏発見者の峰さんを見つつ、ふと変な臭いに気付く。段々濃くなる臭いにこれは、と思い体が硬くなる。この臭いに覚えがあったからだ。
「腐臭がする!何かいるかも!」
「「!?」」
そう声を上げればみんなが警戒するが、臭いもあたししかわからない為みんなは何処にいるかわからない様子。
方向からして、と顔を斜めに向けるとそこにいたのは良君。
「良君の方!!」
「え!?っうわあああ!!?」
良君が声を上げたと同時に机の影から何かが飛び出し、良君に飛び掛かる。老婆の怪物だった。
だが骨が浮き出る程に痩せ細った体の至る所から内臓が飛び出しており、目玉は一つ零れ落ちそうな程飛び出し大きく開かれた口からは鋭利な歯が見え隠れしている。彼らにはアレが視えていなくても、もし噛まれたとしらタダでは済まないと直感した。
「うお!?ババア!?」
「桜井!!」
峰さんと翔ちゃんが声を上げて駆け付けようとするが、ガラクタが邪魔で直ぐには来れない。若ちゃんとスーさんも遠く、一番良君に近いのは、あたしだ。峰さんが鋏を投げようとする前に動く。
「フライパンンンンン!!!」
ズゴンッ!!
ギャアアアアア!!
「おおおおい!?」
先程ゲットしたフライパンを思い切り振りかぶり、良君に噛み付こうとする老婆の頭目掛けてフルスイングすると痛そうな音と共に壁際までぶっ飛んだ。火事場の馬鹿力って本当凄い。
あまりの勢いのよさに吃驚して若ちゃんの目玉が飛び出ている。漫画か。
その間にも青峰少年が駆け付けて来る。
「そら!何処だ!!」
「はいっ!?け、ケツ!!」
「ケツか!!」
「もうちょい言い方あるやろ!」
峰さんに呼び捨てされたからドキッと吃驚して咄嗟にケツって言っちゃった。お尻ですお尻。
倒れている老婆の臀部目掛けてバットを振るが、急に飛び上がり老婆とは思えない機敏な動きで回避し、あたしの方へ飛んで来た。
出てる内臓がゆらゆらしてるううう!!
体ヲ寄越セェェェ!!
「ヒギャアアアアア!!」
「どっせえええい!!」
恐怖に慄きフライパンを両手に持って涙目で硬直していると、気合いの言葉と同時に若ちゃんが突っ込んできてあたしを抱えながら作業台の上を転がり回避。
「青峰貸せ!!」
避けられて地面へ激突する老婆。峰さんがバットを投げ渡すとスーさんが老婆の臀部を思い切り殴った。それはもう腰から下がどっか行っちゃうくらい。だるま落とし的な。そんな可愛いものでもないけど。
血管や骨が千切れた音が聞こえたが若ちゃんに作業台の上で抱えられているので視えなくてよかったと視線を老婆のいる反対側に向けると、下半身が地面を擦り転がりあたしの視界を通って行った。えええええ…。
「諏佐、やり過ぎやで…」
「…スマン」
老婆は悲痛な声で叫ぶとこれまた金の粒子になって消えていった。
「大丈夫か?桜井、そらさん」
「ぼ、僕は大丈夫です!すいません!」
「大丈夫〜…若ちゃんありがと、…おお」
「おう…、っ!?わわわ悪い!!」
峰さんに腕を引かれて立ち上がる良君。あたしも返事して目の前の若ちゃんにお礼を言う。おお、近い!筋肉が!と思っていると、若ちゃんも状況を理解したのか赤面して慌ててあたしを解放し、作業台から飛び降りる。
「こんなとこで盛んなよ」
「青峰ェェェェ!!」
顔を真っ赤にして怒鳴る若ちゃん。
側からみれば押し倒しているように見えたと思う。抱えて避けた結果がそうなっちゃっただけなんだけどね、後から恥ずかしくなってきた。薄暗くてよかったよ。
「埃凄いで」
「じっとして下さい」
作業台とを転がった所為で付いた埃を翔ちゃんとスーさんに払ってもらう。何か凄いみんな色々よくしてくれるけどドッキリじゃないよね?ってかあたしが普通お世話する側だと思うんだけど、年齢的に。
ひと段落ついてから再度探索し、ミシンが積まれている所から峰さんがA-6の黒い紙を発見した。
あとは何もなく、見付けたのは鋏三丁と黒い紙のみ。鋏はスーさんと若ちゃんと良君で持ち、あたし達は探索を終えて戻る事になった。
二体も怪物に会ったのでもう会いたくないと思いながら来た道を戻る。登ってきた階段まで辿り着き今回も帰りは何事もなく帰られそうだと安心しきっていたら、唸り声と共に三階から斧を持った怪物が降りて来た。
「「うわあああああ!!?」」
「逃げるで!!」
あたしと良君が叫ぶ。斧持った鬼なんて聞いてないよ!!みんなにどう視えてるか知らんけど!!
階段ではやり難いと判断した翔ちゃんに声を掛けられ全力疾走で階段を降りる。途中峰さんが遅いあたしに痺れを切らせたのかバットをスーさんに渡してあたしを横に担ぎ、全員でダッシュした。早くて楽チンだけど腹に腕が食い込んで苦しい…。
そして無事に逃げ切れ、体育館に生還した。あの斧の鬼二階から三階に移動してたんだね…。最後まで鉢合わせなくてよかったかも。すっごい怖かったもん。
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